第10話
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第10話》
グランツ城を後にした俺たちは、シリウスが引率し、街を案内されながら会わせたい人とやらの所へ向かっている最中だ。
『シリウス様よ!』
『キャー!シリウス様ー!こっち向いてー!』
『私と目が合ったわ!!』
『いや私と目が合ったのよ!!』
「ははは、喧嘩しないでくれ。俺はみんなのものだ」
『キャー!!』
美女たちの黄色い声援を受け取って、シリウスは満足そうだった。そして歩く事数分、俺たちはメインストリートであろう大通りに出た。レンガ調の外壁の家々が並び、食事処や呑み処が建ち並び、見ているだけでもテーマパーク内を散策しているようで楽しかった。が、俺はそのメインストリートから一本奥まった路地が気になった。
「シリウス、アレは一体・・・?」
「ん?・・・あぁ、アレはだな」
それは、明らかにメインストリートを歩いている様な人たちとは一風違う人たち。着ている服もボロボロで、道端に寝ている。よく見ると子供もいた。
「貧困層の人たちだ」
「貧困層・・・」
俺たちが前にいた世界でもホームレスはいた。しかし子供まではいなかった。
「全ての国民が、仕事をして飯を食べれている訳ではない。税金が払えなくなったり、仕事ができなくなってしまった人は、あぁなるしかないんだ」
「王国側からは措置はないのか?」
俺がそう言うと、シリウスは黙ってしまった。次に口を開いたのは少し歩いた後だった。
「・・・安心して寝れる家がない事を哀れむかはお前さんの自由だが、こちら側からしたら、野盗や魔獣がいる防壁の外に放り出されずにいるだけ、ありがたいと思ってほしいところなんだけどな」
なるほどな。そいつが事を起こさない限り、最低限の身の保障はされるわけ、か。
「でも、貧困層だからって全ての人が燻っているわけではないんだ」
「え?」
「さっきも言ったが、中には仕事ができなくてもできない人もいるし、生まれながら貧困層の人もいる。怪我とか病気で仕事辞めざるを得ない人もいる、ってことだ」
大変なんだな・・・。
俺がその一本奥まった貧困街があるところを振り返ると、後ろを付いて来ていたはずの泉がいなくなっているのに気付いた。
「・・・あれ?」
「まさか・・・!!」
連れ去り!?
シリウスと2人で顔を見合わせ、急いで路地へと向かう。
「泉さん!!」
「サヤカ!!」
2人同時に彼女の名前を叫ぶ。彼女はこちらの世界に来た時に野盗に襲われかけている。嫌な予感がよぎったが、その考えは杞憂(きゆう)に終わった。俺たちが見たのは、貧困街の道端で眠る男の前でしゃがみ込む泉の姿だった。
「何やってんすか!行きますよ・・・!?」
いくら事件を起こしたら防壁の外に放り出されるからと言って、起こさない保障はどこにもない。泉の手首を掴み、半ば強引に引っ張る。そこに留まろうとする彼女は何かに取り憑かれた様にその男を凝視していた。そしてそこから離れ、再びメインストリートに。歩きながら、俺は聞いた。
「一体何してたんですか!?急にいなくなったから心配したじゃないですか!」
俺の言葉に、彼女はいつもの控え目な雰囲気ではなく、どこか真剣で、まるで別人なんじゃないかと思う程だった。
「あの人、たぶん前職は料理人です」
「・・・どうしてそんな事が分かるんだい?」
シリウスがそれに反応した。
「左手の指に小さな切り傷が沢山ありました。後、右手の指にも包丁を握り続けていたタコのようなモノもありました」
そんなものが離れたところから見えたのか・・・。すげぇな・・・じゃなくて!
「それが一体どうしたんですか?」
俺が溜め息混じりに聞くと、彼女は答えた。
「何であんな熟練の方が職を失ってしまったのかと、考えてしまって・・・。気付いたら側に行ってしまいました」
テヘヘ、と頭をかきながら笑う泉。呆れる俺たち。何で彼女がその様な行動を取ったのかは分からないが、今度はシリウスが、その男性が横たわっていた場所の辺りに一瞥し、その場を後にした。
それから俺たちは街を抜け、防壁がもう間近に見える端の方まで来ていた。
こんな場所に誰がいるんだ?
と見回していると、突然視界が開けて池が見えた。そしてその傍に佇む一軒の掘建て小屋。明らかに街の家の様なレンガ調ではなく、後から無理やり建てたような小屋。魔女の館に見えたり、お伽話に出てきそうな雰囲気さえ感じ取れた。
「・・・ここに、シリウスが俺たちに会わせたい人がいるのか?」
「そうだ。凄い人だぞ?」
ニヤリと笑う彼の顔は天真爛漫(てんしんらんまん)そのままだ。
ギィィィー・・・・・・。
鉄の蝶番が軋む音と共に木の扉が重っ苦しく開いた。中は暗い。そして更に言うと埃っぽい。換気が余りされていないようだ。入ってすぐに大きな机が存在感を示し、その上には何やら書類が散乱している。
職員室の机の上みたいだな。
そんな事を思い出していると、何かを踏んだ。
グニュッ。
柔らかい、何かを踏んだ。
「ん?」
足を退けて目を凝らすと、白衣を着た女性が倒れていた。俺はどうやらこの人を踏んでしまったらしい。
「え、あ、いや、その、だ、大丈夫ですか!?!?!?」
踏んでしまった罪悪感よりも心配が勝ってしまった。が、その人は俺の心配を余所に元気良く立ち上がった。
「うにゃああああああ!!!!!」
猫の様に叫びながら立ち上がった女性は、丸メガネを掛け、ボサボサの長い銀髪で、そばかすが可愛らしかった。身長は俺より少し高いぐらい。
「やぁ、来たよ。ミヤビさん」
「オー、シリウス!何時振りネ?」
「1ヶ月振りですかね」
「それは久し振りデスねー。今日は何しに来タ?」
「あぁ、こいつらの魔法に関してなんだ」
と、シリウスがこちらを向くと、白衣の彼女もこちらを向いた。ジッと泉と交互に見つめられる。よく見ると目が青い。
キレイな人だなー。
見つめられながら見惚れてると、シリウスからミヤビと呼ばれた女性は視線を解いた。
「アナタたち、もしかしてあっちの世界から飛ばされた人?」
『!?』
「な、何でその事を・・・」
俺と泉が驚きの極みになると、彼女は追い討ちを掛けた。
「ワタシの名前はミヤビ・ジャガーノート。アナタたちと同じ世界から飛ばされた内の1人デース」
ミヤビはニッコリと笑った。
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第11話》へ続く。
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