第23話
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第23話》
乾杯から、約15分が過ぎた。食事が続々と到着してきている最中、酒の勢いが止まらない者がいた。
「おーう、コウキ!飲んでるかぁ!?」
カペラは俺の肩へ腕を回し、意気揚々と酒を煽る。
シャウラが心配してたのはこれもあるのか。
絡み酒。それは当人は気持ちいいものだろうが、絡まれた方はあまりいい気はしない。この短時間でここまで出来上がるのは、もはや才能の他ならない。それがいくら見た目が綺麗な人だろうと、その酒臭い瞬間だけは、オジサンに見えて仕方がなかった。
「・・・ゴメンね、コウキ。相手よろしく」
俺の斜向かいに座っているシャウラは、我関せずと酒を飲んでいた。
ホントに思ってんのかぁ〜・・・?
と俺が恨めしくシャウラを見ていると、アイザックが口を開いた。
「コウキ、まだうちのチームのメンバーをちゃんと紹介してなかったな」
「あぁ、そうだな、こっちもちゃんと紹介できてないな・・・。だけど・・・」
俺は解放されたが、今度はレグルスに絡んでいるカペラの方を見る。
「こっちはまた今度でも良いか?今紹介しても、本人のイメージが・・・」
「・・・それもそうだな」
アイザックは苦笑いだった。
「じゃあ、ルナール」
呼ばれた狐目の女性はコクン、と頷いた。
「ルナール・フォックスです。魔法は『火』の付与系。自分で言うのも何ですが、そこそこ異質の使い方をしてると思います」
異質・・・?付与系って事は、何か武器を使うって事だよな?
俺があからさまに疑問符を頭の上に生やした様な顔をしていたがため、彼女は革製の袋を渡してきた。
「これを」
「・・・これは?」
重くもなく、軽くもなく。手で持った感じでは、何が入っているかは分からなかった。振ってみても、そこまで重量のあるものではなさそうだ。ルナールは革袋から中身を取り出した。
「うわっ・・・!?骨・・・!?」
彼女が手に持っているのは、動物の頭蓋骨の上半分。思いもよらぬ物の登場に、一瞬引いてしまった。
「これは、私の村で崇めてる『白狐(しろきつね)』のお骨なの。これに魔法を付与します」
「へぇ・・・。って崇めてる骨、持ち歩いてて大丈夫なのか?その・・・、村の風習的な」
「あぁ、それは大丈夫。私、次期村長候補だから」
・・・本人が大丈夫と言うならそうなんだろう。
笑顔で手をヒラヒラと振るルナールは、そう言うとサニーガエルの唐揚げを頬張り始めた。
「じゃあ次に、アルタイル」
「はい」
アルタイルと呼ばれた男は、カペラたちと一緒に入ってきた茶髪の人だった。声質も成人の男性よりも少し高めだ。
「僕は、アルタイル・イーグルハート。『土』の放出系です。カイゼル様に憧れて試験に参加しました」
ほぉ〜、あのカイゼル『様』に、ねぇ・・・。
俺はこちらの世界に飛ばされ、最初に目覚めた朝の事を思い出した。魔法の事なんか右も左も分からず、突然国王の前に突き出されたと思いきや、カイゼルから【ストーンバレット】を浴びせられかけた事。
結構短期な性格なんだよなぁ〜・・・。
そんな事なぞ知るはずもない彼らの夢を壊してはいけないと口をつぐむ。もちろん、ソフィアの事もだ。みんなの前ではキリッとしているが、考えこんでいる姿はとてもじゃないがカペラには見せれないだろう。
あれ、バッファロー型の魔獣を倒した後にカペラはそんなソフィアさんを見てたっけ?
と考えるが、俺はアルタイルへと向いた。
「カイゼルさんと同じ魔法の系統だから尊敬を?」
その問いに、彼は首を横に振った。
「僕は、あのお方の強さに憧れを持っています。かつて『凶星』と敵国に恐れられた、あのカイゼル・ベル様に。しかし、お恥ずかしながら、僕はあまり魔法を上手く扱えません」
そうなのか。前にも聞いたけど、『異名』ってやつはどこまで広まってるんだろうか?
俺は顎に指を這わせる。しかし、そんな俺をよそに、アルタイルは話を進める。
「その代わり、知識は付いていると自負しています。まさか、仮合格とはいえ騎士団に入れるとは思ってもいませんでしたが、少しでも、あのお方に近付けるように尽力します。ところでコウキさん、あなたの魔法は素晴らしかった・・・。まるで・・・」
・・・まるで?
「古代魔法みたいでした・・・」
何ぃ・・・!?
褒められて悪い気はしないが、一般認識されていない古代魔法の事を触れられる人がいる事に、驚きを隠せなかった。恍惚としているアルタイルにカペラが絡む。
「古代魔法っていやぁ、遥か昔に廃れた魔法の事だろぉ?現代にあるのかよぉ?」
彼女はアルタイルの肩に腕を回し、さながら飲み屋のお姉ちゃんにセクハラしようとギラギラしているオヤジのようだった。
「無いかもしれませんし、有るかもしれません」
「曖昧だなぁ」
「だから良いんじゃないですか。ロマンですよ、ロマン」
アルタイルの目は輝いていた。
この人、戦う方より研究の方が向いてるんじゃないのか・・・?
俺がそう思っていると、突然個室の扉が開いた。
『おーう、お前ら、やってるかぁ!?』
入ってきたのはプロキオンだった。脇には何故かシリウスがヘッドロックされていた。
「ちょっ、プロキオンさん、ギブ!ギブ!」
カペラと同じような酔い方をしているプロキオンに、俺は笑ってしまった。ギブアップしたはずのシリウスは未だ拘束が外れずにジタバタしていた。
『プロキオン様とシリウス様ぁ!?』
相変わらず、俺以外の連中は驚き倒していた。本来こんなところで会える人物たちではないという事だろうか。全員が勢いよく起立をしていた。
「プロキオンさん、どうしたんですか?」
「ん?あぁ、そうだった」
俺が問うと、彼はゴソゴソとシリウスをヘッドロックしている方とは反対の腕でポケットをまさぐり、とある紙を8枚取り出した。
「これは・・・?」
「お前らの配属先が書いてある。名前が書いてあるからな。よく読んでおけ、明日から来てもらうぞ!じゃあな〜!」
「プロキオンさん、待って、痛い痛い・・・!」
彼らはそう言葉を残して個室を後にした。まるで嵐の様なひと時に、突然登場した王国騎士団の部隊長2人に、俺以外の7人は言葉を無くしていた。
「と、とりあえず、この紙開いてみようぜ!」
「あ、あぁ・・・。コウキ、お前、ソフィア様の時といい今回のプロキオン様とシリウス様といい、何で緊張せずに話せるんだよ?」
アイザックは俺の対応に引いていたみたいだった。
そんな事言われてもなぁ・・・。
うーん、と唸ってみても答えは出ない。
「いや、そんなことより、これ、開けようぜ」
話をはぐらかしながらも、俺はプロキオンから貰った紙を広げた。
「さーて、俺の配属先はー・・・っと・・・ん?」
俺は、その紙に書いてある内容に目を疑った。
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第24話》へ続く。
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