第3話
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第3話》
俺たちは急いで、泉が寝ているはずの隣の部屋の扉を開けた。
「どうした!!」
ソフィアが叫ぶ。手は腰に帯刀している刀に触れている。敵襲に備えていつでも抜刀できるようにしていた。
「あ、あ、あの・・・私・・・」
彼女はすっかり怯えた表情をしていた。部屋の中の家具は、ベッドに座っている泉の周りに倒れて散らばっている。シーツをギュッと握り、目は泳いでいる。敵がいない事を確認すると、ソフィアは泉の元へ急いだ。
「どうした、何があった!?」
ソフィアが泉の肩を揺らしたが、当の本人は彼女が来てくれた事により安心して手を握っていた。
「私・・・アクビしただけなのに・・・」
アクビ・・・?アクビがどうしたんだろ。
部屋の中に入ると、そこで何が起きたのかが分からないほど散乱していた。だが不思議な事に、ベッドを中心に家具が全て落ちている。
何が起きたんだ・・・?
埃も舞っている。俺は窓を換気しようと近付いたが、どうも鼻がむず痒い。
あー、クシャミ出そう・・・。
「はっ・・・はぁっ・・・」
俺は必死にクシャミを抑えようと鼻を弄る。
「はぁ〜っ・・・・・・!・・・・・・」
・・・あ〜、止まった。
鼻をグシグシと擦り、俺は窓を開けた。瞬間、風が気持ちよく俺の頬をかすめていった。埃が外に出て、新鮮な空気が部屋を埋め尽くす。振り返れば、既にソフィアが家具を元に戻す作業をしており、俺も手伝いに入る。こういうのは男の仕事だと思っていたからだ。
「俺も手伝いますよ!」
「あら、ありがとう。悪いわね」
俺が寝ていた部屋とは家具の種類が少し違う。やはり女性だからという心配りがあるのだろうか。鏡台は三面鏡だし、銀のポットの周りにあっただあろうティーバッグは複数種類があった。
少しの間片付けをし、その間、ソフィアは泉にも自己紹介をしていた。ようやく家具が定位置に戻っだところで、ソフィアは口を開いた。
「ところで、お前たちは何故あんなところにいたんだ?」
唐突な質問に、俺は答えにつまる。
「・・・それが、よく分からなくて・・・」
そう答えると、ソフィアは、ふむ、と顎に指を這わせた。そしてしばらく考えた後、彼女はベッドに座り込んだ。何かブツブツと口を動かし、への字に曲げ、首を傾げた。その考えている仕草がいちいち可愛い。
「とりあえず、お前たちからは悪しき魔力は感じられない。身元が判明するまでここにいると良い」
「それはありがたい・・・!」
あぁ、優しい方に拾っていただけて良かった・・・。ん、悪しき魔力?あ、またクシャミ出そ・・・。
「そうだ、一度お父様にお目通しだけ
「ぶえっくしゃい!!!!!!」
俺はソフィアの言葉を遮るようにかなりデカ目のクシャミを彼女らの反対側にある窓に向けてしてしまった。先程我慢したせいか、かなりスッキリした。何やらクシャミと同時に轟音が聞こえた気もするが。
「ふい〜・・・、あ、すいません。何の話でしたっけ?」
顔をソフィアの方に向けると、泉と2人で目を見開いて俺がクシャミをした方を見てガタガタと震えていた。
何だ?
と俺もその方を見やる。俺達が見た光景は、まるで爆発させたかのように無残にバラバラになり、外と繋がってしまった壁とえぐられた天井だった。
「・・・え?」
『ソフィア様、何事ですか!?』
俺が聞こえた轟音は気のせいでもなく、異変を察知した武装した衛兵が数人、部屋へとやってきた。
「何ですかこの空洞は!?」
「お前がやったのか!!」
「ひっ捕らえろ!!」
『はっ!』
「え、何、どうなってんの!?」
俺は抵抗する間もなく、訳がわからないまま、衛兵に捕らえられてしまった。
「ま、待て、そいつは・・・
「ソフィア様を連れ去ろうとした不届き者め!!今すぐ牢屋にぶち込んでやる!」
そしてずるずると引きずられ、ソフィアの言葉は虚しく無視されて俺は地下にある牢屋に投獄されてしまった。周りが土壁で鉄格子が冷たく感じる。暗く、寒く、激しく居心地が悪い。道中でバスローブまで剥がされ、パンツ一丁なのは寂しい。俺は体育座りで落ち込んだ。
何でこんな事になるんだよぉ・・・。
知らない場所に飛ばされて、知らない輩に殺されかけて、知らない人に助けられて、あっという間に一夜明けてクシャミしただけでこれだ。誰か来たら弁明しよう。そう思った瞬間、俺が投獄されている牢屋の前で誰かが足を止めた。俺はすかさず声を上げた。
「あ、あの!俺・・・
「出ろ」
え?
俺の言葉を遮った武装した衛兵は、扉を開けた。滞在時間は1分にも満たなかったであろう。何のために投獄されたか分からないが、俺は外に出た。階段を上がる前にバスローブを渡されて再び羽織り、どこに連れて行かれるとも知らされないで後をついて行った。着いた先は、重っくるしい扉の前。しかもデカい。3mはゆうにあろうかとう思う程の大きさの扉は、その大きさからは想像もつかないほど軽く開いた。
キィィィ・・・・・・。
鉄の扉なのだろうが、何故か木が軋む様な音を立て、その扉は俺たちを中へと導いた。中は、玉座の間だ。換気が上手くいってないのか、少しホコリっぽい。王様と思われる人物が最奥の大きな椅子に腰掛け、向かって右側には丸メガネを掛けた初老の男性、左側には白いローブを纏った小太りの中年の男性が立っていた。
うわ・・・、何だよここ・・・。
王様の前まで続いている太めの赤い絨毯(じゅうたん)の両サイドには甲冑をこしらえた騎士の様な人々が整列していた。中には兜を被っておらず、甲冑でもない動きやすそうな軽装備の人も数人いた。そしてその中には、俺を助けてくれたソフィアと、その隣には泉の姿もあった。2人とも心配そうな眼差しを向けている。
「歩け!」
俺は連れられた衛兵に背中を突き飛ばされる勢いで中へと入った。厳かな雰囲気に、体が強張っているのが分かる。上手く歩けず、ほぼど真ん中で転び、ヘタリと座ってしまった。周りの視線が痛い程刺さる。
「・・・名を名乗れ」
王様らしき人物が口を開いた。
「谷本・・・コウキ、です・・・」
声は途切れ途切れだ。
「あ、あの!俺は・・・
「王の質問にだけ答えろ!お前の発言はそれ以外認めない」
右隣のメガネの初老の男性が割って入った。
「よさんか、カイゼル。・・・コウキ、と言ったな。私の質問には、嘘偽りなく答えてくれ、良いな?」
物腰は柔らかいが、隙がない。従うしかなさそうだ。
「・・・はい」
「では、お主は何者だ?」
何者、って言われても・・・。
「俺は、ただの高校生です」
「コーコーセー・・・?」
やっぱり、異世界なのか、ここは。
王様の反応を見る限り、ここは本当に俺たちがいた世界とは別のところらしい。まだ信じられない自分がいたが、確信できた。ふむ、と王様は顎を触ると、次の言葉が出てきた。
「部屋を吹き飛ばした魔法、あれは一体何だ?」
・・・俺が聞きたいよ・・・。魔法・・・?
眉間にシワを寄せて黙っていると、カイゼルとやらが口を挟んできた。
「はっきりせん奴だ!!使わざるを得ん状況にしてやろう!!」
とカイゼルは右手を前に突き出した。
何だ、何をする気だ?
「[ストーン・バレット]!」
「は!?!?!?」
彼の手から無数のいしつぶてが出現し、俺目掛けて弾丸の如く放たれた。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
俺は思わず目を瞑った。
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第4話》へ続く。
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