第24話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第24話》


俺が紙を開いて固まっている間に、みなが続々と紙を開いて確認していた。


「私は『陽動部隊』・・・、はぁ、ソフィア様とは違う部隊か」


カペラは配属されたにも関わらず、ソフィアが隊長を務める『突撃部隊』ではないことに落胆していた。


「・・・私も『陽動部隊』。カペラと一緒、良かった」


シャウラは安心していた。


「僕、『遊撃部隊』です・・・。大丈夫かな・・・?」


レグルスは自信がないのか、自身を心配していた。そしてアイザックたちのチームも、紙を開いては歓喜に沸き、聞こえてくる限りでは、アイザックが『突撃部隊』、ルナールが『遊撃部隊』、シャークとアルタイルが『防衛部隊』へと配属が決まった。


「・・・どうした、コウキ、さっきから固まって?どれどれ、お前はどこになったんだ・・・?・・・えっ!?」


アイザックは、俺の配属先が書かれた紙を見て驚きの声を上げた。その声を聞き、他のメンバーも何だ何だ?と集合する。そして各々驚きの声を上げる。それもそのはずだ。


「お前、『無所属』って何だよ!?」


アイザックが俺の肩を揺する。そう、俺はどこにも配属されなかったのだ。せっかく仮合格とはいえ騎士団の試験を終え、達成感と、仲間が増えた事による充実感に浸っていた時間は、脆くも崩れた。


俺、もうみんなとお別れなのか・・・。


放心状態の俺を見兼ねて、カペラが肩に手を置く。


「コウキの分も、私たちが頑張るから!」


「・・・うん、元気出して」


それに便乗して、シャウラも哀れみの顔でこちらを見ていた。


それにしても、俺だけ『無所属』っていうのは一体何なんだ?


根本的に納得ができない。俺はまだ店内にいるであろうプロキオンの元へ行こうと個室の扉を開けた。


「うわっ、何だこの人の多さは!?」


俺は、先程とは違う人の量に驚いた。この短時間でここまで席が埋まるか、と小さく溜め息を吐き、どこかにいるはずのプロキオンとシリウスを探す。


この量の中から探せるか〜・・・?ん?


と方々に目を散らすが、一際背中が大きい褐色の、スキンヘッドの男が肩を震わせてジョッキに注がれたビールの様なモノを煽っている姿を発見した。横には青年がその大きな背中をさすっている。間違いなくそこには、プロキオンとシリウスがいた。探す手間が省けて良かったが、何やら様子が変だ。


何だ?


そこへ駆け付ける。


「なぁシリウスぅ・・・、最近うちの娘が『パパとお風呂入りたくない』って言ってくるんだよぉ・・・。嫌われちまったのかなぁ・・・グスッ」


「年頃の女の子なんて、みんなそうですよ」


人生相談してる!!


意外にも泣き上戸だったプロキオンをなだめるシリウスの姿に、思わず笑いが込み上げて来たが、俺は本来の用事を思い出す。


「すいません、今、良いですか?」


声を掛けると、涙ぐむプロキオンと、それをなだめるシリウスが振り返る。


「おう、どうした、コウキ?」


まずはシリウスが俺に声掛ける。


「さっき、プロキオンさんが持ってきた配属先が書かれた紙なんですけど、俺だけ『無所属』ってどういう事なんだろう、と、この文面に納得がいかなくて」

俺は気持ちをそのままぶつける。ここで変に下手に出てしまっては、不合格の烙印が押されて話が流されかねない、と思っていたからだ。すると先程まで女々しく泣いていたプロキオンが、開かれた紙を持って立ち上がる。涙は流れていない。一呼吸置いて、彼は静かに口を開いた。


「コウキ。この配属先の『無所属』ってのはだな、『どこにも属さない』という意味だ」


いや、知ってるよ。


俺は、心の中でツッコミを入れながらも、プロキオンの言葉を聞いた。


「俺の言葉が足りなかったのかもしれんが、お前は、『俺たち隊長が呼び出した時にその部隊での任務に就く』という意味の『無所属』だ」


・・・はい?


「要するにだ、俺が防衛部隊での任務だ!ってお前を招集すれば防衛部隊だし、シリウスが呼び出せば陽動部隊での任務だし。まぁ、なんだ、部隊長会議でお前の行き先を決める時に少し揉めたんでな、だったら全部隊で管理しちまえば良いんじゃないか?ってシリウスからの発案で決まったんだ。頑張れよ」


「はいぃ!?」


最後の『頑張れよ』が心に突き刺さる。


「そんなに難しい事は押し付けないから、安心してくれよ。基本的には野盗やら、防壁に近付いてきた魔獣の撃退及び討伐、王国や人々を守る事が主な任務内容だから。それじゃあな、また任務で会おう」


サラッと最後に大事な事を言ったシリウスは、また泣き始めそうなプロキオンを出口まで促し、彼も会計を済まして店を後にした。ポカンと立ち尽くす俺を現実に戻したのは、後ろから肩を叩いた泉だった。


「・・・大丈夫?」


「ハッ・・・!こうしちゃいられない・・・!」


俺は彼女への回答もなく、個室へと急いで戻る。同期たちにこの事を報告せねば、と勇んで扉を開けると、何やら空気が重くのしかかり、哀れみの視線が一同から放たれて、俺に向く。


「コウキ、君が行った我々への行為、決して忘れはしない、ありがとう」


ルナールは俺の手をがっしりと掴んだ。


「えっ?あの・・・」


「君の勇姿は、まだ俺の中で輝いている!君の分まで、この王国を守ると誓おう」


シャークは俺の肩に手を置き、


「短い間でしたが、お世話になりました。君のおかげで仮合格したようなもんですから」


アルタイルは手を合わせて俺を拝み始めた。


・・・何なんだよ、話させろよ・・・。


「あのさ!」


俺が口を開いた事で、みんなは黙ったが、1人だけ、止まらなかった。


「分かってる、コウキ。みなまで言うな。お前はまた次期を受ければ良い。それまで俺たち、待ってるからさ!」


アイザックのトドメの言葉で、俺は呆れ返った。


「あー、もう!!話を聞いてくれってー・・・」


俺が事の経緯を全て話し終えるまでにそこそこの時間が掛かったことは、言うまでもないだろう。

次の日、俺たちは新人のオリエンテーリングとしての訓練があるらしく、朝、屋外演習場へと集合することになった。そしてまだ誰も、これから起きる事件の事を知る由もなかった。


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第25話》へ続く。

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