第12話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第12話》


その日の午後。


「それにしても不思議な人だったな〜・・・」


俺たちは、帰ってきたグランツ城の中を歩きながらミヤビについて話していた。俺たちが彼女を褒めちぎるからか、シリウスは気分を良くしていた。


あ、しまった。洗濯と風呂について聞くのを忘れた。


そんな事を思いながら会話をしていた。


「そうなんだよ、彼女は素晴らしい人なんだ」


「そう言えば、ミヤビさんがシリウスの魔法に対する姿勢を変えてくれたって言ってたけど、それって何があったんだ?」


俺がそう言うと、シリウスは小っ恥ずかしそうに頭を掻きながら答えた。


「いや〜、あの人と出会う前、俺自分の事を魔法の天才だと思ってたんだよ」


自分で何言ってんだよ、というツッコミは置いといて、それは過去の話だ。


「倒れてたあの人を敵国の研究員かと思って捕らえようとしてたんだ。そしたら不覚にも魔法を一撃喰らってしまって、気絶しちまったんだよね。いや〜、あの時程効いたモノはないよ!ははは!」


サラッと言われたが、俺には気になるポイントがあった。


『魔法を一撃喰らってしまって』か・・・。


これまでの事と、この話を聞く限り、分かった事は3つ。元々居た世界から飛ばされた人はどこかで倒れている、ミヤビさんも何らかの魔法が使える、そして、シリウスは異世界から飛ばされた人を俺たちが来る前から知っていた事。


何ですぐに俺たちを『異世界から来た人物』だと口に出さなかったんだ?


何故知らないフリをしたのかは分からない。思い返してみれば少し不自然なところはあった。俺たちがどこの誰かを聞く前に真っ先に俺たちの魔法を知りたがった事。よくよく考えると、騎士団の隊長格の奴らは、『異世界から来た人物』についての会議ではなく、『古代魔法を使える』というところで俺の処遇を話し合っていた。つまり、この世界の住人たちからしてみれば、俺たちの存在は決して珍しいものではない、ということになるのだろうか。


・・・ミヤビさんのあの時の発言も気になる。


それは俺たちが魔法を見せる為に地下室に入る前に、自己紹介された時の事だ。『アナタたちと同じ世界から飛ばされた内の1人デース』この言葉から察するに、ミヤビが飛ばされた時に一緒に来ていた人は最低でも彼女を含めて2人以上いる事になる。


いや、俺たちも含めた『同じ世界から飛ばされた内の1人』というものか?もしそうじゃなくて、俺たちが来る前に『複数人飛ばされた内の1人』として使ったのか・・・。後者なら、他の人は・・・?


ミヤビの知らぬところにいるのか、それとも野盗に襲われてしまったのかは分からないが、その中に日本人もいれば、話を聞けるかもしれない。どんな状況でこっちに飛ばされたのか、帰れそうな算段はあるのか。色々聞いてみたい。

俺が鼻息を荒くして顎に指を這わせていると、シリウスが不審がりながら覗き込んだ。


「・・・おい、聞いてるのか?」


「ん?あ、悪い悪い、それで?そこからどうなったんだ?」


そう聞き返すと、彼は意気揚々と続けた。


「それから、彼女は色々研究がしたいと言い始めた。それで俺があの家を与えた結果、短期間で様々な魔道具を作り上げてしまった」


流石は科学者・・・。もう天才って呼んでも良いだろうな。


「魔法の基礎は俺の方ができていたが、応用力で、俺が知る限りで彼女の右に出るものはいないと思うぜ?」


そんなに買われていたのか。あの倉庫みたいな家の中は、まるで俺たちがいた世界の物と遜色なかった。地下室のあの明るさも気になる。こちらに来て『電気』をも作ってしまい、現代の科学を応用してLEDライトの様な物まで作ってしまった、と?魔法の力である程度ランタンの火は明るくできるだろうが、アレは明らかに俺たちは知ってる物だ。


もしかして、ミヤビさんが使う魔法って・・・。・・・聞いてみるか・・・。


「な、なぁ、ミヤビさんって、どんな魔法使うんだ?」


「ん?あぁ、『雷(かみなり)』だよ」


やっぱり・・・。


俺が予想した通りだった。じゃなければ、気になったところの説明が上手くできない。そうだ、彼女はその『雷』の魔法を上手く応用してLEDライトの様な明るさを地下室で保ち、まだ見てはいないが洗濯機の様な物で着ている服を洗い、主に使用される『火』『水』『風』『土』以外の『雷』という稀な魔法で、不意打ちだが一撃でシリウスを気絶させた。シリウスじゃないが、彼女はとんでもない人なのかもしれない。


俺が再び考え込んでいると、シリウスが俺の顔を覗き込んでいるのが見えた。


「・・・おい、聞いてたか?」


しまった、聞いてなかった・・・。


「あ、いや、すまん、何だっけ?」


俺の反応に、彼は溜め息を吐いた。


「おいおい、困るぜ。ミヤビさんの話は終わりで、お前さんはこれからどうすんだ、って聞いてたんだけど?」


「へ・・・?」


余りにも唐突過ぎて変な声が出てしまった。


「サヤカにも後で聞こうと思ってるんだが、今、うちの陽動部隊で預かろうかという案が出てるんだ。どうだ、コウキ、うちの部隊に入らないか?」


俺が、騎士団に・・・?


考えてもいなかった。俺が軍隊のようなところに入るなんて。


「うちの部隊は楽しいぜ?何たって陽動だ。敵の気を引くだけ引いて、後はソフィア嬢やリゲルたちに任せれば良いんだから」


正確には陽動ってもっと複雑のような気がするんだが・・・。


苦笑いも程々に、そろそろ自分の身の振り方も考えなければいけなくなってるのは事実だ。このままソフィアの厚意に甘えて城内で暮らすのは、やはりどこか申し訳ない気持ちと、元の世界へ帰る為に何かしなきゃ、という気持ちが入り混じり始めていた。


「そう、だな・・・。うん、俺、やってみるよ・・・!」


気持ちはまだ完全には固まっていない。だが、こうやって誘ってくれてるんだ。他の隊員に聞いたり、遠征があるのなら、その際に元の世界への帰り方のヒントを見つけ出そう。


「そうか!じゃあ、3日後の昼過ぎに入隊試験をやるから、このグランツ城の屋外演習場に集合な!」


「え、そのまま入れてくれるんじゃないのか?」


「何言ってんだ、王国騎士団といえば、この王国最高の仕事だ。そんなんに試験無しで入れるわけないだろ?」


くっ、マジか・・・。


ごもっともだが、それならそうと言って欲しかった。元の世界で言うと軍隊の試験という事だ。そんなものに一高校生の俺がパスできるはずがない。まさか、からかってるのか?


入ると言ってしまった手前、撤回すると何か言われそうだしなぁ・・・。


口をへの字に曲げると、シリウスは笑った。


「ははは!そんな難しい事はしねぇよ!体力があるかどうかと、魔法を見るだけだ」


「俺の【エアロブラスト】は秘密なんじゃないのか?」


「秘密、とは誰も言ってないぞ。お前さんの古代魔法は、今の人たちは誰も見た事がないから【エアロブラスト】だって言ってもなかなか信じないはずだ」


なるほどね。そういえば最初はカイゼルさんも信じてなかったな。


「なら、俺がクシャミして【エアロブラスト】出しても、知ってるのは部隊長だけ、というわけか」


「正解〜!それじゃあ、3日後な〜」


気付けば、俺が今朝目覚めた部屋の前へと来ていた。シリウスはそう言うと、歩いてどこかへ行ってしまった。


しかし3日後に試験、か。泉さんのところにも後で聞きに行くって言ってたし、また俺からも聞いてみるか?


と、俺は部屋へと入っていった。

そして試験の為に、気休めにしかならなかったが体力作りをし、あっという間に3日後が来てしまった。ちなみに泉はやはり、王国の厨房に入りたい、とマルナへ弟子入りを志願していた。


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第13話》へと続く。

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