殺人鬼の「何故」

 歴史の中では稀に悍ましい殺人事件が起こることがあるのだが、その背景に目を向けられることは少ない。ほんの一部の人は目を向けるのだろうが、大体にして彼らが同情されることはないだろう。理由のない犯罪は存在しないが故に、彼らの犯罪はそれ相応の理由が存在する。過去を紐解けば、いくらだって理由が見つかるのだ。中には生まれつきそういう奴だったというケースもあるが、ごく少数だろう。多くは悲しい過去の持ち主で、彼らなりの正義も持っていたのかもしれない。

 しかし、中には特異過ぎる殺人鬼もいる。それがかのエリザベート・バートリである。彼女は名門貴族の女性であり、それなりの慈善事業もしていた。とても聡明だった上に、美しかったという。そんな彼女が凶行に手を染める理由は「美しさを保つ為」であった。歳と共に美貌が衰えるのを厭がった彼女は、ある日侍女を折檻した(元々癇癪持ちだったのもあり、些細なことでもすぐキレた)。その時、血が肌に付いたのだがそれを拭うと肌が若返っている、ということに気づいたそうな(実際にはプラシーボ効果であり、思い込みである)。それからは血のお風呂に入り、捕まるまで残虐な所業を繰り返したという。

 何というか、エキセントリックで怖いな、理解が私でさえ追いつかない本物の狂人だなと思った。普通、殺人というのは単純に誰かが嫌いとか恨みがあるとかそういう理由が殆どだと思ったからである。楽しむとかいう理由で人を虐待するのは理解できないし、したくもない。というか楽しいのか?私は泣き声を聞くだけで辛くなるものだが。

 しかしながら、自分には分からない感覚の持ち主だから魅力的に見えるということもあり、殺人鬼は昔からフィクションの世界では悪役として使われてきた(ダークヒーローという例もある)。映画や深夜アニメのみならず、子ども向けの特撮(仮面ライダー)でも出てくる時は出てくるし、秘密結社鷹の爪では遂にパロディキャラまで出てきてしまった(毎回殺人に失敗するが、その理由が本当にしょうもないものであることが笑いを誘う。タピオカに夢中になった例すらあるというのがまた……)。フィクションだから許容されるとはいえ、彼らは皆かっこよく描かれている。

 現実では殺人はどんな理由であれ許されてはいないが、殺人鬼が道を踏み外した理由には家庭環境の悪さや不幸な生い立ちにあるといわれている。歴史に「もし」はないけれど、もしも彼らが幸せに暮らしていたら、とも思ってしまう。

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