第13話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第13話》


『はいはーい、受験者はこちらにー!』


活気の良い声の元に、王国騎士団の入隊を希望する受験者たちがこぞって集合していた。今のところ俺はこのグランツ城に寝泊まりさせてもらい、尚且つこの3日間の体力作りは主にこの屋外演習場で行っていたせいか、その場での試験はどこか緊張感に欠けるものがあった。今朝ソフィアが様子を伺いに来た際に置いて行った装備を身に纏い、俺は屋外演習場のほぼ真ん中辺りに立っていた。ソフィアから貰った装備は、俺がこの世界に降り立った時の服装の上に羽織るような物で、トレンチコートとライトダウンジャケットを足して2で割ったようだった。しかしところどころ甲冑の様な重さもあるが、着てみると意外にその重さは余り感じられなかった。


魔力でも篭ってるのかな?いや、それよりも・・・。


と俺は周りを見渡す。

集まった受験者はざっと見て40名程。俺の受験は、シリウスから各部隊長に伝えられ、それぞれ楽しそうな反応を返してくれた。その内の誰もが、応援してくれていたのは感じとれた。


「では、時間になりましたので、今から10班に分かれて試験を行います。名前が呼ばれたら前に来てください」


『はい!』


受験者の猛々しい返事と共に、次々と呼ばれ始めた。


「なぁ、お前、名前何ていうの?」


え?


俺は声が聞こえた方へと振り返った。すると赤い髪の、俺と同い歳ぐらいの男性がこっちを見ていた。布の防具を着ており、腰には両刃の剣を挿していた。


どうしてここの世界の連中は誰も彼も顔立ちが良いのかねぇ。


と思わせる程のイケメンで、初対面で『お前』と呼ばれた無礼な奴だということも忘れさせた。


「お、俺は、コウキだけど・・・」


「俺はアイザック。よろしくな」


アイザックと名乗った男は、右手を差し出した。素直に応じると、彼はその手を引いて、腰に帯刀している剣の柄頭(つかがしら)を俺の腹に軽く当てた。


・・・え?


「ここが戦場なら、お前は今ので死んでたぜ?」


「なっ・・・!」


「事実だろ?」


そもそも戦場じゃ初対面の奴に握手求めねぇよ・・・。


そんな事を思いながら、受験早々に問題を起こして退場、なんてのは各部隊長たちに申し訳が立たない。ここは穏便にやり過ごすのが良さそうだった。


「・・・そ、そうだよな、忠告ありがとう。気をつけるよ」


手をヒラヒラとさせて返すと、アイザックは今度は肩を組んできた。そしてコソコソと俺に耳打ちを始めた。


(お前、なかなか見どころがあるな。教えといてやるよ)


(・・・今度は何を教えてくれるんだ?)


(良いか、俺はこの騎士団の試験は3回目なんだが、最初の時も、2回目の時も同じ試験の内容だったんだ。ってことは・・・)


(今回も同じ内容の可能性が高い、ってわけか)


(その通り。お前、中々頭がキレそうだ。よし、俺の子分にしてやる。見たところ弱そうだ。親分の俺が守ってやろう)


ははは。これはこれは。


前の言葉を撤回したい。イケメンなのに性格は最悪。まるでシリウスの真逆だ。


(このアイザック様に任せておきなさい。一緒に合格と行こうじゃないか)


ぶん殴ってやろうか、こいつ。


俺の中のイライラが具現化しそうになったその頃、名前が呼ばれた。


『タニモト・コウキ!』


「っ・・・はいっ!」


俺はすぐさま反応してアイザックと別れ、振り向けば奴は能天気に手を振り返していた。


あー、めんどさかった。でも試験内容聞きたかったな・・・。


名前を呼ばれる事がこんなに嬉しい事だとは思わなかった。俺が前に出ると、すぐに残りの班のメンバーとも顔を合わせた。


銀髪の男の子、と紫色のロングヘアーの女性と黒色のミドルヘアーの女性、か。


「全員の班分けが終わるまで待っていてください」


そう言うと、名前を呼んでくれた女性の試験官は再び受験生の班分けを再開した。

銀髪の少年は、リゲルと年が同じぐらいだろうか、少しモジモジしていた。先程のアイザックの様に布の防具を纏っている。残りの2人の女性は俺よりも年上、だがそこまで離れてはいない。恐らく20歳ぐらいで、同じ様な少し高そうな銀の防具を着ている事から友達同士なのだろう。


まずは自己紹介から、か?


俺は恐る恐る口を開く。


「俺はコウキ。宜しく。えーと・・・」


「私はカペラ。こちらのシャウラとは幼馴染みなの。昔から一緒に森の動物を狩ったりしていたわ。『水』の付与系の魔法使いよ。宜しくね、コウキ」


握手を求めてきたのは紫色で長髪の女性だった。カペラと名乗った彼女はどことなくソフィアに似ており、いかにも正義感の強い前衛といった風貌だった。握手を返すと、今度は黒髪のミドルヘアーの女性が口を開いた。


「・・・私はシャウラ。『火』の放出系」


シャウラと名乗った女性の首には黒いチョーカーらしき物が巻かれており、真ん中には太陽を模したエンブレムが入っていた。やはり2人はペアで、恐らく彼女が後衛だろう。


「2人ともよろしくな。それと、君は?」


俺は未だにモジモジしている銀髪の少年へと視線を向けた。同じく、カペラとシャウラも顔を向ける。


「ぼ、僕はレグルス、です。魔法は、『土』の放出系・・・」


レグルスは更にモジモジと縮こまった。小さい体はまさに遊撃部隊長のリゲルを思わせる程だが、どこか自信がなさそうだ。


「・・・どうした?体調悪いのか?」


俺はそんなレグルスを見兼ねて心配をし始めた。これから試験だと言うのに、同じチームのメンバーが体調不良で離脱なんてのは不利に決まってる。それならそうと早めに言ってもらって、何をやるかは分からないが離脱するならそれで作戦を立てなければならない。そしてレグルスは口を開いた。


「・・・み、みなさん強そうなので、緊張してます」


なんだ、そんなことか。


少し安心したのと、強そうだと言われたことにより、俺の緊張も解けた。カペラがすぐにフォローしていた。


「大丈夫よ、レグルス!あなたの魔法も強そうじゃない!何たって、あの『凶星(きょうせい)』と謳(うた)われたカイゼル・ベル騎士団長と同じ魔法の系統じゃないの」


ん、『凶星』・・・?


「なぁカペラ、そのカイゼルさんの『凶星』って、一体何だ?」


俺のその言葉に、カペラを始め、シャウラとレグルスも驚いていた。


「何、アンタ、マジで言ってんの?」


「あぁ」


「呆れた・・・。そんなんでよく騎士団の受験なんかしようとしたわね」


俺、何かまずい事でも言っちまったのか?


「あのね、今の王国騎士団の団長始め、隊長格の方々には『異名』があるの」


ほう?『異名』、か。


俺は凄く興味が沸いた。年頃の男ならば、誰でも『通り名』や『2つ名』に憧れを持つものだ。


「それでカイゼル・ベル騎士団長の『凶星』は、出会うと災いが訪れる、と敵国から恐れられた事から付けられたのよ」


なるほど。ていうか、カイゼルさん、騎士団長だったのかよ。あんなに怒りっぽいんじゃ、部下の隊長たちがしっかりしてるわけだ。


始めて会った時に魔法を撃ち込まれた事を思い出してクスッと一回笑ってしまったところで、急なアナウンスが飛んできた。


『お前らぁ!今日は特別な日だぁ!!若い奴も熟練した奴も関係ない、試験でぶっ飛ばしてしまえぇ!!』


声には聞き覚えがあった。この野太い、猛々しい声は、受験者を奮え立たせた。


『今回の試験の最高責任者は俺が勤める。王国騎士団、防衛部隊長のプロキオン・ロックだ!!」


やっぱり。


『試験の内容は至って簡単だ。今からお前ら10班には王国の防壁に沿って、囲う様にして等間隔で並んでもらう。始まりの合図が鳴った瞬間から試験は開始する。・・・戦って、勝ち、最後まで無事な奴らが合格だぁ。ちなみに、相手が負けを認めたら攻撃は止めるように」


なるほど、魔法を使ってのバトルロイヤルか。


『試験の時間は合図が鳴ってから3時間だ。ガッカリさせないでくれよぉ・・・?』


『おおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』


プロキオンの激励に、受験者たちは鼓舞され、大いに気持ちが昂っていた。


俺も頑張らないと!!


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第14話》へ続く。

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