第17話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第17話》


・・・どうする?


俺は、10数メートル前を逃げ惑うアイザックたちを前に、2つの考えが争っていた。1つは、このまま静観してあのバッファロー型の魔獣が他の奴らを蹴散らしてくれるのを待つ、か、アイザックたちを助けるか。


受験者たちで力を合わせれば倒せる程の魔獣なのか、それとも・・・。


騎士団側が用意した、受験者たちを振るいに掛けるための強い魔獣なのかは分からないが、少なくともアイザックのいるチームよりかは強いのは確かだ。


「う〜ん・・・、アレも倒すとなると、一筋縄じゃいかないだろうな」


「そうね、でも少し様子がおかしいわ」


カペラは何かに気付いたようだった。


「アレ見て」


俺たちは、彼女の指差す方を見る。明らかにアイザックを差している。


「アイツがどうかしたのか?」


「・・・あ」


カペラが伝えたかった事を、シャウラも気付いた様子だった。


「・・・彼、泣きながら逃げてる」


「泣きながら?」


それのどこに様子がおかしい要素があるのか、俺には正直さっぱりだったが、恐怖を感じるその物体から逃げ惑う事に、涙は流さざるを得ない状況以外に何を感じ取ったのか。カペラとシャウラは顔を見合わせた。


「アレは、紛れもなく、ただのアクシデントだと思うの」


「・・・迷い魔獣」


ん?


「どういう事か説明してくれ」


「さっきのコウキの話だと、あのアイザックという青年は3回目の受験だったな?」


「あぁ、本人もどこか誇らしげだったがな」


「試験が過去同じものだったとして、あんなのに追いかけ回されてもう一度受けたいと思うか?」


あ・・・。


「恐怖で泣きながら逃げ惑うまで追い詰められる極限の状況に毎回なりながらも、更にまた受けようとは、決して思わないはずだ」


そういえばそうだ。だとしたら、今アイツを追いかけ回しているあの魔獣は・・・。


「そう、あの魔獣は、完全にただのイレギュラー。アクシデントなのよ」


マジかよ・・・っ。


「カペラたちは、魔獣と戦った事はあるのか?」


俺の問いに、彼女たちは答えた。


「小さいモノなら、片手で数える程倒した事はあるけど・・・」


「・・・あんなに大きいのは初めて見た」


2人共初めてか・・・。


と、俺はレグルスをチラッと見やる。


「・・・・・・・・・」


案の定、体を固まらせて震えていた。


俺でさえ震えるんだ。年下のレグルスが恐がるのも無理もない、よな。


などと思っていると、アイザックたちの様子が変わった。


『いつまでも逃げてばっかじゃ負ける!反撃するぞ!』


『おう!』


『やぁぁぁ!!!』


と、彼らは魔法を使って反撃を繰り出した。


ボォン!ズガッ!シュパンッ!ドゴォッ!


・・・何か心許(こころもと)ない音だな。


4つの魔法を同時に受け、バッファロー型の魔獣は衝撃で出た煙に巻かれた。

しんと静まり返るアイザックたちと、隠れて見ている俺たち。


『・・・やったか!?』


おいおい、それはやってないフラグだぞ、アイザック。



ブゴォォォォォォォ!!!!!



『うわぁぁぁ!?!?!?』


やっぱり。


普通なら緊迫していそうなこの状況でも、何故だか彼が関わっているとコミカルに変わる。不思議な雰囲気を持つアイザックだが、どうやら本当に苦戦を強いられているようだった。だが、バッファロー型の魔獣の毛皮が少し焦げている。通常の魔法が効かないわけではなさそうだ。


(俺の【エアロブラスト】でいけるか・・・?)


「え?【エアロブラスト】?」


ボソッと呟いたつもりだったが、カペラには聞こえていたらしい。


「あ、いや、俺の魔法でも効くのかなぁ〜、って」


ちょっと待てよ?俺の魔法の現象なら、当たれば倒せるんじゃないか?


俺は自分の魔法、『風』の古代魔法【エアロブラスト】の現象を思い返していた。クシャミから派生し、命中した部分を中心に抉り取るような風の魔法。まだ全てを解明したわけではないが、大雑把にはこんな感じだろう。


もし本当に『風で抉り取る魔法』だとしたら、それを魔法で防いだプロキオンはやはり凄い人なんだなぁ。


妙なところに感心していると、目の前で戦っているアイザックたちの戦況が押され始めているのが目で見て分かった。



ブゴォォォォォォォ!!!



バッファロー型の魔獣は、その禍々しく湾曲した両角に魔力を集中し始めた。


来る・・・、何かヤバイものが!!!


肌に感じるビリビリとした、恐怖を具現化した様な空気感に一瞬圧された瞬間、その魔獣は角から魔法を放った。辺りは光に包まれ、収束したと思えば、その収束した場所から大爆発が起こった。



ドォォォォォォンッッッ!!!!!!!!!



鼓膜を破りそうな程の大爆発に目を瞑り、再び開けると、そこにはアイザック達のチームが4人、焦げた状態で力なく横たわっていた。指先がピクッと動いていたことから死んではいないだろうが、このまま放っといては魔獣に殺されかねない。


・・・えーい、ままよ!!!


意を決して、俺は隠れていた茂みから飛び出した。


「え!?何やってんのよ!?」


カペラを初め、シャウラとレグルスも驚きの表情をしていたが、流石に感じの悪いアイザックがあんな状態でも、出ていかずにはいられなかった。それはただ、彼らに死なれては寝覚めが悪い、というのもあったが、一番の理由は、


俺の【エアロブラスト】なら・・・。


というのが大きかった。どこまでやれるかは分からない。もしかしたら効かないかもしれないが、リスクを冒さずして成功なし、というのが頭にある。これは賭けだった。


「これで死んだら、リンたちに何て言えば良いかな・・・」


ふいに思い出した、元の世界にいる幼馴染の事を気にかけ、俺は勇みながらバッファロー型の魔獣と対峙した。


「来い!!!」


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第18話》へ続く。

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