第4話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第4話》


舞い上がる粉塵に、思わず俺は腕で顔を守る。しかしカイゼルが放った[ストーンバレット]は俺まで届く事はなかった。それは、何故か。目を開けた先に答えはあった。


「っ・・・!・・・ん?」


「お待ち下さい、カイゼル殿!!」


俺の前に立っていたのはソフィアだった。弾丸の様な無数のいしつぶては、彼女が握っている火を纏う刀で打ち落とされていた。焼け焦げる音が何とも言えず、ひんやりとした空気はどこへやら、辺りは火を纏った刀で熱された。


「ソフィア様・・・。どこぞの馬の骨とも分からぬ奴を庇うのですか?」


カイゼルは自身の魔法を打ち落とされたことに対してか、俺を庇ったソフィアに対してかは分からないが、不満を顔に表した。ソフィアは片膝を着き、武器を置いた。


「この者の処遇は、我ら部隊長による会議で決めさせていただく事はできませぬか?現に、この者の魔法を見たのは私と、この者の連れである泉 サヤカのみ。父上やカイゼル殿では、いささか正当な判決ができぬかと・・・」


この人、物腰は柔らかいけどとんでもない事言ってるぞ?大丈夫なのか・・・?ん、部隊長?父上・・・?


俺がソフィアの言葉に引っかかっている間にも、2人の話は続いた。


「いくらソフィア様でも、その様な申され方をされてはこちらにも考えがなくはない。あなた方『王国騎士団(おうこくきしだん)』は罪人を裁く為ではなく、王国を守る為にあるのですよ?」


「コウキは罪人ではありません。昨夜、野盗に襲われており、私が助けに入ったところ気を失い、先程まで寝ておりました。カイゼル殿の言うように罪人なのであれば、どのような罪で今ここにいるのかをハッキリさせていただいてもよろしいですか?」


そうだ、言ってやれ!


俺は発言権が無いのを良いことに、心の内でソフィアを応援していた。カイゼルはグヌヌ・・・、と歯を食いしばっていた。


「よさんか、2人とも」


ソフィアとカイゼルの話に割って入ったのは国王だった。溜め息を吐き、やれやれと言った顔をしていた。


「ソフィア、お前をそんな言葉を言う娘に育てた覚えはないんだがな・・・。そろそろ結婚も考えなければいけない歳だが、相手が現れぬのはまだまだそういうところがあるから、かの?」


彼女は軽く赤面した。


やはり、ソフィアは国王の娘か。てことはお姫様、なのか?


「カイゼル、お主もお主だ。我が子の様に見守ってきたソフィアに、少し大人気(おとなげ)ないのではないか?冷静にならんか」


カイゼルも返す言葉がないのか、黙って俯いてしまった。そして再びため息を吐く国王。片肘をつき、結論を出した。


「・・・我、アラグリッド王国、国王センウィル・アラグリッドが命ずる。谷本 コウキの今後の処遇を『騎士団部隊長会議』にて決定すべし」


センウィル国王の言葉が終わると、その場にいた騎士たちやカイゼルたちも跪いた。


『はっ!!』


彼らが威勢の良い掛け声で応えると、センウィル国王は立ち上がり、玉座の間を後にした。その後ろをカイゼルと、彼の反対側にいた白いローブを纏った小太りの中年の男性もついて行った。姿が見えなくなると騎士たちも緊張を解き、各々解散していった。その場に残ったのは泉とソフィアと俺だけとなった。


「・・・コウキ、すまなかった。怪我はないか?」


ソフィアは駆け寄り、俺に肩を貸して起こしてくれた。冷たい軽装の甲冑が温かく感じる。


「ええ、ありがとうございます。・・・俺、どうなるんですか?」


「それは私たちがこれから決める。悪い様にはならないようにはするが、もしもの事があれば、逃げられるように道を作っておいてやろう」


あぁ、何て優しい人なんだろう・・・。


俺はソフィアの懐の深さに深く感動していた。やはりそこは威厳ある国王の娘なのだろうか、下の者が付いてくるような立ち振る舞いがちゃんとできている。


俺、くしゃみしただけなんだけど・・・。


「さぁ、コウキ、会議室へと行こう」


と歩き出そうとした時だった。


「あ、あの・・・!」


呼び止めたのは泉だった。何か言いたげだ。


「私も、同席しても良いですか・・・?ちょっと、気になる事が・・・」


含みを持たせた泉は、おずおずと小さく手を挙げた。しかし彼女の不安は、ソフィアの前では無駄だったようだ。


「ああ、もちろんだ!」


そして快諾したと思えば、こっちだ、と案内を始めた。

玉座の間を出て廊下をしばらく歩く。部屋をいくつ通り過ぎたかは覚えていないが、まるで学校の校舎の中を歩いてるようだった。その最中、俺は根本的な事が気になった。


「そういえば、ソフィアさん」


「何だ?」


「昨夜野盗たちが使ってた『魔道具』?や、カイゼルさんが使ってた『魔法』?について聞きたいんですけど、一体何なんですか?」


俺の質問に、ソフィアはキョトンとしていた。


「むぅ・・・、何なんだと聞かれても・・・」


お前も先程使ったんだけどな、とボソボソと聞こえたが、俺には何のことだかさっぱりだった。魔法と言えば、年頃の若者なら一度は憧れるものだ。魔法をバンバン使う世界なのだとしたら、俺もその内自在に使えるのかもしれない、と期待に胸膨らませていた。


「まぁ、全人口の半数程が魔法が使えないのだ。知らなくても不思議ではない、か」


顎に指を這わせ、ソフィアは納得していた。


「私たちが使っている魔法は、空気の中の一部である『魔素』を体内に取り込んで使用する。属性は主に『火』『水』『土』『風』の4種類。稀にこの属性以外にも使えるのがあると聞くが、私はまだ1人しか知らない」


逆に1人いるのか、その4属性以外の人が。


「そして、その魔法形態には2種類存在し、付与系と放出系に分かれる」


と、ソフィアは自分の刀を抜刀して見せた。抜刀しながら刀身は燃え上がり、納刀すると同時に火は消えた。


「私は『火』の付与系だ。この刀、名を『炎天(えんてん)』と言い、数年前に防壁の裏の森に落ちていた物だ。刀の名はカイゼル殿に付けてもらった。抜刀したら私の中の魔素が反応し、魔素の調節が下手な私でもすぐに順応してくれた。それ以来この刀を愛用している」


チャキッと刀の『炎天』は音が鳴り、まるで意志があるようにアピールした。


「それ、どう見ても日本刀なんだよな〜・・・」


「ニホントウ?」


ソフィアは頭を傾けた。俺は、先程センウィル国王との会話で確信した事を説明した。


「これは、俺たちがいた世界の武器なんです。しかも、かなり昔の」


彼女は傾けている頭の角度を鋭くした。言っている意味が分からないのだろうか。


「さっき分かったんです。俺たちは違う世界に来たんだって事が。こちらの住人じゃないから、魔法だって知らないし、俺たちの情報だって、そっちは知らない」


今度は、泉に向いて説明する。すると彼女は妙に納得した顔になったおり、合点がいったように頷いた。


「だから・・・えっと・・・、一旦俺たちの状況を整理すると・・・。・・・どうやって帰れば良いんだろう、か・・・」


俺は二ヘラ〜、と笑って誤魔化して見せたが、目は笑っていなかったと思う。とりあえず、今乗り越えなければいけないのは部隊長会議だ。俺が今後どうなるか、重要なものになるだろう。と、ソフィアの足が止まった。


「さぁ、ここだ」


俺たちはいつの間にか、扉の上に『会議室』と書かれた部屋の前に来ていた。ゴクリと唾を飲み、俺たちは会議室の扉へと手を掛けた。


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第5話》へ続く。

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