第72話 Love Letter from FF
友火から新作の小説を書いてるから読んで貰えないかとメッセージが届いた。そういえば以前そんな話をしていたのを思い出す。
メッセージには冬人も呼ぶ旨が書かれていた。冬人は以前に友火の別の小説にイラストを描いた経緯もあるから当然なのかもしれないが何かモヤモヤする。
だけど断る理由も無いし、友火がどんな小説を書くか興味があったから私でよければと返信した。
◇
通学路も学校に近くなった辺りで冬人の後ろ姿を見つけた。以前よりハッキリと意識するようになってから彼の姿を見るとドキドキして心が落ち着かなくなる。これが恋というものなのかな。
「おはよう! 冬人」
私は胸の高鳴りを抑え努めて冷静に明るく声を掛けた。
「ああ、春陽か。おはよう」
なんだ春陽か、みたいな返事でちょっとムッとしてしまう。寝不足だったからと冬人は言っている。まあ、それならしょうがないかな?
今日の事を聞いてみると私も誘われてる事と内容は知らなかったみたい。友火に何か思惑があるのかと勘ぐってしまう。変な邪推をしてしまうのは友火に嫉妬しているからなのかな。
◇
冬人の提案でネットカフェで読むことになった。
初めて来たネットカフェの綺麗さに驚きを隠せずついはしゃいでしまう。とても広いスペースにテーブルやソファーが設置してあり、自由に本が読めてしかもフリードリンクだ。
カレーが百円というの驚きだ。冬人によれば味も良いと言っていた。ペアシートなる個室があるみたい。冬人と二人でカレーを食べながら個室で……そんな妄想をしながら彼の横顔を見るとドキドキしてしまう。
こんな良いところを知ってるなら誘ってくれればいいのに……まあ、冬人は積極的に自分から誘ってくる方じゃないか私から動かないとダメだよね。
四人掛けのテーブルを確保し友火の小説を読み始める。
ジャンルはラブコメらしい。冬人からラノベを借りて読む事があるのでラブコメがどんな内容なのかは大体知ってるつもりだ。主人公は非モテでヒロインは美少女、他にもサブヒロインがたくさん出てきて何故か非モテの主人公がモテモテになる。何冊か読んだラブコメはこんな感じだったと思う。
友火は何故ラブコメ書いたんだろう? ラブコメは男子が好む展開が多いと思う。
読み始めてみると主人公とヒロインの設定、出会い、何か見覚えがあるような……。
読み進めていくうちに気付く。これは冬人と友火がモデルなのではないだろうか……と。そして同時に何故、友火が私にこの小説を読ませたのだろうかという疑問が湧いてくる。
読み進めている最中、頻繁に冬人と目が合う。彼も気付いているのだろう。
途中、小休止で冬人と二人でドリンクを取りに行く。
この話は友火と冬人の話なのではないかと彼に聞こうと思ったが止めた。今聞くと続きを読むのが怖くなってしまいそうだから。
そのまま席に戻り続きを読む。
面白い……適度なコメディと恋愛要素が絡まり、ストーリーに引き込まれ夢中で読み続けた。
先に冬人が読み終わったようだ。冬人は私に視線を送り何かを訴えているように思えた。
そして最後の二十二話のリンクを開き読み始める。
――!
そうか、そうだったんだ。
友火は見ていたんだ……体育祭の時に医務室で私が強引に冬人にキスをした事を。
それを目撃した友火の気持ちが小説の最後のシーンでヒロインの心情として代弁されている。泣きながら医務室から廊下を戻る描写で書かれていた。
ああ……友火も冬人の事を……好きなんだ。
読み終わった私は友火を連れて別のテーブルに移動した。
「友火、小説面白かったよ。あんなに上手に小説を書けるなんて驚いた」
私は感じた事を正直に話した。
「ありがとう。そう言って貰えると嬉しい……」
友火は嬉しいと言っている反面、どこか不安げな表情をしている。
「ねえ友火……あの小説は友火と冬人の事だよね?」
私は意を決して友火に核心を切り出した。
「……」
友火は何も言わず俯いている。
「どうして友火が私にこの小説を読ませたんだろうって考えてたの。でも読み進めているうちに分かったんだ」
無言の友火を
「これは私に友火の気持ちを知ってもらう為、そして冬人へのラブレターなんだね」
友火は私にも冬人に対して同じ気持ちを抱えている事を伝えたかったんだと思う。
「……ごめんね……私、こういう感情が初めてでどうしていいのか……どう振舞ったらいいか分からなくて……」
ポツポツと友火が語り始めたが、すぐに黙ってしまう。
「謝ることなんてないよ。友火の感情は友火のものだから私に遠慮する事はないんだよ」
「でも……」
「私ね、中学の頃から冬人の事が好きだったんだ。ずっと今のままで満足してたけど友火や奏音ちゃんが冬人と仲良くし始めてから、もっと仲良くなりたいって欲が出てきてさ」
ライバルの出現が私を焦りを誘い、医務室であんな行動を取ってしまった。
「私、嫉妬してたんだ」
正直な気持ちを打ち明けた。
「奏音ちゃんの事も好きだし、友火は親友で大好き。でも冬人の事も諦められない」
――だから
「今日、冬人にもう一度告白する」
告白の結果は分かっている。でも、もしかしたら……
その言葉を聞いた友火の表情からは、どんな感情を抱えているのかは分からなかった。
「友火、ごめん……でもこうしないと私は前に進めないの……」
「春陽、謝る必要なんてないよ。私にも分かる……痛いほど分かるよ……」
その後、私も友火も無言だった。これ以上何を話しても今は無意味な気がした。
元の席に戻ると友火は冬人の感想を聞かずに先に帰っていった。この後の事を知っている彼女にとっては辛いことであろうことは容易に想像できた。
――友火……ごめん。
「そろそろ俺たちも帰ろうか」
「ん、そうだね。帰ろっか」
この後、私は冬人に想いを伝える。
これが最後の告白。
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