なければいいと恨めしく思っても

 昔から時計を見るのが嫌いだった。楽しい時間がずっと続けば良いのに、と思っていたから。自由な時間も、人生の中ではほんの僅かで楽しくない時間ばかりが続く。たまの休みになっても、ダルくて何処かに行く気も今はしない時がある。某漫画家が昔言っていたように、(生きるのが面倒くさいから)「チーズ蒸しパンになりたい」と思うくらいに。どんなにかわいらしい時計でも、私の邪魔をするなら容赦はせず、最悪破壊する(小学生の頃に一度やった)。今でもあまりに邪魔だからか、たまに壊したい衝動に駆られるが、ないと別の意味で困るのでしようとは思わなくなった。

 その一方で、私は仕掛け時計や懐中時計が好きだ。というのも、美しいものやメロディが癒されるものがあるからだ(懐中時計は、昔学校に持ってきていた子がいて、憧れるようになったこと、漫画の中にかっこいい懐中時計があったのも理由。簡単に手に入れられるようになってからは、気に入ったモノをクレーンゲームで手に入れるようになった)。ゼンマイ式の時計も好きだ。古いけれど風情がある。私が知る限りでは、大叔母の家にしかないがネジを回すのは楽しかった。キリキリという音が心地よかったから。きっとおもちゃで遊ぶのと同じような感覚だったのかもしれない。ああいうのは見かけないのもあって、今は手に入れることも難しい。あったらあったでうるさいだけだが。

 意外にも生活防水時計というのもあるようだが、スマホの正確な時計に慣れっこな私は興味がなかった。それに私は腕時計に風情も趣も感じない。無骨で不恰好に見えるから。何よりフタがない。あのフタを開け閉めするのも楽しいのに。あの感覚が分からないのはどうかしていると、私は思う。

 オルゴール付きの懐中時計というのもあるようだが、ネットで見るまでファンタジー世界のモノだと思っていた。それがリアルに在ると知った時、私の好奇心は最高潮に滾り、動画サイトや画像を検索しつつ自分の懐中時計と見比べていた。何が足りないのだろうか、どこで手に入れられるだろうか、想像で補うことは出来るだろうか。足りない部分を自分好みに。チェーンなどにもこだわりたい。どこかに引っ掛けられるようにしたいから。色はもちろんシルバーで(ゴールドは趣味悪いから嫌い)、お気に入りの曲が入っていて、ちゃんと後ろにネジが付いていて、趣深い絵がフタに入っていて……。ああ、願望と妄想が止まらないッ‼︎いつか海外旅行にいったら手に入れてやる‼︎

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