第18話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第18話》


俺の叫んだ声に、バッファロー型の魔獣は反応した。アイザック達に襲い掛かろうとしていた足を止め、俺の方へと顔を向けた。



グルルル・・・・・・。



虎の唸りにも近いその重低音に、俺は一瞬足が竦(すく)みそうだったが、深く呼吸をし、頭を働かせた。冷静に対処してもダメな時はダメだが、何故だかこの時は、自信があった。自分の扱う『風』の古代魔法、【エアロブラスト】に。


うわー、怖えー・・・。


改めて見ると、そのデカさがモノを言う。威圧感の中にも、自制する気のない野生の本能が混じり、その上魔法も使う。


こんなのが王国にでも入ったりしたらパニック間違い無いな。


俺たちが全力を出したところで、敵うのかは分からない。しかし先程アイザック達が放った魔法も、効いてないわけではなさそうだった。ゲームの世界で考えるならば、恐らく、奴の防御力がアイザック達の攻撃力を上回っているのだろう。


「モノは試しだ!!」


と、上着の右ポケットに手を突っ込み、ある物を手に取ろうと探った。しかし、手には何の感触もない。


・・・あ、あれ?


まさかとは思い、左のポケットにも手を突っ込む。


・・・・・・。


無言でズボンのポケットも手を突っ込み、確信した。


・・・俺、ペッパーミル持って来てなかった。


意気込んで飛び出したは良いものの、攻撃手段はあるものの、弾もないわけではないものの、肝心なトリガーがない事に、今ようやく気が付いた。


「・・・ダメかも・・・っ!」


バッファロー型の魔獣は、そんなものはお構いないに突進してくる。



ブゴォォォ!!



「うおっ!!?」


間一髪で横に飛んで避けるも、すぐに反転して再び突進してきた。しかしそんなに速くはない。ただ重量感が凄く、まるで4tトラックが迫ってきてるようだった。


当たったら骨折じゃ済まないかもな。


『【アクアレイブン】!!』


「え?」


俺に何かトラブルがあったのを察したのか、『水』を纏った矢が、バッファロー型の魔獣の首元に突き刺さる。しかもその放たれた矢は、一番最初に受験者たちに牽制で放ったような威力ではなく、明らかに標的目掛けて、突き刺さる様な一撃だった。振り返ると、カペラが腰を落として、足で踏ん張って構えていた。


「うーん、目を狙ったはずなんだけど、ズラされたかな?」


「・・・当てるだけ上出来」


「僕も援護なら・・・!」


先程まで戦う事を躊躇(ためら)っていた3人も、いつしかやる気になっていてくれた事が素直に嬉しかったが、俺が今のところ何もできないという非常事態に焦っていた。


何かクシャミを誘発できる物は・・・。そうだ!


俺は頭の中に1つ、思い浮かんだ。


「誰か、山とか植物に詳しい人は!?」


「・・・私、詳しいよ」


シャウラは手を挙げた。俺はこれ幸いと、彼女に指示を出す。


「この山に自生してる、ファサファサした、人体に何ら影響のない草を一本取ってきてほしいんだ!」


我ながら、この非常事態に何言ってんだ、と思いながら声を発したが、シャウラは疑う事もなく親指をビッ!と立てて走って行った。


「アンタね、この非常事態に何言ってんのよ!?」


全くもって同じ事を先程思いましたよ、カペラさん。


愛想笑いで返す。別に秘密にしてる訳でもないし、古代魔法だと言っても現物を見た事ない人たちにとっては何のこっちゃ分からないと思うが、一応言ってみる。


「俺の魔法は、クシャミしないと出ないんだよ!」


大方、こういう事を言えばどういう反応が返ってくるかは想像できた。


「はぁ〜!?」


・・・うん、やっぱり、この反応だったな。


「すまんが、本当なんだ」


「2人とも、来ますよ・・・」


俺たちがそんなやり取りをしている最中、静かにしていたレグルスが俺たちの意識を魔獣へと戻してくれた。



ブゴォァァァァ!!!



カペラの一撃により、怒り度が上がっているようにも見えたバッファロー型の魔獣は、まさに猛牛かの如く後ろ足で地面を蹴り払っていた。


「シャウラが戻るまで何とか耐えよう!俺の魔法で何とかなんかもしれん!」


「何か知らないけど分かったわ!」


「はいっ・・・!」


構えるカペラとレグルス。


「【アクアレイブン・剛矢(ごうし)の型】」


カペラは、左手首に着けている小型のクロスボウの形を、魔法の付与の力を使って変えた。クロスボウを媒介に、横に広がり、幅が太くなり、見た目からも重厚感の増した、薄く光る水の剛弓が完成した。


「はぁぁぁぁ・・・・・・!!!」


そこに魔力を込める。ズォッと吸い込まれそうな程、彼女は水の剛弓に集中していた。


「ごめん、一撃放つのに結構魔力使うから、時間稼いでもらえるとありがたいのよね・・・っ!」


少しでも集中を切らすと魔法が暴発でもしてしまうのか、均衡を保つのに精一杯のカペラは、この短時間で額にうっすら汗が滲んでいた。


「僕も行きます・・・!【ロックキャノン】!」


レグルスは、2つ目のチームに大打撃を与えた『土』の魔法をバッファロー型の魔獣に向けて発射した。ブォンッという風切り音を発しながら、一直線に飛んでいく。



ズガッ!!!



ブゴォォォ・・・!!



「よしっ・・・!」


命中し、小さくガッツポーズしたレグルスの顔は、強張っていた時よりも生気が宿っており、口角も少し上がっていた。


さっきのより、飛んでく速度が全然違った・・・。やっぱり、人間相手だったから手加減してたのか。


頭部に【ロックキャノン】が命中したバッファロー型の魔獣は軽い脳震盪(のうしんとう)を起こしたのか、足元がおぼつかなくなっていた。


このよろけ具合なら、魔法を使わずとも翻弄できそうだな。


「レグルス!俺が動き回って注意を引く!隙があったらどんどん打ち込め!カペラが撃てるようになるか、シャウラが戻ってくるまでもたせるぞ!」


「はいっ・・・!」


俺は一先ず足で、レグルスは魔法で、自分の役割を果たす為に奔走する。


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第19話》へ続く。

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