第16話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第16話》


カペラとシャウラは、エドワーズと呼ばれる男を目の前に、一筋の汗を垂らしながら歯を食いしばっていた。


「何でアンタがここにいるのよ・・・!!」


「・・・不愉快」


ん、仲悪い、のか?


俺はただならぬ雰囲気に横槍を入れてしまった。


「なぁ、カペラ、シャウラ、この人は?」


「申し遅れたね。僕はエドワーズ・アテンサム。彼女たちの幼馴染だよ」


エドワーズは不自然な程の満面の笑みで俺に近付いてきた。が、間にカペラが割って入った。


「ちょっと、私の質問の答えがまだなんだけど?」


この気迫に、エドワーズはやれやれ、と言った顔で答えた。


「僕も騎士団には興味があってね。僕の魔法がどの程度通用するのか試したくなったんだよ」


彼は右の掌に小さな竜巻を発生させた。


『風』の放出系、か・・・?


「また昔みたいに手伝ってやろうか?あの時みたいに・・・」


そう言うと、エドワーズは凄んだ。その顔は絵に描いたように不気味で、俺でさえコイツは何か企んでやがる、と考えなくても分かってしまう程だった。


カペラたちの間に、一体何があったんだ・・・?


「・・・・・・っ!!」


明らかに動揺をしている2人、そんな張り詰めた空気の中、後から追い付いてきたであろうエドワーズの他のチームメイトがやってきた事で、彼は緊張を解いた。


「まぁいいや、ここで会ったという事は、またいずれ戦う事になる。それまでオアズケだ」


そう言うと、彼は他のチームメイトを引き連れて俺たちから去って行った。それからしばらく黙っていたカペラとシャウラ。俺は痺れを切らし、彼女らに彼の事を聞いた。


「なぁ、さっきのエドワーズって奴、何なんだ?」


俺も正直不快なところはあった。『また昔みたいに手伝ってやろうか?あの時みたいに・・・』なんて言う奴、ゲームや漫画でも嫌な奴と相場が決まっている。


「エドワーズは、私たちの幼馴染なのは違いないんだけど、やり方が気に入らないのよ」


「やり方・・・?」


はて、何のやり方だ?


「私たちの町、テオラルスでは生活の為に動物の狩りが許可されているんだけど、それをアイツは、命を頂く行為を残虐なゲームだと解釈をして、極限まで追い込んで弄んでから殺すの」


何だそれ・・・。


確かに、俺たちが前にいた世界でも、狩りは特別な位置にあった。それこそ、カペラやシャウラの様に生活をする為に狩る者もいれば、趣味や娯楽の1つで狩りを楽しむ者もいた。今の話を聞く限り、エドワーズは後者の、よりたちが悪い部類なのだろう。


「しかも、アイツは手伝うだなんて言ってたけど、私たちからしたら邪魔の何者でもなかったわ。大きな音を立てて動物は逃げるわ、同行者に怪我させるわ・・・」


とんでもない奴だな。


「だから、アイツの言葉は信じられないし、存在としても好きじゃないのよ」


凄い嫌われてんな。分かるけど。


俺たちがそんな話をしていると、レグルスも口を開いた。


「カペラさん、シャウラさん、やってやりましょう・・・!僕も見返したい奴がいる、カペラさんたちもそういう奴がいる。お互い頑張りましょう・・・!」


思っていた以上に、彼は今の話を受けてやる気が出ていた。同じような境遇の人が身近にいるというだけで、彼にとっては勇気が与えられたのだろう。まだ試験の序盤で結束力が高まるのは良い傾向だ。こうしている間にも、続々と落ちていく受験者がいるだろう。俺たちもやられない様に気を張っていないといけない。


このまま上手いこと行けば良いのだろうが・・・。


と思った矢先だった。



ドォン!!!!!



少し短めの爆発音がした。


爆発音しかしねぇな、この試験。


半ば呆れながらも、俺たちはその音のあった方へ耳を傾け、顔を向ける。相変わらず、俺たち以外のチームは血気盛んな事に、気持ちを再度引き締める。


「よし、俺たちならできる!みんな、頑張るぞ・・・ん?」


俺は、こちらに近づいて来る走る足音を逃さなかった。


誰か来る。


4人、顔を見合わせて茂みに隠れて様子を伺う。すると、どこかで見たことのある赤い髪のイケメンがチームメイトを引き連れて走っていた。


「何だ、ただのアイザックか」


しかし誰かを追っている様ではなく、むしろ必死に何かから逃げている様にも見えた。自信家の奴があっさり負けを認めて、それを認めなかった奴らが追いかけ回している、そんなところだろうか。


「知ってる奴か?」


「ん、あぁ、試験が始まる前に話しかけてきた奴だ。本人曰くこの試験自体は3回目らしい」


カペラは、ふむ、と黙り込んだ。次はシャウラが口を開いた。


「・・・魔法は?」


「さぁ〜。その時は俺が弱そうに見えて、子分にしてやる、って言われたぐらいで何も聞いてないな〜」


「この試験3回目って事は、そんなに強い人じゃないのかも・・・」


「あ〜、それは言えてるかも」


レグルスは冷静に分析していた。


性格で判断して悪いが、そこまでの強さをアイツからは感じられないのは確かだ。何というか、口だけというか。


もしかして、強そうな奴を囲って味方に付けようとしてた、とか?


勝手な思い込みはさておき、アイザックたちの雰囲気は、こちらまで心配になりそうな程だ。ここまで奴を追い込んだ猛者の方にも興味が湧いてきた。


一体どんな奴が相手なんだ?


と追って来てるだろう辺りに目をやる。


「げっ!何だありゃ!?」


俺は目を疑った。


「何であんなのがここにいるのよ!?」


カペラたちも驚いていた。それもそうだろう。何故なら、アイザックたちを追いかけていたのは人間ではなく、まるでバッファローをデカくし、さらに角を禍々しく曲げ、目には紫色の閃光を帯びた、『恐怖』を具現化したようなモノだったからだ。体高だけで5mはありそうだ。


「・・・魔獣」


シャウラがボソッと呟いた。


「何だって!?」


おいおい、そんなモンも相手しろってか・・・?


俺はこの時、正直手が震えていた。これが武者震いなのか、恐怖によるものなのかは、この時はまだ分からなかった。


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第17話》へ続く。

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