第78話 第四章完結記念特別編 隣の個室のバカップル

この特別編はTaikeさんの作品

『幼馴染のパンツを毎日見ないと死ぬことになった件 』の主人公とヒロインが登場しています。

興味がありましたら是非本編もお読みください。https://kakuyomu.jp/works/1177354054891673594

特別編本文:ヤマモトタケシ

改稿:Taike

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<翼・茜サイド>


俺こと南条翼なんじょうつばさと先日晴れて恋人になった片桐茜かたぎりあかねは人生初のネットカフェに来ている。


 しかも選んだこのペアシートは別名カップルシートとも呼ばれ、ほぼ密室な上にフラットな床で脚の無いカウチソファーが置いてある寝転ぶスタイルの部屋だ。


 ……って、おいおい、なんなんだこの幸せ空間は。こんなの、茜を押し倒せといわんばかりの個室の作りじゃねぇか。こんなところでマンガなんか悠長に読んでられるわけねぇだろ。いや、マジで理性プッツン5秒前だわ。

 先日の観覧車に比べれば密室度は低いが、カップルがイチャコラするには最適な部屋だ。ラブホ代わりに利用するカップルがいるという話を聞いた事があるが納得せざるを得ない。


「おうおう、なんかスゲェいかがわしい雰囲気の個室だな。茜と一緒にいると何というか貞操の危機を感じるよ」


「いや、なんでアンタが貞操の危機を感じるのよ。それは私のセリフよ」


「え? だって、茜は俺の事好き過ぎるだろ? 観覧車の時みたいに我慢できなくなったお前に押し倒される未来が見えるんだが」


 そう。俺は観覧車のゴンドラ内で茜に押し倒され、馬乗りでキスをされたのだ。肉食系女子、コワイ。


「なっ! あ、あれは……その……アンタが……アンタが私の事を好き過ぎるから仕方なくしてあげたんだからね!」


 あの時の事を思い出し茹で上がるほど顔を真っ赤に染めた茜はこの上なくカワイイ。フハハ、やはりツンデレは王道だな。


「ん? ちょっとアンタ何やってんのよ」


「いや、隣の個室の話し声が聞こえるなあって」


 なんとなく他の部屋の様子が気になった俺は、いかにも薄そうな壁に耳を当て隣の部屋に聞き耳を立ててみる。


「ちょっと悪趣味よ。盗み聞きは止めなさい」


 茜が何か言ってるが無視だ。ごめんな、マイスイートハニー。人間とは好奇心に抗えない生き物なのだよ。


「お、隣もカップルみたいだな」


「え? ほんと?」


 茜も盗み聞きの誘惑に負け、俺と同じように壁に耳を当て始めた。


『俺は……秋月の事が好きだ……フレンドリー・ファイヤの正体を知った時からずっと惹かれていたんだ……だから……付き合って欲しい』


「え、え、ええ! もしかして……これって告白⁉︎」


 茜が言うように隣の部屋では男からの告白の真っ最中だった。


「ああ、そうみたいだな……エロい声が聞けると思ったら……別の意味で凄い場面に遭遇したな」


「翼! ここまで! これ以上盗み聞きするのはなし!」


 壁にへばりついて聞き耳を立てていた俺を茜が無理やり壁から引き剥がした。

 

「何すんだよ⁉︎ これからいいとこなのに」


「相手に失礼でしょ! アンタは本当にデリカシーが無いわね。私たちの観覧車での出来事を盗み聞きされていたらと想像してみなさい」


「……それは……イヤだな」


 観覧車での告白、それは言葉を選ばない恥ずかしいやり取りの応酬だった。とても他人には見せられない。


「でしょう? だったら隣が上手くいくように大人しく祈っててあげなさい」


 隣は赤の他人なのに茜は優しいな。ま、そういうところが大好きなんだけど。


「そうだな。告白上手くいくといいな」


 俺と茜はあの日、恋人同士になれた観覧車での告白を思い出し、隣のカップル未満の二人に自分たちの姿を重ね心の中でエールを送った。


「……ほう、今日は白か」


「ん? アンタ何言ってんの?」


「いや、今日のパンツは白だなって。やっぱりパンツは白に限るな」


「ち、ちょっとどこ見てんのよ!」


 フラットな床でさっきゴソゴソと動き回ったせいか、茜のスカートは捲れ上がり純白のパンツが無防備にその姿を現していた。

 

「お前の制服のスカート短過ぎるんだよ。え、なに? そんなに見て貰いたかったわけ?」


「そ、そそそそそんな訳ないでしょ!」


 茜は慌ててスカートを押さえパンツを隠してしまった。


「あ! 何で隠すんだよぉー!」


「当たり前じゃない! パンツ丸見えのままでいるなんて痴女じゃないんだから」


「なあ、もう少しパンツ見せてくれよ」


「イ・ヤ・で・す!」


「えぇー、いいじゃないの。減るもんじゃあるまいし」


「そういう問題じゃないの!」


 などと言いつつも、最強チョロインの茜さんは「まったく本当にアンタは……仕方がないわね」と言いながら少しだけスカートの裾をまくり上げた。

 瞬間、女の子座りをしていた茜の捲り上げたスカートの奥に、健康的な太ももに囲まれた白い三角地帯が見える。

 恥ずかしそうに頬を赤く染め上目遣いで俺を見つめる茜。ああ、なんてプリティでチャーミングなんだ。心臓を鷲掴みにされて胸が苦しくなるぜ。その姿に見惚れながら死ぬなら、俺の人生にもう悔いは無い。


「はい、お終い! 満足した? あとは……その……そういう時が来たらゆっくりパンツ以外も見せてあげるから……」


 その時……恋人同士であるからいずれそう言う時が来るのだろう。その時の事を考えた俺は頭がショートしそうになった。


 いやはや、ネカフェなんて初めて来てが、なんというか、こう……ペアシートってのは恐るべし、だな……。



◇ ◇ ◇


<冬人・友火サイド>


 秋月に勢い余って告白した後、俺と彼女は無言の中ペアシートの個室で気まずい雰囲気に包まれていた。


「ん? 隣の部屋の声?」


 俺たち二人が無言だったせいもあり、壁も見た目通り薄いようで隣の部屋の会話が少し聞こえてきた。気まずい雰囲気を少しでも減らしたい俺は秋月に声を掛けた。


「なあ秋月、隣の部屋の声が聞こえてきてないか?」


「そういえば、何かボソボソ聞こえてきてるわね……」


 そう言って秋月は壁に耳を近付けた。俺も何となく気になり壁に近寄る。盗み聞きするのは悪い気がするが、今の気まずい雰囲気を何とかしたいのと好奇心が勝り悪いと思いながら聞き耳を立てた。


『当たり前じゃない! パンツ丸見えのままでいるなんて痴女じゃないんだから』


『なあ、もう少しパンツ見せてくれよ』


 ――!


 隣の部屋では何をしているんだ? とんでもない会話を聞いてしまった気がする。


 隣で聞き耳を立てている秋月に目をやる。彼女は顔を真っ赤にしながら壁にへばりついて硬直していた。


「な、なんか凄い会話が聞こえてきたわね……」


 硬直が解けた秋月は壁から離れ、恥ずかしそうに壁から目を背けた。


「な、なんか隣もカップルみたいだな……あ、俺たちはカップルじゃないけど……」


 この気まずい雰囲気をどうにかしようと思っていたが、別の意味で気まずくなる。


「でも……ペアシートってなんていうか凄いとこだね。エ、エッチな事もしちゃうんだ……」


 ラブホテルがわりに使う人もいると聞くけど、確かにそうかもしれない。俺たちにはまだ早かったのかもしれない。


「そうだな……俺も初めて利用したけどやっぱりカップル専用なんだなぁって思った」


「ふーん……初めてなんだ? てっきり誰か女の子と来た事あるのかと思った」


「そんな事ないよ秋月が初めてだよ」


「そっかぁ……初めてなんだ……ふふふ」


 何だか秋月の機嫌が良いぞ。さっきまでの気まずさもいつの間にか無くなりホッと胸を撫で下ろす。

 告白で気まずくなった雰囲気も今は全く感じない。貴重な体験もできたし隣のカップルに感謝するべきかな?


「じゃ、そろそろ帰ろうか」


 秋月も同意し二人で個室の扉を開け外に出る。すると隣の個室の扉が開き、学制服に身を包んだ男性に続き女性が出てきた。


 ――高校生……もしかしてパンツがどうとか会話してたバカップル?


 個室の前に並んだ二人をよく見てみると……美男美女の高校生カップルだ。

 さらに驚くべきは彼女の方だ。秋月と匹敵するレベルの美女だった。


 ――うわ、めちゃ可愛い。思わず隣にいる秋月と見比べてしまった。


 ショートカットに茶髪の美少女。秋月が隣にいるのに少し目を奪われてしまった事に反省した。でも、仕方ないよな? 可愛い子が目の前にいたらつい見ちゃうのは。

 彼氏の方もイケメンだしお似合いのカップルだな……思わず劣等感を感じてしまう。


「どうも」


 すると彼氏の方が無愛想に挨拶をしてきた。


「どうも……」


 俺はどう返していいか分からず同じような挨拶になってしまった。


「お似合いですよ。頑張ってね」


 彼女さんの方は俺と秋月を交互に目をやり、優しい笑顔でそうひと言告げて二人は立ち去っていった。


 なんの事を言ってるのか分からず不思議そうにしている秋月と俺はお互いに顔を合わせる。


「彼女さん凄い美人だったね。彼氏さんも優しそうでお似合いだった」

「あ! もしかして……」


 秋月が急に大きな声を上げた。あの二人を知ってるのだろうか?


「どうした? 知り合いとか?」


「ううん……私たちの会話もさっきの二人に聞かれていたかもしれない……」


 言われてみれば……向こうの声が聞こえるのだから、こちらの声が聞こえてもおかしくはない。


『お似合いですよ。頑張ってね』


 ……俺の告白を聞いた彼女の方が俺たちにエールを送ってくれた?


 俺は告白を他人に聞かれてしまった恥ずかしさと応援してくれた嬉しさで複雑な気持ちになった。


 横目で秋月を見ると彼女もまた聞かれていた恥ずかしさのせいか顔を赤くしていた。


 ペアシート恐るべし。


◇ ◇ ◇


<翼・茜サイド>


 俺たちはネットカフェを後にし、駅までの道のりを歩きながら先ほど鉢合わせた隣の部屋のカップルの事を話していた。


「それにしてもさっきの彼女さん、凄い美人だったね。ビックリしちゃった。彼氏の方は普通な感じだったけど、なんかお似合いって感じだったし告白の結果までは聞けなかったけど、あの雰囲気なら上手くいったはずよね」


 俺は無言で頷き肯定した。

 ああ、きっと大丈夫さ。あの二人にはお互いに信頼関係がもう築かれている気がする。


「まあ確かに茜の次くらいには可愛い子だったな。お前には敵わないが、世界ナンバー2くらいには、まあ可愛いと言っていいだろう」


「なっ⁉︎ き、急にそんなこと言わないでよ。恥ずかしいから……」


「まあ、どんなに可愛い女の子がいても俺にはお前が一番だからな。それは一生変わらん」


「ふぇ⁉︎ あ、えーと……そ、そうだよね! 翼は私の事大好き過ぎるもんね!」


「ああ、そうだな俺はお前が大好きだ」


「あー、もう! わかったからもう言わないで! それ以上言われたら恥ずかしくて、嬉しくて私死んじゃうから……」


「はは、可愛いやつだな。そんなところも大好きだぞ」


「も、もう、分かったから!」


 軽薄に『好き』だと言い放つ彼氏の俺。そして、まんざらでもなさそうに頬を染める彼女。そんな俺たちは、きっと周りの目から見れば大層なバカップルに映ることだろう。


 だが、そんなのは些細なことだ。大好きな人と一緒にいられれば周りの雑音なんて気にはならない。


 大事な人と寄り添える喜びを。そして、そう思えるほどに大切な人と出会えた奇跡を。胸いっぱいに色々な想いを抱えながら、今日も俺は彼女と共に生きていく。


 だから……さ。そこの見ず知らずのカップルたちも……頑張れよ。


<おしまい>

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