レア鳥だから

 まだ私が制服を着ていた(中学高校)ときのこと、上野の池で私はペダルボートに乗っていた。父と一緒に乗っていたその時、ボート越しに、本来なら海でしか見られないであろう鴎達が見えたのだ。ゆらゆらと浮き、時には翼を羽ばたかせることなく空を飛ぶその姿は、都会では見られない珍しい光景であり、何度もここへは来たいと思った。それだけ魅力的だったというのもあるが、驚きと感動も私の中にはあって。今では楽しい思い出の一つである。

 色々と慌ただしく、時にはのんびりと時が過ぎていき上野の存在さえ忘れた頃、私にはたった一人だけ相方が出来た。歳はかなり離れているものの、私をサポートしてくれる相方兼ファンである。彼はその時上野のホテルに泊まっていたので、遠出させては悪いだろうと思い、(欲しいものがあったので)秋葉原に行った後に上野の池に行くというプランを立てた(完全予約制だったせいで動物園には行けなかった)。どうしても鴎達の魅力を知って欲しかったからこそ誘うことが出来た。

 当日はよく晴れた空で、雲は少しだけ。冬だから寒いとはいえ、まだ暖かい方である(寒いのは大っ嫌いだが)。スワンボートはカッコ悪いので、サイクルボートを借り、私達はのんびりとバードウォッチングを楽しむことになった。進んでいる途中、黒くて長い鳥を見たがアレは何だったのだろうか。ここにいる水鳥達とは明らかに違う種類の鳥(川鵜だった)。

 気を取り直して、鴎達が集まっている場所へとボートを進めると鴎に混じって鴨と水鶏がいた。普通に公園でも見かけるような鴨(ヒドリガモ?)以外にも、幼稚園の頃以来見ていなかったキンクロハジロもいるし、真鴨もいる。あの目つきの悪さは、久々に見ると一周回って感動するレベルで、助走をつけて飛ぶところも見られた(が、ボート越しだと満足に見られないので一度ボートを返した)。本来なら写真に収めておいても良かったのだが、スマホを落とすと大変なのでそれはしない。きっとこれからもしないだろう。ボートに乗っている時は。

 ボートから降りて、鳥達を見に橋の方に行くと水面に黒い鯉が泳いでいるのを目にした。一体鳥達は餌をどうしているのだろうかとも心配になるが、鯉以外に魚がいるのだろうか。そこまで自然が豊かとも思えないのに。

 かようにして上野の公園の池は、鳥好きにはたまらない「聖地」である(但し秋冬限定)。少なくとも幼稚園の時から鳥図鑑を読み漁っていた私にとっては聖地であると断言できる。

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