びしょ濡れセイムス逗留記

 私が住んでいる街の駅前は、悲しいほどに何もない。中心まで行けば沢山の店やデパートがあるものの、歩きでは三十分かかる。最寄りのスーパーにも歩いて行くには少し不便。雨の日なんかは特に。その為か、歩いて五分のところにあるセイムスで買い物を済ませることも少なくはない。それどころか、五分歩けば薬だけでなく、一応は食べ物や飲み物を手に入れられる程近いので、反対側の駅へ行く途中でおやつやお茶を買う時に利用している。

 肝心のセイムスで買えるモノだが、本格的な品揃えは期待しない方がいい。食べ物に限っては。薬や生理用品、洗剤などならまだしも、食べ物は本来メインではないからである。だから最低限の、限られたメーカーのものだけ買える、と考えておけば良い。事実、りんごジャムを探した時はなかったし、お菓子もそこまでいいものが揃っているわけではない。パンも普通に売っているものばかりと、こだわっている人には酷なラインナップである。

 しかし、それでも近いというのはこの上ない利点である。というのも重いものを買った時、運ぶのに困らないのだ。我が家では夏になると大量の2リットルのお茶を買い込むのだが、その時に遠いと運ぶ前に体力が尽きることがある。暑さと重さに体力を奪われるのだから、これ程残酷なことはない。だが、近いと楽に買い物が出来る。

 雨の日や雪の日であれば、もう少し有り難みを知ることができなくもない。土砂降りの冷たい中を歩かなくて済むのは楽だ。車をわざわざ走らせる必要がないし、時と場合によるだろうが滑らなくて済む。傘もさほど濡らさずに済むし、近いっていいなあ、と思う。

 以前、セイムスがあった建物にはユニクロがあったのだが、何故かいつの間にかセイムスに変わっていた。まあ、ユニクロがあっても行くことは稀だったので、別に困らないのだが。

 あれから長い時が流れて、私達の周辺も随分と変わった。やれコロナがどうのこうのとうるさくなり、店頭には「ご自由にお使いください」と書かれたラベルが貼られている、除菌用アルコールのボトルが一つは置かれるようになった。それ以外は、人の流れでさえも変わることはないものの、外出が制限されている今、家から近いというメリットは大きくなりつつある。

 ただ、昼に訪れても時間帯によっては人がいない。私以外店員さんしかいないという時も少なくはない。けれど、あの店はなくならないで欲しいと思っている。ユニクロ以上に役に立ち、重宝する便利なお店だからこそ。

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