第76話 その結末の後に残るのは
春陽と夏原に自分の気持ちを伝えてから数日が経ったが、やはり以前と三人の関係性は変化した。
どう変化したというと春陽と夏原は教室に遊びに来る事が無くなった。秋月と春陽は以前のように一緒にいる姿をあまり見掛けなくなった。この状況が一時的なものだと思いたい。
美冬に夏原の様子を聞いても、簡単に元の様に戻れる訳ないでしょ、と言われるだけだった。
◇
「今日、放課後に時間空いてる?」
昼休みに大介、誠士、桐嶋くん、歩夢の四人に声を掛ける。歩夢は元々桐嶋くんの友達だから回数は減ったものの、時々昼休みに俺たちの教室まで遊びに来ている。
「ちょっと話したい事があってさ」
偶然にも全員、放課後は空いていた。これから話す事は話し難い事だけど、この四人には春陽と夏原の
〜 放課後 〜
人数も多かったのと話の内容もあり密室のカラオケ店で話す事になった。例の大学生に絡まれたカラオケ店は避けて別の店にした。
「えーと……何かしら感じてると思うんだけど……その……」
うん、内容が内容なだけにすごく言い出し辛いな……。
「咲間さんと夏原さんの事だね?」
言い淀んでいる俺に桐嶋くんが助け舟を出してくれた。さすが気の利くイケメンだ。
「その……実は先日、春陽と夏原に告白されて断りました」
うわ……これメチャ恥ずかしい。でも……これって言う必要あったのかな?
「冬人……お前って奴はなんて勿体ない事を……」
「大介、勿体ないって……物じゃないんだから」
「でもさ、春陽と奏音ちゃんは二人とも学校でも屈指の美少女だぞ。そんな二人に告白されて断るとか勿体ない以外ないわ」
まあ、普通に考えればそうなんだろうなと思わなくもないけど、容姿が良いから付き合うってのも何か違う気がする。
「
大介が誠士に
「誠士、そんな事は分かってるって、冗談だよ。二人とも振られた事には変わりないし、思うところはあると思うんだよな……もう俺達の教室に遊びに来ないかな?」
やっぱり男女の色恋が絡んでしまうと、その関係というのは大きく変わってしまう物なんだなと痛感した。
「俺がいて気まずいなら、自分がグループから離れてればいいのかな?」
「神代、そういう問題では無いと思うがな」
「月島くんの言う通りです。神代くんがグループから外れたところで誰も喜ばないですよ」
桐嶋くんの言う事は尤もで、自分が抜ければ解決するなどという安易な考え方は止めよう。
「咲間さんには直接聞けないけど、ぼくが昼休みにそれとなく誘ってみるよ」
歩夢は春陽と同じクラスだから任せてと言っている。
「奏音ちゃんの事は美冬ちゃんに聞くのが一番だな。冬人、何か聞いてないのか?」
大介の言いたい事は分かるが、兄妹といえど話し難いことはある。そもそも最近はあまり美冬と話をしていない。
「ここ最近、美冬に口を利いてもらえないんだよ。親友の夏原の事で恨まれちゃったのかなぁ……」
「そもそも解決策なんて無いと思うぞ。結局は時間が解決してくれるのを待つだけじゃないか?」
一ヶ月なのか一年掛かるかは分からないが、誠士が言うように時間が解決してくれるのを待つしかなのかな。
「それで、冬人の気持ちはどうなんだよ?」
大介のいう俺の気持ちとは? 二人に対しての事なのか?
「それは夏原と春陽をどう思ってるかって事?」
「違う違う、振ったんだから二人には恋愛感情は無いって事は分かったよ。冬人に好きな人が他にいるんだろ? まあ想像はつくけどな」
当然そういう話になるのは予想していたが、何とも答え難い質問だった。
「柳楽くん、みんな分かってる事だし野暮な事は聞かないようにしましょう」
「桐嶋のいう通りだ。柳楽にはデリカシーが足りないから女性にモテないんじゃないか?」
俺の事で桐嶋くんと誠士から散々な言われように、大介に対して申し訳なくなってきた。
「お前らひどいな。俺だって傷付く事もあるんだからな」
そうは言っているが大介は気にしてる様子もなく笑っている。
結局、俺が秋月に抱いている好意についての追及は有耶無耶になったが、全員にバレてる事には変わりなく何となく気恥ずかしい。
「でもなぁ、冬人が友火さんとはなぁ……まあ、上手くいくといいな」
「大介ありがとう。でも、俺の一方通行で終わるだけかもしれないしな」
あの秋月友火が俺の事を好きだなんてあり得る訳が無い、という自分に自信が無いが故の発言だ。
春陽は秋月の小説の事をラブレターと呼び俺に対する好意を
「当たって砕けろだ。そして砕け散るがよい。ま、骨は拾ってやるよ」
憎まれ口を利いてはいるが、なんだかんだで応援してくれている大介には感謝しかない。
「ぼくは秋月さんと冬人は上手くいくと思うけどなぁ」
「歩夢のいう通り僕もお二人はお似合いだと思いますよ」
いや……桐嶋くんと秋月みたいな美男美女の事をお似合いって言うんじゃなかろうか?
「俺は桐嶋くんみたいにイケメンじゃないし……」
「神代は分かってないな、見た目とかじゃないんだよ。ああ、あの二人お似合いだなって雰囲気を醸し出してるんだ」
「誠士、それは相性みたいなもんか?」
「まあ、そういうのもあるかもな。柳楽、神代と秋月を見て、何となくだけど合ってるなって思うだろ?」
「ぐっ! 言われてみれば……悔しいがそれは俺も認める」
「まあ、そういう訳だから神代は自信を持ってくれ」
「誠士ありがとう。俺も少しは前向きに考えてみるよ」
結局のところ春陽と夏原に関しては時間が解決してくれるのを待つという結論以外はなかった。俺の事に関しては自信を持て応援してる、という有難いお言葉を頂き涙が出そうだった。
みんなの励ましに背中を押された今、前に進むしかない。
まずは秋月の小説の応援をしたい。俺にできる事といえば絵を描くことだけだ。
俺はスマホを取り出しメッセージを送った。
『秋月に話したい事があるんだ。明日の放課後に学校の屋上で待ってる』
◇
大介達と別れ部屋に戻りベットに寝転び、先ほど送った秋月へのメッセージを思い出し俺は羞恥に
――やべえ……やっちまった……話があるから放課後に屋上で待つ。なんて告白するみたいな文面じゃないか。さすがにまだ告白する勇気はない。
今更取り消せないし覚悟を決めて会うしかないな。というか警戒して来なかったりしたらショックだ。
そんな不安を胸にベットに潜り込むが眠れない夜を過ごす事になった。
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