第27話
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第27話》
アラグリッド王国の城壁の西門に全員が集合できたのは、1時間後だった。カペラとシャウラのコンビが最後に到着し、ニコラスに報告していた。何でも、日中にもその畑荒らしのウサギ型の魔獣は現れているようで、被害に遭ったお婆さんの家の畑以外にも被害が出ているらしい。特に酷くやられていたのが依頼のあったお婆さんの家で、被害者を代表して、騎士団に依頼をしてくれていたみたいだった。
こうして実際に民間人が困ってるんだ。助けなければ・・・。
俺は突如湧いてきた妙な正義感に背中を押されながら、鼻息を荒くする。
「アイザック、買ってきたか?」
「はい」
アイザックは突撃部隊の副隊長、アレス・サーロインに紙袋を渡す。中にはリンゴ、ニンジン、パンのミミまでもが入っていた。
この世界でもウサギの好物は変わらないのか。
などと思いながら眺めていると、どれかの匂いに反応したのか、1羽のウサギが草むらから姿を現した。目は黒い。恐らく普通のウサギだ。
「ん?」
それに気付いたのは俺だけじゃなく、それぞれまじまじと見つめ、アイザックが1つ、パンのミミを差し出すとそれを奪うように咥え、どこかへ走り去ってしまった。微笑ましい様子に笑みを溢すアイザックだが、上官のアレスの一言で気を入れ直す。
「魔獣は、稀に気を隠す事ができる種がいると聞く。いくら目が紫色ではないとはいえ、気を抜くなよ」
「はいっ!」
気を付けなくちゃな。俺も今のは安心していた。
単純だが、見た目で疑うな、という事だ。シャークがバッファロー型の魔獣を発見した時も、最初はヨロヨロと歩いているだけで、次第に魔獣化していった様を説明してくれた。という事は、いつ、どのタイミングで普通の動物が魔獣になってもおかしくはない。気を隠す種類もいるとなると、魔獣に関する案件は、割と難度の高い依頼なのだろうという気持ちを抱えていると、ニコラスが口を開く。
「よし、私が索敵してこよう」
と、彼は木を登り始めた。何だ?と見ていると、枝を何度か飛び移り、ここいらで見晴らしの良い高さの木のてっぺんに着いた。
『良いかー、カペラ、シャウラ!陽動部隊は突撃部隊と同じぐらい前線に立つ部隊だ!時には索敵をしなければならない!お前達もその内できるようになれよー!』
初老とは思えないハツラツとした声で呼びかけると、ニコラスは手のひらを空に向ける。
突撃部隊の副隊長、アレスは腕を組んでその様子を見る。そこそこお馴染みの光景なのだろう。
『はぁあ!!!』
ーーーヴゥンッ!!
衝撃波の様な、レーダーの様な波状系の物が空で拡散した。ニコラスは目を瞑り、神経を集中させる。
これは魔法が使えるのなら誰でも習得可能なのか・・・?
俺は先程ニコラスがカペラたちに言っていた事が気になっていた。『お前達もその内できるようになれよー!』という言葉の通り、習得自体はできるのだろう。しかし、精度や範囲は個人差がある、と言ったところだろうか。
集中を解いたニコラスが、木から降りてきた。
「ここから1.5キロ離れたところに、魔獣化した奴らの気配が視える。お目当ての巣だと良いが、ひとまず行ってみよう」
おお、そんな距離まで分かるのか。これは俺も何とか習得したいもんだな。色々便利そうだ。
俺もいつの間にかアレスの横で腕を組んでいると、アレスが口を開く。
「アイザック、コウキ。ニコラスの『魔力探知(まりょくたんち)』は騎士団随一だ。全員が全員、取得できる技ではないが、チャレンジしてみると良い。ちなみに、俺も少しできるが、奴ほどじゃない」
アレスさんもできるのか。
「質問なんですが」
アイザックが手を挙げる。
「僕はまだ自分の魔法で精一杯です。そんな僕でもいずれ使えるようになるのでしょうか?」
いたって模範的な真面目な質問に、アレスやニコラスは笑って返した。
「なぁに、修行を積めば、自分の得意魔法以外の取得じゃなければできるはずだ。研究機関でもそう証明されてる」
「私もここまでの域に達したのはつい何年か前だ。それまで、鍛錬を怠らなかった結果だ。やってみれば、意外とできたりしてな!」
俺を含めた新人4人は、その言葉の通り手のひらを空に向けて集中する。
「〜〜〜〜〜〜・・・、やっぱり無理だな」
ーーーッギィンッ!!
ん?
俺が諦めた瞬間、隣から何かが炸裂した音がした。目を開けてそちらを見ると、カペラの手からわずかだが、波状系の物が展開しており、本人も驚いているようで、目を見開いて周りと目を合わせていた。
「・・・私、できちゃったみたい」
その言葉、別の意味じゃなくて良かったな。
ボソッと呟いたカペラは、自分でも信じられないと言った顔をしていた。
「ははっ・・・」
「これはこれは・・・」
アレスとニコラスも信じられないと言った顔をしていた。
「・・・カペラ、どうだった?」
シャウラが興味津々で彼女に問い掛ける。するとカペラは深刻そうに顎に指を這わせていた。
「どうしたんだ?」
アイザックも少し心配そうだ。変わった様子に、アレスとニコラスも顔を見合わせていた。すると、カペラが思っていたことを口に出す。
「・・・先程のニコラス副隊長の言葉を否定するわけではないのですが、1.5キロ先の地中の巣に加えて、その真上に、人為的に作られた小さなアジトの様な物があると思います」
人為的な物の判別と上下の位置関係も把握できたのか?
それが今はどれ程の精度かは分からないが、少なくともニコラスは信じていたようだ。恐らく、彼も口には出していないが同じような物を視ていたのだろう。しかしそれが上下に位置しているとまでは視えていなかったのかもしれない。
「カペラ」
ニコラスは彼女を呼び付ける。
「お前の魔力探知(それ)は、もしかしたら私を越えるやもしれん。私の元で伸ばす鍛錬をしてみないか?」
とんだ申し入れに、カペラは戸惑う様子を見せた。こんな彼女は初めてソフィアに出会ったとき以来だったので、俺たちは内心面白がっていた。
「そ、そそそそんなありがたいお言葉を、わ、わわ私にですか!?」
「嫌かね?」
どもる彼女の背中を、シャウラが背中をポンっと押し、カペラは一歩前へ出た。
「あ、え、いや、その・・・!こ、ここ、光栄、です・・・!」
やるな、シャウラ・・・!
俺はシャウラの背中から諸々感じ取り、心の中で称賛し、一行(いっこう)は魔力反応があった場所へと向かうのであった。
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第28話》へ続く。
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