第82話 女子トーク?

 歩夢くんがアイツを別のテーブルに連れて席を離れてから十分くらい経過しただろうか、歩夢くんだけが私の席へ戻ってきた。


「さて、冬人は向こうに置いてきたし友火さん、ぼくとお話をしようか」


 歩夢くんはニヤリと笑い、私は何を聞かれるのだろうか? と身構えた。


「う、うん……お手柔らかにお願いします……」


 そんなに警戒しなくてもいいのにと、歩夢くんはクスリと笑った。その笑顔は可憐で本当に男なのだろうかと疑問に思う。


「さっきの質問だけど友火さんは冬人の事が好き?」


「そ、それは……」


 その直球の質問に私は言葉に詰まらせた。


「これから話す事は冬人はもちろん誰にも話さないから安心して。ぼくと友火さん二人だけの秘密だ」


 言い淀んでいる私に歩夢くんは優しく語りかけてくれた。その言葉を聞いて私は全てを彼に話そうと決めた。


「私はアイツ……じゃなくて……神代くんの事が好きです」


 アイツへの気持ちをこうやって言葉に出すのは初めてだった。これはこれで恥ずかしいものがある。でも歩夢くんには何故かその言葉はスルッと出てきた。


「うん、それは分かっていた。それはぼくだけじゃなくて仲の良いみんなは薄々勘づいている思う」


「そう、なんだ……」


 みんなにバレていたと言うのはショックだった。そんなに態度に出ていたのだろうか?


「そ、そんなにアイツの事が好きっていう感じが私の態度で出てたのかな?」


 私は恐る恐る歩夢くんに聞いてみた。


「うーん……なんていうかさ、冬人と友火さんはお似合いだなって雰囲気が二人から滲み出てるんだよね。信頼し合ってるというか。だから、ああ二人は両想いなんだなって納得しちゃう感じかな」


 そんな風にみんなに思われていたなんて……内に隠していたつもりでも無意識に態度に出てたって事なのかな。そうなると春陽も夏原さんも気付いていた……?


「それでぼくが一番知りたいのは何故、告白の返事をその場でせずに保留にしたのか。その場で返事をすれば晴れて二人は恋人同士になれたはずなのに」


 歩夢くんの疑問はもっともだ。アイツが私を好きと言ってくれた。そして私もアイツが好き。普通に考えれば相思相愛で目出たくカップル成立だと思う。


「それは……春陽と夏原さんが神代くんに好意を抱いているのを私が知ってるのに抜け駆けみたいな事をするのが嫌だったの」


 春陽と夏原さんに遠慮して気を遣っているように見せかけて、実はただの自己保身である事は自分でも気付いている。


「それも何となく分かっていた。友火さんは真面目だからそう考えるのも無理もないし、逆に友火さん自身も傷付きたくないという自己防衛みたいなのもあると思う」


 歩夢くんには全てお見通しだったみたい。彼は聡明で優しくて思いやりもある。こんな子に言い寄られたらみんなイチコロだろう。男なのに男子に告白されるのも頷ける。それに比べて私は……ズルくてウジウジしてて本当に可愛くない。いつかアイツに愛想を尽かされてしまうのではと怖くなる。


「だけど、のんびりしてていいのかな? 咲間さんと夏原さんが行動したら冬人取られちゃうかもよ? あの二人も可愛いし魅力的だからね。それにほら、ぼくが冬人を取っちゃうかもよ?」


 歩夢くんが悪戯っ子のように笑った。裏表のない性格で活発な春陽、積極的に行動する夏原さん。二人とも同じ女子から見ても凄く可愛い。歩夢くんは男性とは思えない容姿と性格の良さが魅力的であり、私は彼にも勝てる気がしない。

 アイツがそんな私に見切りをつけて他の女の子と付き合ってしまうかもしれない。


 それは嫌……たとえ友達のあの二人だとしても絶対に嫌。私に醜い嫉妬心が芽生えてくるのが分かる。


「イヤ……だ」


 私は嫉妬心から出た言葉を一言だけ漏らした。


「まあ、ぼくのは冗談だけど、早く結論を出して行動することだね。友火さんがどう心の整理をつけるのかぼくには分からないけど、自分では分かっているはずだ」


 そう、分かってはいる。春陽と夏原さんに私の気持ちを打ち明ける。ただそれだけ……それだけなんだ……。


「うん、分かった……何とか頑張る」


「じゃあ、話はこれで終わり。友火さんの気持ちを無理やり聞き出してゴメン」


「ううん、そんな事ないよ。いつか誰かに聞いて貰いたかったのは本音だったし。ありがとう」


 話を終えた私と歩夢くんは元の席に戻った。


「二人で何を話してたんだよ?」


 席に戻って早々に私と歩夢くんの密談が気になったようでアイツが聞いてきた。


「内緒! ね、友火さん」


 歩夢くんは同性の友達のようであり男の子のようでもある。本当に不思議な人だ。


「うん、アンタにはまだ教えてあげない!」


「ちぇ、分かったよ。もうこれ以上は聞かないよ。そのうち教えてくれよな」


 ――その時がきたら教えます。


 私は心の中でアイツの言葉に返事をした。


「じゃあ、ぼくは先に帰るよ。あとは二人で楽しんで」


 歩夢くんは私たちに気を遣ったのか先に帰っていった。


「なあ……本当に何を話してたんだ?」


 歩夢くんを見送り、しばらくするとアイツが先程の話を蒸し返してきた。


「アンタ、もう聞かないって言ってたでしょ? 男に二言はないの!」


 男らしくないわねと私は揶揄うようにアイツに言い放った。


「あーはいはい、わかりました。ごめんなさい」


「でも……強いて言うなら女子トーク? かな?」


 歩夢くんと話していると相手が男子だと言うことを忘れてしまう。だから女子枠でもいいかな?


「歩夢は女の子じゃないじゃん。まあでも……秋月よりかは女の子っぽいかな?」


「女子力低くて悪うございましたね」


 そんな可愛くない私に好きって言ったのは誰よ……まったく。


「い、いや……そういう意味じゃなくて秋月の事が……その……好きだから女子力とか気にならないし、どんな秋月でも好きだし……」


「ち、ちょっと、な、何で今、それを言うかな……ズルいよ……もう知らない!」


 また不意打ちで好きと言われてしまい、嬉しさと恥ずかしさで胸のドキドキが止まらなくてどうにかなってしまいそうだ。


 だけど、そんな無償の好意を向けてくれるアイツに何も言ってあげられない事が申し訳なくて切なくなってくる。


 ――もう少しだけ待ってて……私もそれを言えるようになるまで……あと少しだけ。

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