記憶力の限界

 「俺記憶力ねえから」という声を何度も聞いてきた。記憶力で悩んでいる人は大勢いるのだ。現に、スーパーなどの小売店には「記憶力を保つガム」なるものが売っている(効果は分からないが)。私自身は、そこまで気にしていないが人からは「物覚えがいい」と言われる。それを裏付けるエピソードを紹介しよう(とはいっても、パッと思いつくのは二つしかないのだが)。

 一つ目は、親友にプレゼントを渡しに行った時のことである。私はその時郵便受けを確認する機会があったのだが(親友の家はマンション)、その時苗字が被っている人を確認したのだ(親友の苗字はクラスに一人いるレベルなのである……)。私は親友の部屋がどこにあるのか思い出し、郵便受けにプレゼントを置いていったのだった(後で「怖い」と言われたが。この時は危なかったと思う)。

 二つ目はもう少し過去に遡る。大叔母の家でホルバインの画集を見せて貰った時のことだ。殆どの絵が初めて見るものばかりだったのだが、その中に一つだけ目にしたことがある絵(とはいえ、一部のみ。ついでに画集では白黒)があったのだ。私がタイトルを言い当てると、大叔母が「凄いね」と褒めてくれたのだった(ちなみにその絵とは『大使たち』)。私はそこまで凄いとは思っていなかったのにも拘らず。ただ、この記憶力には限界がある。覚えようと思わないものには全く発揮されない(或いは大分慣れてから発揮される)。その上、暗記などにはあまり役に立たないし、体調などによっても左右される。一応、好きなことかインパクトのあることであれば際限なく覚えるので、脳みそが関所や改札みたいになっているのかもしれない。

 脳ではなく、身体が感覚で覚えている場合もある。音ゲーでフルコンボを狙う時がまさにそれだ(複数回クリア済みの場合のみ)。他にも、味などを覚えている場合がある。それでも限界はあるのだが。

 実をいうと、私は暗記には反対派である。というのも理解した方がすんなり頭に入るから。意味を理解しないまま暗記しても私にとって、それは何もないのと同じ。現に直ぐ忘れてしまうのだ。自分のアンテナに従って見つけたものの方が遥かに価値が高いと思う(それだけ気になるものがあるともいえるが。私自身思考があっちこっち巡りやすいのだ)。

 別に記憶力などなくても生きていけることは親友のセリフから判明しているし、それどころか余計に記憶力が高いと忘れたいことまで覚えてしまう場合がある。私もそうで、トラウマを忘れることが余りにも遅すぎるのだ。だから記憶力がない人をちょっとだけ羨ましいと思う。


 

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