第14話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第14話》


「結構待つんだなぁ」


俺は辺りを見渡す。防壁の外はすぐに木々が視界を覆い、鬱蒼(うっそう)としている。ここに来る間に何組かと遭遇したが、みんながみんな殺気立っており、シリウスから聞いていた話よりだいぶおっかない事になりそうで仕方がなかった。今は待機場所に着いて、合図を待っていた。場所は東西南北で言えば、グランツ城を中心にあるアラグリッド王国の西側の防壁に、俺たちはいる。


「そういえばコウキ、アンタの魔法は何なの?」


ドキィッ!!


先程自己紹介で聞かれなかった事を良いことに、このままやり過ごそうと思っていたが、やはりそうはいかないようだった。カペラは自身の腰に手を当て、俺を見ていた。


「・・・俺は、『風』の放出系・・・?」


「何でアンタが聞いてんのよ」


いや、俺だってこれであってんのか分かんねぇんだよ・・・。


古代魔法自体がよく解明されていない為、濁すしかない、が、『風の古代魔法』と呼ばれる【エアロブラスト】は付与系ではない事は確かだ。クシャミに乗せて放出しているという方が、まだ理解できる。理解はできるが、果たして本当に放出してるのかという疑問も残る。それは初めてクシャミをし、【エアロブラスト】を泉の部屋で発動してしまった時の事だ。俺自身目を瞑ってしまい、全てを見ていたわけではないが、クシャミをし、目を開けた時に目に入った光景は、『抉り取られた様な後の壁と天井』。この『抉り取られた』という表現が的確で、壁や天井の破片がどこにも無かったというのが不思議なところだ。


「ところで、何でみんなは王国騎士団に?」


俺は思わず話題を変える。最初に答えたのはカペラたちだった。


「私たちは騎士団に入って、故郷に駐屯所を置きたいの。凶暴な魔獣の出現の報告が最近増えてきたから」


「・・・故郷はテオラルス」


うん、名前を言われても分からんな。


カペラとシャウラには悪いが、俺はこの世界の地理は全く分からない。アラグリッド王国がどの位置にあって、そのテオラルスもどの位置にあるのかももちろん知らない。


「テオラルスは遠いのか?」


「うーん・・・、王国からは休まずに歩いて丸2日掛かるかな。小さい町ではないんだけど大きくもないかな」


休まずに歩いて、か。じゃあ今回の試験には相当な意気込みがあるわけだな。てか、その道をシャウラも歩いてきたっていう事だよな・・・。


性格や見た目がアウトドア派のカペラに対し、シャウラの性格や見た目はどちらかと言えばインドア派の人間だろう。必要な事以外はあまり喋らない彼女も同じ熱量で臨んでいるのだと考えると、彼女らの思いは相当なものだと垣間見える。


「なるほどな〜。レグルスはどうして騎士団に入ろうと思ったんだ?」


俺は、カペラの後ろに半ば隠れていたレグルスにも聞いた。彼はやはりどこか自信がないのか、口を噤(つぐ)み、表情を曇らせた。先程と言い、何か訳がありそうな雰囲気に、俺はもしや、と1つ考えを巡らせた。そして、レグルスに目線を合わせる為に片膝(かたひざ)を着いた。


「・・・レグルス、周りが大人だらけだからって緊張してんのか?」


レグルスは黙った。


「防衛部隊長のプロキオンさんが言ってたぞ。若い奴も熟練した奴も関係ない、試験でぶっ飛ばせって」


俺の言葉を、レグルスだけじゃなく、カペラとシャウラも黙って聞いていた。


「年は俺のが上だけど、魔法の年数に関してはお前のが上だと思うぞ?なぁに心配するな、レグルスに何かあったら俺が全力で守ってやる!その代わり、俺に何かあったら俺を全力で助けてくれ。俺たちはチームであり、友達だ」


俺は右手を差し出す。先程まで黙っていたレグルスも俺の手を取った。


「・・・ありがとう、コウキ『兄ちゃん』・・・!」


「コウキ『兄ちゃん』・・・!!」


俺は彼からの言葉に思わずそのまま返してしまった。元の世界の俺に兄弟はいない。もし弟がいればこんな感じになるのか、と歓喜の極みに陥った。


「・・・僕、村でいじめられてたんだ」


意を決したレグルスが思いを口にした。


レグルス、いじめられてたのか・・・。


「騎士団に入ってそいつらを見返す為に、試験を受けようと思ったんだ・・・」


「・・・レグルス、よく言った」


そんな彼を見兼ねて、シャウラはレグルスを優しく抱き締めた。銀色の装備を纏っているにも関わらず、何故かバフッと肉感のある音と共に、レグルスの顔面は彼女の胸元に埋まった。逃れようと軽くジタバタとする彼だが、女性とはいえ年上のシャウラの方が力が強く、抵抗虚しく手がダラーンと垂れた。


「シャウラァァァァ!!!???」


「・・・あ、ゴメン」


カペラが慌ててレグルスを引き剥がす。


何と羨まし・・・いやけしからん。


若干の嫉妬心を抱きながらもそんなやり取りをしていると、少し遠くの方、グランツ城のある辺りから1つの閃光が音と共に上がった。



パァァァァァァン・・・・・・!!!



それは開始の合図、開戦、とも取れる今回の試験は、その1発で俺たち4人の緊張の糸が張られた。


「始まった・・・!」


誰かが俺たちに狙いを定め、襲い掛かって来ないか警戒するが、開戦されて最初の一撃は、俺たちがいるところから近い場所から聞こえた。



ドォォォォォン!!!!



爆音と共に噴煙が巻き上がったのを確認したのは、距離にして数十メートル北の方からだ。


「よーし・・・。やってやるぞ・・・ってアレ!?」


俺は意気込みを削がれる様に首根っこを引っ張られ、木々の中へとカペラに連れ込まれた。ドサッと音が鳴る勢いで乱暴に離され、何事かと口を開こうとする前に、彼女の手によって俺の口は塞がれた。


「む、ぐぅっ・・・!?」


何だ、どうした!?


そして、シーッと人差し指を口の前で立てて俺に向ける。カペラは小声で俺に注意した。


「こんなど真ん中で意気込むなんてアホの極みよ!誰かに見つかったらどうするのよ?」


ん、それもそうだな。


「いや、すまんかった、妙にテンション上がっちまってな」


「分かるわ〜、私も狩りの前は気分が高まるもの」


カペラの目は、既に狩人の様にギラついていた。ふと隣を見ると、シャウラとレグルスも同じ様にしゃがみ、息を潜めて辺りの様子を伺っていた。


「さぁ〜・・・。いつでも現れなさい・・・」


意気込むカペラ。



ガサガサッ!



と、その時、少し南側で草を掻き分けてこちらの方に向かってくる奴らが目に入った。


なるほど、さっきみたいにど真ん中にいるとすぐ見つかるわけ、か。


「・・・来たぞ」


「えぇ、行くわよ・・・!!」


カペラ、シャウラ、レグルス、そして俺の4人の試験が始まった。


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第15話》へ続く。

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