第15話
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第15話》
意気込むカペラは、腰に付けているカバンからクロスボウの様な物を取り出し、それを左手首に装着した。そしてそれに魔力を込め始めた。まるで猿の様に大木をスルスルと登っていき、こちらに来ていた受験者たちを見下ろせる高さまで行くと声を上げた。
「先手必勝よ!【アクアレイブン】!!」
その言葉に、4人の受験者たちは上を見上げた。彼女の魔法は『水』の付与系。その場から無数の水の矢を放つ。
『うわぁぁぁぁ!!!!』
おお・・・?効いてる!?
衝撃で土煙が上がるが、カペラの放った矢は、1撃も彼らにダメージを与えていなかった。
・・・あれ?
俺や、受験者たちも疑問に思った瞬間だった。彼らの死角から、シャウラが飛び出した。
「・・・【赤光砲(しゃっこうほう)】」
シャウラは彼らに右手をかざす。刹那、真っ赤な炎が、大砲の様に爆発を起こした。
ドォォォォォン!!!!!!
正直に言うと呆気に取られていた。カペラとシャウラのコンビネーションもさることながら、俺が一番に驚いたのは、前衛と後衛が逆だったということだ。俺は第一印象でカペラを前衛、シャウラが後衛だと思っていたが、実際はシャウラは近距離で『火』の魔法を放つ前衛で、カペラが左手首にクロスボウを装着し、『水』の矢で攻撃や牽制をする後衛だったのだ。
「どんなもんよ!」
カペラが木から降りてきた。爆炎による煙が晴れ、2人は攻撃を加えた受験者たちの様子を伺う。結果は案の定4人とも気絶していた。と、シャウラがそのチームのリーダーであろう男を、しゃがみこんでツンツンしていた。起こそうとしていた。
「・・・う〜、ん・・・?」
「・・・起きた」
シャウラはツンツンする指を止めた。
「・・・まだ、やる?」
彼女は禍々しいオーラが見えんばかりの威圧感と共に、右手をそのリーダー格の男の顔に向けた。
「やっ、待て待て!・・・降参だ。参ったよ。強いな、アンタら」
その男はよっこらせっと立ち上がると、他の仲間を起こしてアラグリッド王国の防壁内へと入って行った。その見送った背中たちは悲しく、4人とも肩を落としていた。
「・・・何か、あっさりしてんな」
「また受けるんじゃないの?試験は一度しか受けられないなんて事はないし」
そういえば始まる前に話をしたアイザックは3回目だとか言っていたな。
そんな事を考えていると、不意に悪寒を感じた。ゾクゾクっと嫌な感覚が辺りに充満している。それを3人も感じた様で、それぞれが別の方向を向いて警戒態勢を取った。
「どこからだ・・・?」
俺が見ている北側は異常なし。他の3人はどうだろう?とカペラ、シャウラ、レグルスの順に視線を送る。が、誰からも報告は無し。気のせいか?と気を抜いた瞬間、『風』の攻撃魔法が降ってきた。
「上か!!??」
俺は叫ぶ。その風魔法は幸いな事に俺の頬をかすめ、敵の位置を知らせてくれた、様に思っていた。先程のカペラとシャウラのコンビネーションみたいに、1人が頭上から、何人かが地上から攻撃されるかと思い、一度上げた顔を下に戻す。が、そちらにも誰もいない。むしろ近くの地上に誰もいる気配がない。
どういうことだ・・・?どこにいる・・・?
気配も影もない事態に不気味ささえも覚えた頃、他の3人が集合した。
「固まっていた方が良いかしら?」
「ど、どうしましょう・・・!?」
「・・・私が炙り出す?」
全員の言葉の最後に疑問符がついている。判断を誰かに委ねたいのだろうか。
魔法の経験は少ないが、仕方ない。ここは俺が仕切ってみる、か・・・?
俺はこういう曲面に、正直奮い立っていた。自分は魔法の知識も、経験も浅い。クシャミをしないと発動できないというリスクもある。かと言ってバトルロイヤルの経験があるかと言えば、携帯ゲームで少しやった程度。作戦もクソもないが、試してみたい事があった。
「みんな、耳を貸してくれ」
と、俺たちは無防備にも身を寄せ合って密談を始めた。敵からしてみたら格好の的だろうが、無闇に攻撃したら何か返されるのではないかと猜疑心(さいぎしん)に苛(さいな)まれるだろう。俺は試したい事をみんなに耳打ちした。結果は全員賛成。頷くと同時に、一斉に王国の防壁に向かって走り出した。
「行けぇ!!」
全力で走ると、ものの数十秒で防壁へと辿り着いた。そして全員壁を背にして向き直る。敵から見たら逃げたと思い、追ってくるだろう。しかも向こうも、俺たちが防壁の方へ逃げたというのが分かれば、やる事は一つ。
追い討ちを仕掛けてくるはず・・・。
その追い討ちを逆手に取り、まずはシャウラに、レーザーの様な炎を出し続けてもらい、横に薙ぎ払ってもらう。
「・・・はぁぁぁ!」
木々が高温で一瞬で炭に変わっていくのが目で見て、匂いで分かったが、敵側に何の手応えもない事は計算済み。何せ初手の攻撃は上から来たんだ。この攻撃は牽制に過ぎない。次はカペラだ。先程の【アクアレイブン】を手当たり次第に目に見える木全てに連打してもらう。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ズドドドドドドドドドドドッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!
水の矢が凄い速度で連射されていく。数は追い切れないが、引くぐらいの数だという事は分かった。そして相手が木の枝の上にいた場合、この攻撃ではそこにいられないだろう。下は炎のレーザーが薙ぎ払い、今いる所はその内水の矢に射抜かれる。逃げ場がなくなった相手は必ず、
「そう、狩る気でいる奴らが引くはずがない。俺たちの上に来るしかないって事だ」
俺は右上を指差す。そこには俺の予想通りの展開があった。4人まとめて、攻撃の避けようがない空中にいたからだ。
「とどめだ!やれ、レグルス!!」
「はいっ・・・!【ロック・キャノン】!!】
放たれた推定直径3mの大きな岩が、名前の如く、その大きな岩は大砲から打ち出されたように、奴らに向かって一直線に飛んでいく。
これは流石に避けれないだろう。
案の定レグルスの【ロック・キャノン】は命中した。
ドゴッ!!
鈍い音と共に奴らは落下してきた。しかしそこそこの高さからの落下となると、かなりの衝撃が体には訪れるだろう。ガサガサと木の枝に何かがぶつかる音を聞きながら、落ちた場所へと急ぐ。
「おい、大丈夫か!?」
枝がクッションになったのか、襲ってきた奴らは見事に伸びていた。息もある。死んではいない事に安心した。
「それにしても、レグルス!お前凄い魔法じゃないか!」
突然俺が声を上げた事に、彼は驚いていた。ビクッと体をさせ、まるで叱られているように縮こまった。
「いや、あの・・・、ありがとう、ございます・・・」
レグルスは褒められて照れ臭そうだ。
「さてと、これで2チーム潰したわけだ」
「最初の爆発音で1チームやられたとしたら、私たち含めて後7チームはいるって事ね」
まだ結構いるな。
戦いを避けているチームも中にはいるんだろうか?はたまた、好戦的に戦いを挑んでいる奴らもいるんだろうか?先程の様に上手くいくことなんてもうないだろう。
本番はここからだな・・・。
『お?カペラにシャウラじゃないか。奇遇だな、こんなところで会うなんて 』
青年の男性の声に反応して振り返ったカペラとシャウラ。その後に振り向く俺とレグルス。そこにいたのは銀髪の男性だった。カペラたちよりも少し年上に見えるのは、その身長の高さからだろう。彼女らは、彼を見た瞬間にピリッと緊張の糸を張らせた。
「エドワーズ・・・。アンタも受けてたなんてね」
誰だ・・・?
ただならぬ緊張に、俺たちもいつの間にか体を硬らせていた。
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第16話》へ続く。
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