第一話 悪魔可視鏡を探しに

「はぁ?『悪魔可視鏡』…?」

「そう!!!」

翌日の朝。ユキは幼馴染みの浜衣琢馬ハマギタクマに、興奮気味に昨晩見たサイトの話をしていた。

タクマは気怠げにため息をつく。この状態のユキは誰にも止められないということを知っているからだ。面倒なことになった、タクマは慣れているこの感覚に頭を抱えた。

「…で?その悪魔なんたらがどうしたってんだよ」

「よくぞ聞いたなタクマ!!これはね…!」

ユキは携帯を取り出し、例のサイトを見せた。

「あぁこれ……お前がよく見てるサイトか」

「うん!スピリッツ伊藤のブログ!!」

「それに載ってんのか?その…」

「『悪魔可視鏡』!」

タクマは見せつけられた携帯の画面に目を寄せる。

赤い文字で“悪魔が見える!?『悪魔可視鏡』”と書いてあった。

いかにも、な見出しだった。

「これが『悪魔可視鏡』…?」

見出しの下にあった、黒く縁取られた鏡に吸い寄せられるように見つめる。

漆のような上品な光沢の縁取り。鏡は一般の鏡と変わりないのに、反射された光だけ赤く色づいている。不気味だがどこか美しく、儚い鏡だった。

「すごい綺麗でしょ…!」

「……あぁ」

思わず画面を見ながら頷く。

「それでな!タクマ」

ここからが本番だ、とばかりに会話を続けるユキ。

本題をすっかり聞き忘れていたタクマは我に帰り、ユキを見る。

ユキは厨二病チックにニヒルに笑っていた。


「今日、探しに行こう…!この鏡を!!!」

その言葉を聞いて、ある者がユキたちを見つめていた。



放課後。学校近くの廃墟に2人は来ていた。ここの廃墟は学校では有名な心霊スポットらしい。ユキは元から知っていたらしいが、「ここはあんまり怖くないらしいぞ。だから俺も行く気がなくて」と語っていた。

タクマは正直行きたくなかった。心霊スポットなんてろくなことがないことが分かっているからだ。

“あの出来事”のせいでユキは…

「タクマ?」

目の前にユキが立って、心配そうにタクマを覗き込んでいた。

「……ユキ」

「体調悪いのか?俺だけでも別に…」

「っ行くな」

小さく叫んで抵抗した。

「…?タクマ?」

「お前は…」


「ちょっとそこのあんたら」


ハスキーボイスが聞こえた。少女のような少年のような曖昧な掠れ声。

振り向くと

「あれ、君は」

瀬宮自由セミヤミユ。あんたらのクラスメイトだ」

セミロングの黒髪に、少し垂れ下がった目。目の近くには涙ボクロがある。

全体的に可愛らしい印象を持つ、クラスの所謂“モテる女子”だ。

話したことのないユキは、顔だけしか覚えてなかったらしくきょとんとしていたが、タクマは正直心臓が跳ねていた。

「セミヤ…?」

「は?!お前知らねぇのかよ!学年で1番成績優秀、その美貌を持ってして今までにラブレターをもらった数は計り知れない!ファンクラブまで最近でき始め、既に会員オーバーしている…!!そんなアイドル的美少女を知らないと!?」

「タクマ急に饒舌になったね…」

「ふぅん。ファンクラブとかできてたんだな」

熱くなっているタクマを横に苦笑するユキと、新事実に驚く素振りもなく腕を組むミユ。タクマは一気に話して息切れしながらも尚、「あなたは凄いんですよ!」「うわ、やばい…(小声)」などと言っていた。

そんなタクマを横目にユキはミユに尋ねる。

「あ、あの」

「ん?」

「どうしてこんな所にミユさんはいるんですか?」

「敬語じゃなくていい。クラスメイトだろ?」

「あ、う、うん…」

「う〜ん、理由かぁ…」

ミユは顎に手を添えながら唸ったあと、ユキに向けた目を光らせた。


「私も連れて行ってくれ」

「「…え?」」

この言葉には、さっきまで我を忘れていたタクマもユキと一緒に目を見開く。

「ん?私何か変なこと言ったかな」

「え、いやミユちゃん、俺らが何するかわかってる…?」

タクマはおどおどしている。しかしミユはきょとんとして

「あぁ。朝2人で話してた内容が聞こえたんだ。それで私もついて行こうかな…って」

少しはにかんでミユは言う。

「き、聞こえてたんだ」

タクマはよりにもよって…と思いながら引かれてなかったことに少し安堵した。

ふとユキを見ると、ミユの元に走っていき


手を掴んだ。


「!!!??」

「ミユさん…!!あんた最高だよ!オカルトとか好きなの!?」

「え、おかると…?」

舌足らずにオカルトを言うミユもきちんと見たが、それよりもタクマは。

「ユウウゥうううキイいいいいいいイィいい!!!!!」

「…うぇ?」


ユキは一発ビンタを喰らった。

男の恨みは怖い。


「……こほんっ。それで?」

男の修羅場(?)を見たあとにミユは咳払いをして、本題に入る。

「ユキくん。ここに何かあるんだよな、そのぉ…」

「『悪魔可視鏡』?」

ユキは頬を摩りながら答えた。

「そうそう、それだ」

「で、でもさミユちゃん」

タクマが少しスッキリした面持ちでミユに話す。

「オカルトとか関係なく、ここは廃墟だ。普通に危ないよ。ましてや女の子1人なんて…」

「男の子2人いるだろう?大丈夫だ」

にこっと笑われてしまえば、タクマは何も言い返せない。

「…よしっ!」

ユキは気合を入れるように拳を握った。

「じゃあ行こう2人とも!!」

「え、ちょ」

「あぁ!」

うきうきな2人と心配でたまらない1人。

こうして始まった鏡探し。



_何が起こるかなんて誰もわかっていなかった。

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僕の堕天使日記 ネットの湯 @yunomi0301

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