取り憑かれた話

 私は理系寄りの脳みそではないので、昔から数学が苦手だった。それこそ、サボるレベルで苦手なもので一番つまらない時間は数学だといえる程度には。それが僅かでも覆った理由は、音ゲーに触れ始めたことがきっかけだった。今みたいに「フルコンボ先輩」と呼ばれるレベルではなく、細々と、誤魔化しながら楽しむレベルではあったけれど。動画サイトでたまたま見たとある音ゲー曲の動画が、私の目を楽しませて以来、関連する形で少しずつ理数系の雑学を学んでいった。

 意外と新しいことを知るのは楽しくて、自分の世界を知ることだけでなく、世の中を知ることにも(僅かだが)繋がってくる。強制されずに楽しみながら学ぶということは、自分の世界を広げる糧になるだけではないということだ。

 気のせいか、今の世の中「楽しみながら学ぶ」機会が奪われつつあるような気がしてならない。世の中の子供達の興味が、楽しいことは楽しいことでも享楽的なものに偏っているからだろうか。昔よりも子供にとって、この世は危険になってしまったしそれにゲームやら漫画やらといった娯楽も充実してきた。何より、彼らの中に残らずまるでシャボン玉のようにすぐ消えてしまう作品が多くなった気がする。だからだろうか、皆ガワだけを真似してそのうち飽きてしまう。

 私が見聴きした作品は、他のものともリンクさせる形で私の中で今尚生き続けている。他の人には分からない世界が、私の中には広がっているのだろう。自分以外の誰にもわからない形で。

 数学と聞いて、「理路整然とした」イメージを持つ者は多いだろうが、音楽は数学と密接に関わる分野であり、それでいて感覚に語りかけてくる(ちなみに、コレを知らない人の方が世の中圧倒的に多い)。音ゲーをしていて分かったことだが、音楽というのは法則ありきなのである。その前から「素数は音楽と密接に関わっている」ことなどは知っていたが、音楽とはパターンの繰り返しで出来ていることは、実際にプレイするまで知らなかった(今は初回を除けば完全なルーチンワークであることを知ってしまったから、少し面白みが減ったような気もするが)。理路整然としたものは、順番を入れ替えるだけで美しい世界を作り上げることが出来るのか、と感動してしまった。その割に法則があることに気づく人や、それを話せる人は私の周りを見渡しても誰もいないのは残念だが。

 まだまだ私には知らないことが沢山ある。知らないことで満ちているからこの世界はきっと楽しいのだろう、と私は思うのだ。それを形にする為に今日も私は……。

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