第25話
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第25話》
「おはようございます!」
俺は高らかに、朝の挨拶をしながら屋外演習場へと足を踏み入れる。その場には既に俺以外が集合しており、昨夜遅くまで暴れていたカペラは、少し気怠そうにしていた。
マジでオッサンかよ。
そんなツッコミを心の中でしつつも、俺は輪の中に入る。
昨夜は、俺の『無所属』問題を説明し終えてからのみんなの祝福具合が凄かった。そのせいでカペラが浴びるように酒を飲んでしまったので、今のこの二日酔い状態は、俺が招いたと言っても過言ではないが、年上なのだから、そこは自制してほしいものだ。
「よし、皆のもの、集まったな」
突撃部隊長のソフィアが先陣を切りながら、後に陽動部隊長のシリウス、遊撃部隊長のリゲル、防衛部隊長のプロキオンが後に続いて入場し、最後に、騎士団長のカイゼルが現れた。部隊長、及び騎士団長の登場に、俺たち8人は全身を強張らせる。最初に会った時のカイゼルとは違い、どこか威厳があり、リーダーシップの塊かと思う程のオーラがあった。
「一先ずは、ご苦労、というべきか」
カイゼルは静かに口を開いた。俺たちも静かに、彼の言葉に耳を立てる。
「先の王国騎士団の入隊試験においてのアクシデントに対しての迅速な対応、及び、その力の証明。これらの報告が確かならば、我々は君たちの評価を改める必要がある」
ただならぬ雰囲気に、数人がゴクリと唾を飲んだ。
「今この場にいる8名の仮合格を破棄し、正式な合格として、王国騎士団へと迎え入れる事が決定した」
それを聞き、俺たちの気持ちが内側で爆発する音が聞こえた。昨日の事もあり、騒ぎ立てれば容赦なく叱責(しっせき)が飛ぶ。ここはそういう場所であり、そういう時なのだ。
「分かったら返事の1つでもせんか」
『はいっ!!』
俺たちほ歯切れのいい返事を返す。正式に合格ということは、認められた、ということ。俺のここでの存在を。これからこの王国騎士団を通して、元の世界への戻り方を模索しつつ、合格したからには、ちゃんと仕事をこなす。それで生活していけるだろう。幸いにも同期にも恵まれ、上司にも恵まれた。元の現実世界ではなかなか体験し難い事を、こちらの現実世界ではできている事に違和感は感じる。
まぁ、俺元居た世界だと高校生だから上司はまだ
いないんだけどさ。
などと思いつつ、カイゼルの話の続きを聞いた。
「昨夜、プロキオンから通達があった通り、お前たちの配属先は、その様に手配してある。本日、この集まりが終わり次第、その隊へ行き、正式な所属手続きをしてもらう。そしてお前たちは晴れて、この王国騎士団の隊員となる・・・」
全員一人一人と目を合わせ、彼は唇を少し噛み、悔しそうに口を開く。
「私は、今まで、何人、何十人と仲間を失った。その度、悔し涙が溢れるんだ。私より先に死んでくれるな。もう、目の前で誰かが犠牲になるのは見たくないのだ」
そう言うと、カイゼルは黙った。ソフィアも唇を少し噛んでいた。
何だ、昔何かあったのか・・・?
訳がありそうな雰囲気を残したまま、カイゼルは下がり、今度は遊撃部隊長のリゲルがめんどくさそうに口を開いた。手には紙が握られていた。それを開き、中に書いてあることを読み上げた。
「え〜・・・っと、これからみなさんには、各部隊の詰所に行ってもらい、仕事をしてもらいますので、この集まりが終わったら各隊長の後ろに付いてきてください」
彼は紙をしまった。
それぐらい覚えておけよ・・・。
全員がそう思ったに違いない。が、相手は隊長殿だ。迂闊な発言は控えた方が良いだろう。しかし、俺のそんな雰囲気を察したのか、一瞬睨まれた気がした。俺は一瞬たじろぎながらも、平静を装う。あくまで、何も思ってませんよ、と言いたげに。
「さぁ、これにて閉会だ!コウキは一先ず私に付いてきてくれ」
ソフィアが手を叩く。そして各々、配属先の隊長の後に付いて行き、手を振り合っているメンバーもいた。カペラからは羨む眼差しを受けて、今にも襲いかかってきそうだったが、そこはシャウラが羽交い締めにして止めていた。
城内を歩くこと数分。俺はソフィアの後ろを、突撃部隊に配属されたアイザックと共に歩いていた。この城に一時的に住まわせてもらっていたが、やはりこの広さには舌を巻く。と、俺はとある一枚の大きな絵画に意識を逸らされた。
・・・何だ?
それは、ソフィアたちの家族を描いた物なのだろうが、不自然な点があった。それは、恐らく若い頃のセンウィル・アラグリッド国王、その隣にはソフィアに似ている女性。センウィル国王と肩を組んでいる、彼と同じ年ぐらいの男性。そしてその前には、幼い頃のソフィアがいた。
「ソフィアさん、この絵って・・・?」
俺が指差すと、彼女は、あぁそれか、と言いながら答えてくれた。
「右がお父様で左がお母様、手前にいるのが私。お父様たちに挟まれてるのが、この城を施工した『リグラント・グランツ』おじさまよ」
『リグラント・グランツ』・・・。それでグランツ城、か。
「この国では、城を建てた時はその施工主の名前が使われる。敬意を込めてな」
前々から、『アラグリッド王国』なのに『アラグリッド城』という名前じゃないことには違和感を感じていた。しかしそういう理由なら、納得がいく、が。
「グランツさんが2つ、3つと城の施工に関わった時はどうするんです?」
「基本的に、城の施工に携われるのは、1人1回と決められている。代替わりした際は、ファミリーネームではなくてファーストネームが付けられる。コウキの父上が造られた城なら、タニモト城。息子のコウキが作ったのであれば、コウキ城となる」
なるほどな。
声に出さずとも、俺の感嘆の声は伝わっていたようだ。ソフィアが一度頷き、また歩き始めようと背中を向けると、今度は隣で聞いてたアイザックが口を開いた。
「そのグランツさんは、どうしたんですか?僕も王国の出ですが、グランツという名前は聞いたことがありません。これ程の城を造ったお方だ、城に住まわれていてもおかしくはないのでは?」
その問いに、ソフィアの顔が曇る。明らかな雰囲気の変化に、俺は思わずアイザックを肘で押す。
「・・・おい・・・」
「・・・しまった!も、申し訳ありません・・・!」
口を押さえるアイザックは、地雷を踏んでしまったかのように焦り、謝る。重っくるしくなった空気の中、ソフィアは明るく答えた。
「グランツおじさまは、この絵に写された後、亡くなってしまったのよ。お母様を庇って」
彼女は懐かしむようにその絵を見た。
「隣国との戦争中、敵の使った魔獣の兵器がお母様を狙って魔砲撃をしてきた。それを魔力を持たないグランツおじさまが直撃を受け、そのまま・・・」
痛ましく語るソフィアは、拳をギュッと握り、視線の先を絵から天井へと移した。いよいよ本格的にヤバさを感じとる俺とアイザックは、話題を変えようと話を振る。
「と、突撃部隊の方々って、どんな人がいるんですか?!」
「副隊長の人とか!」
その言葉に、一瞬ジトッとした目をしたが、すぐにいつものキリッとした目に戻ってくれた。そして咳払いを1回すると、彼女の足は再び歩き始めた。
「みんな気のいい奴らばかりだ。中にはクセの強い者もいるが、すぐに慣れるだろう」
そう言いながら、俺たちは1つの扉の前に着いた。そこには『王国騎士団・突撃部隊』の立て看板が。いよいよか、と胸が躍るが、部隊の割には規模が少し小さいのでは?と思ってしまった。それは城内のとある1室に部隊の部屋があったからだ。
「さぁ、お前たちの戦いは始まっている。気を引き締めろよ?特にアイザック・オールトン、お前には期待している」
「・・・!!はいっ!!」
俺は・・・?
アイザックの意気込みと、肩透かしを食らった俺の真逆の威勢を保ったまま、俺たちは『王国騎士団・突撃部隊』の部屋へと入っていった。
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第26話》へ続く。
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