綺麗な家に住んでみたい

 毎年春になると、私の家には「え、何これ。緑地⁈」レベルの雑草が生えてくる。春には花だいこんとヨウシュヤマゴボウ、初夏にはドクダミ。日当たりが悪いせいもあるのか、沢山生えている。そして、今年から週に一度、十五分の草むしりが私の役目になった(一応、抜け道はあるが……)。

 草むしりは非力な私では、場合によっては鎌を使わねばならない程の重労働で、しかも重装備にならないと蚊に刺されることもある。面倒くさいので正直やりたくないし、草むしり用の機械があればそちらに頼りたい。

 私の家は外から見ると殆ど廃墟にしか見えないし、ちょっとした森にも見える。庭の敷地が無駄に広いせいで家そのものは小さいので(二階建て)、私は綺麗なマンションに憧れていた。綺麗なマンションなら庭を作る必要がないし、草むしりだって必要ない。周りの人に配慮する必要はあるからうるさくは出来ないが、相方と一緒に暮らすのなら大丈夫だろう(色んな意味で)。

 雑草は抜く以外にも観察したり、実験して楽しむことができるのはあまり知られていない。植物図鑑を手に取って、ページをパラパラめくったその日から、私は植物の魅力に取り憑かれた。地味に実験材料としてはいいのだが、生える場所を間違えている。公園や原っぱならまだいいのに。

 綺麗な家に住むメリットは他にもある。マンションの低層階なら、災害が起きても逃げ遅れずに済むし、セキュリティがしっかりしているので安心できる。しかも蚊やゴキブリが全く来ないし、ネズミもいない。なんて快適な生活だろうか!そんな生活をしている人が羨ましい。

 東京で綺麗な家に暮らすには、賃貸で安くても六万が相場だと聞いている。駅前の不動産屋さんのチラシにもそう書いてあることからして確定事項だということは明白だ。

 団地などにも住みたかったし、引っ越しを経験してみたいと思っていたのに、結局この歳まで引っ越しは出来なかった。転校の二文字とも無縁な人生は、私から僅かな希望を奪い去った。

 他に行くところがないと言われても、私は綺麗な家に住みたかった。不便な実家暮らしから離れたかった。綺麗な家とは一生縁がない、そう思っていた(一説によると、今住んでいる家は百年保つらしい)。

 相方は建築に携わる仕事をしているだけはあり、何気ない世間話の中でさえ「建材が〜」と言い出すことがある。だから、「こういうお家っていいお家なんだよ」と言われたことがあった。あんまり嬉しくはない。古過ぎるから。寧ろ、呪いとしか言えないような。

 早く引っ越したい……。

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