第22話
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第22話》
俺が個室の中に入ると、既に何人か席に着いていた。俺たちのチームだったレグルス、そしてアイザックのチームだったシャークと黒髪の女性、それとアイザック本人。俺は5番目の到着だった。
「よう、レグルス」
「コウキ兄ちゃん、お疲れ様」
「カペラたちはまだなんだな」
「うん、着替えてくるって言ってた」
「そうか」
俺はそんなやり取りをしながらレグルスの隣へと腰掛ける。真正面にはアイザックのチームの黒髪の女性が座っており、狐目の様に細い目をしているため、目が合っているのかは定かではなかったが、恐らく目が合って会釈をしてくれた。俺も釣られて会釈を返す。
律儀な人だな・・・。
「先に時間が掛かりそうな食べ物を注文しておこうか」
壁に掛かったメニューボードを眺めていたアイザックが切り出す。俺もそちらに目をやると、ここでもまた、見慣れない食材の料理が並ぶ。
「なぁ、レグルス」
「何ですか?」
「・・・サニーガエルのフライって、美味いのか・・・?」
俺は余り口にも出したくはなかったが、どうしても気になってしまった。カエルは元いた世界でも食用で養殖されていた事は知ってるが、実際食べた事はないし、これからも好んで食べる事はないだろうと思っていた。が、ここに来て『本日のイチオシ!』に書かれていたサニーガエルのフライ。
・・・イチオシ、かぁ・・・。
俺はグランツ城での食事風景を思い出していた。サラダやパン、スープが並ぶ食卓にイグニス鳥や雷電魚(らいでんうお)という聞き慣れない食材。肉料理は美味かった、が、魚料理は臭みが酷くて食べれたもんじゃなかった。給仕長のマルナさんでさえ、魚料理はもてなしの料理で飾りみたいなものだと言っていたこともあるが、このサニーガエルはカエルという事で両生類。肉でも、臭みのありそうな魚でもありそうなカエルに、俺はそのイチオシを素直に受け入れる事ができていなかった。
「サニーガエルはなかなか獲れないって聞いたことがあります。僕も食べた事はないですけど、噂によると、あのイグニス鳥より美味しいらしいですよ・・・?」
なんと・・・!
思わぬ情報に俺の胃袋が刺激される。
「それをいただこう・・・」
ジュルリとよだれが出そうだった。俺は指を組み、アイザックに注文を促す。
「後は何か頼みたいものはあるか?なければ俺が適当に注文しておくぞ?」
その言葉に誰も異論がなかったようで、アイザックはメニューボードを見つめ始めた。
『3名様個室案内でーす!』
お?
先程の泉とは違う声が聞こえると、すぐに俺たちがいる個室の扉が開いた。
「みんなお待たせ〜」
カペラを先頭に、シャウラと、アイザックのチームにいたもう1人の男性が入ってきた。試験の時の銀色の装備とは違い、動きやすそうな革地の軽装備で来ていた。そしてカペラとシャウラはこちら側に、男性が対面に座った。男性は茶色のオカッパで、前髪パッツン、遠目から見たら女性かと見間違う髪型をしており、黒魔術でもするのか、と思う程の黒いローブを纏っていた。目もクリっとしており、身長はカペラたちと同じぐらいだった。
「よーし、これで全員揃ったな!じゃあ、まずは飲み物を注文しようか」
そういえばドリンクメニュー見てなかった・・・。
回ってきたメニューを開く。と、そこには食事メニューの時とは違い、意外にも聞き慣れたドリンクが書かれていた。
「オレンジジュースにアップルジュース、ソーダ水・・・。あぁ、何か安心する」
「コウキは酒は飲まないのか?」
え?
「いや、俺未成年だから・・・」
「未成年?何言ってんだ、酒は15歳からだぞ?」
そういえば異世界だということを忘れかけていた。違う世界だということは風習や法律は元いた世界とは違って当然だ。そうだよな、レグルスみたいな少年でさえ騎士団の受験ができる程だ。成人の年齢が低い事だって何ら問題ない。
「何で俺が15歳以上だって分かったんだ?」
「見た目でだいたい予想つくだろ。俺と同じ歳ぐらいじゃないのか?」
「アイザックはいくつなんだ?」
「18だけど?」
本当に俺と一緒だった。何か、一気に親近感増したな。
突然現れた同い年の奴に妙な友達感が芽生え始めた頃、各々ドリンクを注文し始めた。俺はアイザックのオススメをオーダーした。そして程なくドリンクが到着し、1人1人に行き届くと、アイザックが立ち上がった。
「えー、本日はお集まりいただき、ありがとうございます。試験での疲れを癒すべく、存分に飲み、食べ、楽しみましょう。試験では合格を争うライバルでしたが、明日からは互いを高め合うライバルであり、助け合う仲間となります。この機会にたくさん話し、親睦を深めましょう。・・・それでは、皆様グラスを手に取りご唱和ください。今後の王国の平和と、我々の活躍を祈念して・・・、乾杯!!」
『乾杯!!』
アイザックの完璧な乾杯の音頭により、俺たちは気持ち良く乾杯した。グラスが冷えており、常温では出ないであろう鈍い高音が室内に響いた。
ガコンッ!!
全員が一斉にドリンクを飲み始める。隣に座っているカペラの喉からは、重労働を終えた作業現場のオジサンの様な音がこちらまで聞こえていた。
「ぷふぇぁ〜!!うんまい・・・!!」
思わず見惚れる程、彼女の飲みっぷりには潔いものがあった。シャウラの心配も理解できる程、カペラのグラスは既に一息で空いてしまっていた。
見たところビールに近いものなのかな?
俺の前に運ばれた飲み物はフルーツの様な甘味と炭酸のシュワシュワ感が絶妙な酒だった。疲れた体に甘さと爽快感が程よく抜ける。しかしアルコールは殆ど感じず、アイザックがわざわざ気を使ってくれたかと思うほどのジュースのような美味さを気に入ってしまった。
『お待たせしましたー!』
元気の良い女性の声とともに、続々と料理が運ばれてきた。大皿に盛られたサラダ、肉料理の数々、そして誰が注文したのか分からないが魚の皮がパリッとしている蒸し焼きのようなもの。こちらの世界では下処理があまり行き届いてはおらず、臭みがあることから魚料理は敬遠されていた。
「誰だよ魚料理注文したの〜」
アイザックも注文していないようだった。じゃあ一体誰が?と疑問を持ったその時、料理を運んできた給仕嬢の横からヒョイっと泉が顔を出した。
「あれ、どうしたの、泉さん?」
「それ、私が作ったの」
お?てことは・・・。
「白身魚のポワレ。こっちの調味料でどこまでやれたかは分からないけど、たぶん、美味しいよ?」
ま じ か。
フランス料理店の最年少オーナーが作る白身魚のポワレ。本人も納得の出来となると、食べざるを得ない。俺はポワレにナイフとフォークを入れる。身は柔らかく、しかし簡単に解れない程度の弾力を残している。皮のパリッと感も楽しみながらもソースと絡め、口に運ぶ。ナッツの香ばしさと果実の様なフルーティさがなんとも言えない。魚の臭みもなく、異世界で食べているという情景さえなければ完璧だった。
「美味い!美味いよ、泉さん!!」
「ホント?良かった・・・!」
俺がそんな美味しそうに食べるもんだから、アイザックや他のメンバーたちもこぞってフォークで突き、あっという間になくなってしまった。
「泉さん、これおかわり!」
「はいっ!」
初めて彼女の料理スキルを目の当たりにし、美味しい料理、お酒により、楽しい宴会が始まった。
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第23話》へ続く。
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