最終章 夢溢れる少女の奮闘記

第79話 久しぶりの相談は驚きの内容だった件(前編)

 秋月の新しい小説のキャラクターイラストが完成し、彼女に見せる為に二人で訪れたネットカフェのペアシートで俺は、感情が抑え切れずに勢い余って秋月に告白をしてしまった。


「ごめんなさい……貴方と付き合うことはできません」


 ――えっ?


 ――俺、振られたのか……? そうか……そうだよな……はは、俺ってバカみたいだな。


 秋月の小説が俺に対する恋文ラブレターと勝手に思い込んでいた俺は、告白を彼女が受け入れてくれるのでは? と少なからず期待していた。

 だから落胆も大きかった。そんな甘い考えをしていた事に対して乾いた笑いしか出てこない。


「急にそんなこと言われても迷惑だったよな。ごめん……忘れてくれ」


「違うの! 迷惑なんかじゃないよ……嬉しかった。嫌だからとかそういうのじゃなくて、その……ちゃんと心の整理をつけたいの。だから……少し待って欲しい……」


 秋月は嬉しいと言ってくれた。でも今は付き合えないとも言っていた。スッパリと振られた訳では無いのでモヤモヤする。


「分かった。心の整理がつくまでずっと待ってるから」


 告白の返事は保留になり、首の皮一枚繋がった。望みがあるような無いような……たとえ振られたとしても受け入れなければ。

 春陽と夏原を振った自分が言えた義理では無いけど、生殺しのような今の状況は精神的によろしくない。


「うん……ごめんなさい」


◇ ◇ ◇


 告白してから十日ほど経ったが秋月からの返事は未だに無い。だけど幸いな事に告白の返事が保留のような今の状況でも彼女と気まずくなったりする事もなく、小説のイラスト制作に協力している。


 小説はといえば俺が告白した翌日から無事公開され毎日更新されている。

 その小説のタイトルは――


『アンタは私のイラストレーター』


 書き溜めもあり執筆も順調なようで完結まで毎日更新できるのではないだろうか?


 さらに驚く事に“小説家をめざしてね“、略して“めざし“という小説投稿サイトで今流行りの長文タイトルでは無にもかかわらず、現実恋愛ジャンルの日間一位にまで上り詰め更に現在週間一位でもあるという人気作になっていた。


 小説の内容が俺と秋月の馴れ初めからの物語だと考えると恥ずかしいものがあるが、読者はそんな事を知る由もなく俺は素直に小説の人気を喜んだ。



◇ ◇ ◇



 投稿を初めて二週間ほど経過した休日の朝、秋月から一通のメッセージが届いた。

 まだ布団の中にいた俺は眠い目を擦りながらスマホのメッセージを確認する。


『すごく大切な話があるの。どうしていいか分からなくて今から会えないかな?』


 大切な話? もしかして……告白の返事を聞かせて貰えるのか? 一瞬そう思った事は否定できない。


『分かった、ネカフェのオープン席でいいか? 今から準備してすぐに行くから一時間後くらいに着くと思う』


 とにかく重要な話で切羽詰まっている感じを受けた俺は、何回か足を運んだ例のネットカフェのオープン席で待ってる旨の返事を送った。


 布団から這い出てシャワーを速攻で浴びる。急いでいるとはいえ好きな人に会うんだから身嗜みはキチンとしたい。


 ――秋月から告白の返事を貰えるかもしれない。


 俺は期待と不安を胸に大切な人が待つ場所へと向かった。



 ネットカフェに到着して受付を済ませ秋月を探す。カフェスペースを見渡すと端っこのテーブル席に座っている秋月を見つけた。最近は彼女の姿を視界に捉えるだけで胸が高鳴ってしまう。

 いよいよもって恋煩こいわずらいという言葉が頭をよぎる。秋月は俺の事をどう思っているのだろう? その答えを今日聞かせてくれてるのだろうか?


「お待たせ。ごめん遅くなった」


 そんな気持ちを押し殺し努めて冷静に遅くなった事を詫びた。


「ううん、急に呼び出してごめん。来てくれて嬉しい」


 今の俺には秋月からのどんな急な呼び出しでもご褒美でしかない。


「で、いったい何があったんだ?」


 秋月に問い掛けながら椅子に腰掛ける。


「これ見て」


 秋月がスマーフォンを差し出してきた。ディスプレイに表示されているのはメール画面かなんかだろうか? 差出人は……‘小説家をめざしてね運営‘さらにタイトルを確認する。


 ――!


 俺はタイトルを見た瞬間の驚きと衝撃で、もしかすると告白の返事を貰えるかもという期待が外れたにもかかわらず、その落胆すら吹き飛んでしまった。


 そのメールのタイトルは――


『書籍化打診のご連絡』


 小説に関しては詳しくはないが、小説投稿サイトなどのWeb小説は人気が出ると出版社から出版のオファーが来ると聞いたことがある。


「こ、これって……秋月の小説を本にしたいって連絡だよな……」


 自分の小説では無いのにあまりの衝撃に声が震えてしまう。


「よく分からないの……イタズラかもしれなし詐欺かもしれないし……だから、誰かに判断して貰おうと思って連絡したの」


 突然、こんなメールが届いたら疑わしく思うのは無理もない事だと思う。秋月もそうだが俺も半信半疑だ。


「正直いって俺にも判断はつかないよ。小説は守備範囲外だし……」


「そ、そうだよね……」


 困惑している秋月を見てなんとかしてあげたいと頭を捻る。


 ――そうだ! いるじゃないか最適な判断ができる人間が!


「秋月! 歩夢あゆむがいるじゃないか! 彼はWeb小説で拾い上げの書籍化作家だったはず。彼に聞けば適切なアドバイスをして貰えるんじゃないか?」


「そっか……それじゃメッセージ送って聞いてみる」


 スマートフォンを操作し始める。


「秋月ちょっと待って。メッセージじゃ面倒だからここに呼んでみよう。俺が電話してみるよ」


 スマホでメッセージを送ろうとしてる秋月を静止した。


「え、でも急に呼び出したら悪いし……」


「俺も急に呼び出されたんだけど」


 ちょっと意地悪く言ってみた。


「そ、それは……急に呼び出したのは悪かったけど、アンタなら来てくれるかなぁって……」


 秋月にとって俺は遠慮せずにワガママを言える間柄として認識されているのだとしたら嬉しい限りだ。


「ああ、秋月の為ならどこにでも喜んで駆け付けるよ」


 ちょっとカッコつけてみたが、効果があったのか秋月は顔を赤くして俯いてしまった。


「え、ええっと……その……か、揶揄からかわないでよ……」


 ああ、本当に秋月は可愛いな。モジモジと身体をくねらせ恥じらう姿を見てるだけで癒される。


「ごめんごめん、秋月がなんか可愛かったからつい……」


 こんな言葉をサラッと言えるようになった俺も大分振り切った感があるな。秋月に対して好意を隠す気が無くなったからだろう。


「もう……言われてる方は恥ずかしいんだからね」


「悪かった。今度から気を付けるよ」


「でも、たまになら嬉しいかな……」


 ちょっとデレる秋月が最高に可愛い。もう死んでもいいかな? いや告白の返事を貰わない限りは死ねないか。


 そんな秋月のデレを堪能し満足した俺は歩夢へ電話をしてネカフェまで来て貰うことになった。

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