地獄のおっさんカラオケ

 つい先日の話である。大阪の梅田に住んでいるという私のファンが、休暇を利用して東京へとやってきた。私の割りかし雑な案内にも拘らず、彼はよく付いてきてくれたと思うのだが、私が妙な提案をしたばかりに……。

 それは若者なら誰もがするという、カラオケ。プライドが邪魔して一人カラオケに踏み込めない私は、彼に頼んでカラオケボックスに連れて行って貰ったのである。彼に私の歌声を聴かせたい、という意図もあった。着いて最初に聴かせた曲は、東方プロジェクトの「華鳥風月」だが、久々に歌ったせいか点数が下がっていた。ちなみにコレは準備運動のようなものであるから、別に点数が低かろうがどうでもいい。私がその次に歌った曲の方が遥かに重要だからである。「salva nos」という曲で、母が昔よく聴いていた曲なのだが、聴いているうちに私も好きになってしまった(私の趣味は母の影響を多少受けているので、仕方ない部分はある。尤も、かわいいもの好きはずっと変わらないのだが)。それより問題なのは、私の選曲ラインナップではなく歌声である。音痴というわけではないのだが(最高は93点)、私はかなり嫌っている。なのに(ビートまりおや渡辺よっぺいみたいな声の)ファンが、絶賛したのだ。

 合唱曲→オペラ歌手、と来てついに人間ですらなくなった(妖精だそうな)ものの、私の歌声は美しいというのだ。ついでに聴く者の心を震わせるような声でもあるらしく(多分、NARUTOのおいろけの術みたいに相手は限定される)、圧倒されっぱなしだったとも。同級生や親友はそうは言わなかったというのもあり、妙に新鮮だった。地味に彼とは僅差で勝ったものの、同時に疑問も浮かんでくる。

「何故、あなたが負けたの?」と。

 2時間にわたってカラオケ対決をした訳だが、実をいうと私は本気を出していない(「inner universe」を歌っていないので)。ついでに、その前ポップンで念願の3連フルコンボを遂げたこともあり、体力がさほどなかったというのもある。二日目もとい第二ラウンドもあるが、やはりここでも通常運転(ふざけた曲が上手く歌えない、ガチと勘違いされる)だった。選曲ラインナップそのものに問題はないので、オペラ歌手のような声が問題なのだろう。多分こんな声では歌い手にすらなれないことは明白で、きちんと教育を受けていれば……。とも思ったが、それは私のやりたいことではない。というか、私の心を占めているものの90%以上が「物語」だからやりたくはない。

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