第65話 襲撃⁉︎ 夏原奏音
「冬にい、明日の日曜はどこにも出掛けない?」
「明日はどこにも出掛ける予定は無いよ。っていうか何回目だよ? その質問」
なぜか美冬が金曜日くらいから日曜日に出掛けるかどうかと頻繁に聞いてくる。
「明日は出掛けちゃダメだからね」
「日曜日に何かあったっけ? 家族の中に誕生日はいないし……親戚かなんか来るのか?」
「う、うん……まあ、そんなところ」
「美冬……何か隠してるだろ?」
「べ、別に何も企んでなんか無いからね!」
隠してるだろと聞いただけだが、自分で企んで無いとか言って墓穴を掘る美冬に特に突っ込みは入れないでおこう。
「何かありそうだけど聞いても教えてくれなさそうだし……ま、いいか」
夕食を終え部屋に戻りPCを起動する。
「さて、今描いてるイラストの続きを描くか。徹夜してでも作業進めたいとこだな」
明日は休みで寝坊もできるしできれば完成させたいな。
◇
「おじゃましまぁす……」
冬人の部屋にコッソリと侵入する夏原。
「へぇ……ここが冬人先輩の部屋……男子の匂いがしますねぇ。嫌いな匂いじゃ無いです。むしろ好きな匂いかも」
スンスンと鼻を鳴らしながら冬人の寝てるベッドまで歩み寄る夏原。
「冬人せんぱぁい、起きてくださぁい。もうお昼でぇす。起きないとイタズラしちゃいますよぉ?」
昨晩の徹夜のせいか起きる気配もなくグッスリと眠り続ける冬人。
「仕方ないですねぇ……失礼しまぁす」
なかなか起きない冬人に対して夏原は冬人のお布団に潜り込む。
「ふわぁ……暖かい……それに冬人先輩の匂いが……ふへへ」
布団の中の暖かさと冬人の匂いを身体と鼻腔いっぱい感じ夏原はウットリしている。
「でも、この向い合う体勢は恥ずかしいなぁ……」
そういうって夏原は冬人に背をむけた。
ゴソゴソと布団の中で夏原が動いていたせいで起きてしまったのか、寝ぼけて後ろから夏原に抱き付く冬人。
「ひゃあ! せ、先輩……起きたんですか……?」
恐る恐る後ろを振り向くが冬人が起きている様子はない。
「寝ぼけて抱きついてきたんだ……ふわぁ! そ、そこは……」
起きているのかいないのか冬人は
「せ、先輩、まだお付き合いもしていないのにまだ早いですよぅ……でも……既成事実を作っちゃえば……」
冬人の夏原の後ろから抱きしめる力が徐々に強くなっていく。
「ふ、冬人せんぱあい……」
後ろから想い人に強く抱き締められ、幸福感で満たされた夏原は黙って受け入れていた。
「ん……うん……? なんか……いい匂いがする。それに柔らかい……」
暖かくて柔らかな感触を全身に感じ、目を覚ました冬人が
ふにっふにっ!
「う、ううん、はぁ……冬人先輩起きたんですね……おはようございますぅ」
この状況を受け入れ、紅潮しトロンとした表情の夏原が目を覚ました冬人に、おはようと恍惚の表情を浮かべた。
「な、夏原⁉︎ ど、ど、どうして俺の布団の中に⁉︎」
目を覚ました冬人は自分の布団の中で夏原に後ろから抱き付き、その控え目な膨らみに手を回している状況に混乱し硬直していた。
「あ……」
冬人は自分の身体の一部の変化に気付いた。
「ふぇ? せ、先輩……その……な、なんかお尻に当たってます……」
「な、夏原! は、早く布団から出ろ!」
冬人が無理やり夏原を布団から追い出そうとしたタイミングで冬人の部屋に美冬が入ってきた。
「ち、ちょっと冬にいたち、な、何やってんのよ⁉︎ 奏音ちゃんに冬にいの部屋に入る許可を出したけど、ま、まさかそこまでしちゃうなんて思わなかった……」
「お前が勝手に俺の部屋に入る許可を与えるな! っていうか何もしてないからな? 夏原が勝手に布団の中に入ってきただけだからな?」
必死に言い訳する冬人だがひとつの布団に女子と一緒に包まっている状況では苦しい言い訳だった。
「冬にいサイテー」
ゴミを見るような
「な、夏原も何か言ってくれよな? 何も無いって。っていうか早く布団から出ろ!」
なかなか布団から出ない夏原を無理やり追い出す。
「奏音わぁ冬人先輩に布団の中で色々とされちゃいましたぁ」
夏原はニヤリとほくそ笑んだ。
「お、おい! 何言ってんだよ。何もしてないよな? な? 無いと言ってくれ!」
冬人必死の懇願も虚しく擁護してくれる人は誰も居なかった。
「冬にい……春陽さんと秋月先輩にこの事は黙っててあげるから……後は分かるよね?」
そう言って美冬は手を差し出してきた。何か寄越せという事だろう。
「分かったよ……今度何か奢ってやるからさ」
「やった! もちろん奏音ちゃんの分もだからね!」
「分かった分かった……だけど、ほんっとに何も無かったからな? 誤解するなよ?」
「はいはい、分かりました。何も無かった事にしてあげるから」
「とにかく二人とも部屋から出て行ってくれない? 歯磨いてシャワー浴びてくるから」
「はーい」
ようやく夏原と美冬は部屋から出て行った。
「ようやく布団から出れる……」
◇
「冬人先輩のぉお母さんの料理美味しかったですぅ」
ちょうどお昼を迎え神代家の両親と美冬、夏原を加えてお昼を摂り終えた後の事。
「何でお前はまた俺の部屋にいるんだよ?」
「前に話したじゃ無いですかぁ? 冬人先輩の部屋でタブレットを試し描きさせてもらうって」
「え? あの話ってマジだったのか?」
「そうですよぅ? マジの本気です! だから冬人先輩のお絵描き環境で描かせてくださいね」
「分かったよ……好きなように描けばいいよ」
冬人は諦めたようで素直にPCを立ち上げ準備を始める。
「冬にい今度は奏音ちゃんに手を出さないか見張ってるからね」
そう言って美冬は冬人の布団に寝転がりマンガを読んでいる。
「だから何もしてないって!」
「でもぉ冬人先輩わぁ、奏音の事意識してくれましよねぇ? ほ、ほら何か……あ、アレが、おっきくなってたし……」
「うわあ! あ、アレはその生理現象だ、朝だったら……その……も、もういいだろその話は!」
冬人と夏原の二人は気まずい雰囲気に包まれてしまう。
「いやあ……マジでドン引きですよ……冬にい」
「もう好きにして……」
冬人は言い訳するのを諦めた。
◇
「今日はありがとうございましたぁ」
夕方、夏原は両親に挨拶し帰って行った。
「アイツ……散々俺のPCを弄り回して帰って行ったな……これで描き味とかわ分ったのかな?」
「奏音ちゃん楽しそうだったね? 冬にいも何だかんだで楽しそうだったよ」
「朝から偉い目にあったよホント。心が落ち着かない一日だったよ」
「ふふ、冬にいも素直じゃ無いだから」
「もう、夏原を呼ぶなよ。あいつは何をしてくるから分からないからな」
「私が友達を呼ぶのは自由ですからねぇ?」
「はいはい、今度はしっかり鍵掛けとくからな」
夏原に引っ掻き回された休日を終えた冬人は楽しそうに笑みを浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます