第64話 カラオケボックスでひと騒動(後編)
「おい、見ろよ。ドリンクバーにいる女のグループ。上玉ばかりじゃね?」
カラオケ店の受付付近で大介に絡んだ男のグループの短髪の男が、仲間の金髪の男に話し掛けた。
「お、マジでカワイイ子ばかりじゃねえか。しかも高校生か……いいねぇ美味そうだ」
金髪の男は友火たちを見て
「ねぇねぇ俺たちと一緒にカラオケやんない?」
金髪の男がドリンクバーに前にいた友火たちをナンパし始める。
「ウヒョー見ろよ、ロングにショート、ミディアムにロリまでいるぜ。お前ロリ好きだったよな。ウヒャヒャ」
イヤらしい目つきで下品な言葉を並べる男たち。
「え? い、いえ私たち他に友達と一緒なので……」
春陽が丁寧に断ろうとするが男達はそれを遮ってしまう。
「なに? 友達って女? 男だったらそんなガキどもより俺たちと遊ぼうぜ」
「い、いえ、その……」
男達の粗暴な態度に怯えた春陽と一年生の奏音と美冬の三人は黙ってしまう。
「ちょっと! アンタ達みたいな下品な奴と一緒に遊ぶ訳ないでしょ! 三人とも怖がってるじゃない!」
そんな中、一人臆する事なく金髪の男に友火が食って掛かった。
「おう! うちの大学でも見掛けないくらいの良い女だな! しかも威勢が良い。俺は気の強い女が好きなんだ。まあ、そんなつれない事言わずに遊ぼうぜ!」
金髪の男は友火の手首を掴み無理やり連れて行こうとする。
「ちょっと何するのよ! 離して!」
抵抗する友火だが男の腕力に敵うはずも無く振り解くことが出来ない。
「友火! お、お願いだから止めてください……」
「ショートカットの姉ちゃんも一緒に歌おうぜ。なに少しだけだからさ」
勇気を出した春陽の必死のお願いも届かず、男共はイヤらしい笑みを浮かべ春陽に詰め寄る。
「……春陽? 秋月? これは一体……?」
「冬人! 友火が……」
「なんだぁ? お前は……コイツらの連れか?」
金髪の男は冬人を完全に舐めた態度で威嚇する。
「あ、あんたら何やってんだ! 秋月の手を離せ! 春陽から離れろ!」
冬人はチンピラ崩れの男共に凄まれ、膝が震えるのを必死に押さえながらも何とかしようと必死だった。
「こんなダサ坊より俺達と遊んだ方が楽しいぞ、なあお前らもそう思うだろ?」
友火達に向けてか仲間に向けて分からない肯定を求め、金髪の男は友火の腕を引っ張り自分たちのカラオケルームに連れ去ろうとしている。
「お、おい秋月を離せって言ってるだろ!」
冬人は金髪の男の前に立ちはだかる。
「まあ、ダサ坊は邪魔だから部屋に戻って一人で歌ってな」
「うわっ!」
金髪の男に突き飛ばされた冬人は後ろに倒れそうになった瞬間。
「おっと、神代くん大丈夫かい?」
「き、桐嶋くん!?」
突き飛ばされ倒れ掛けた冬人を受け止めたのは桐嶋だった。
「誰も戻って来ないので様子を見に来たんですが……一体どう言う状況なんですか?」
「アイツらが秋月達を無理やり連れて行こうとして……」
冬人は桐嶋が来た事で少しホッとしたのか安堵の表情を浮かべた。
「なんだテメエは? まぁたお前らの仲間か?」
「彼女から手を離してもらえませんか? 嫌がっていますので」
「この女、お前のコレか?」
金髪の男は下品に小指を立てて桐嶋の女かどうか問うた。
「いや、彼女じゃありませんがここにいる素敵な女性達は大切な友達です。その大切な友達が嫌がっているので、手を離して大人しく引き下がりませんか?」
いつもニコニコしている桐嶋が今は怒りを
「高校生のガキが一人増えたところで、お前みたいな優男になにができるんだ?」
「おっと一人じゃないぜ? 丸山大輝さん」
「だ、大介……」
「お、お前なんで俺の名前を知ってるんだ⁉︎」
本名で呼ばれ慌てる金髪の男。
「東渓大学文学部三年丸山大輝さんだっけ? アンタさっき生徒手帳を落としたのに気付かなかったみたいだな?」
「な、なんだって?」
慌ててズボンの後ろポケットを弄る丸山。
「生徒手帳は店員さんに渡しておいたから拾った俺に感謝してくれてもいいんだぜ」
丸山を煽る大介。
「ふ、ふざけやがって……」
「なんだよ、東渓大学文学部三年丸山大輝さん。感謝はされども文句を言われる筋合いはないんだけどなぁ」
「…………」
大介に大学名と学部、名前まで連呼され押し黙る丸山。
「で、そろそろ引いてくれないかね? これ以上俺たちに絡むなら、丸山大輝って人に絡まれてるって大学に連絡してもいいんだぜ? それとも警察がいいか? アンタ三年で未成年じゃないだろう? 新聞に名前も載るし、良かったじゃないか? ね? 東渓大学文学部三年丸山大輝さん」
そう言って丸山に詰め寄る大介と桐嶋。二人とも百八十cm近い長身であり、それほど身長の高くない丸山を上から見下ろすように凄む。
「ちっ……行くぞ! 覚えたろよ!」
そう言って悪態を吐き取り巻きの男達と立ち去る丸山。
「あ、生徒手帳忘れてる帰るなよ。東渓大学文学部三年丸山大輝さん!」
大介がトドメとばかりにさらに煽った。それを聞いた丸山はコチラを恨めしそうに一瞥して自分たちの部屋へと戻っていった。
「ふう…大人しく立ち去ってくれたか」
一難去ってため息を吐く大介。
「桐嶋くん、それに大介……ありがとう。どうなる事かと思ったよ。俺一人じゃどうにもならなかったから助かった」
桐嶋と大介の男達とのやりとりを黙って見ていた冬人がようやく口を開いた。
「ああ、生徒手帳を偶然拾ってたのが幸いしたな。無かったら結構面倒だったかもな。ともあれ誰も怪我とか無くてよかった」
平然とした態度でいたように見えた大介もホッとしている。
「柳楽くん、桐嶋くん……本当にありがとう。腕を掴まれた時本当に怖かった」
秋月は生来の気の強さもあり、気丈に振る舞っていたが本当は怖かったであろう。
「秋月……なんの役に立たなくてゴメン……」
無力だったと落ち込む冬人。
「そんな事ないよ。アンタが勇気を出して助けようとしてくれただけで十分だよ」
秋月はありがとうと冬人に笑顔を向けた。
「私も冬人が助けに来てくれたから嬉しかった。桐嶋くんに柳楽くんもありがとう」
「春陽も……怖い思いさせてゴメン……」
「ふぇぇ……冬人先輩怖かったですぅ……桐嶋先輩と柳楽先輩ありがとうござました。二人ともカッコ良かったですぅ」
「争い事は苦手なのに冬にいも勇気を出したよね」
「夏原と奏音も無事でよかった……桐嶋くんと大介は臆する事なく対応して本当に凄いな……それに比べて俺と来たら……」
桐嶋、大介と自分を比べて落ち込む冬人。
「美冬ちゃんも言ったでしょ? 争い事は苦手なのに勇気を出したって。それにアンタはそう言うカッコ良いキャラじゃないんだから気にしなくていいのよ」
「秋月……さっきダサ坊とか言われてたし、俺ってそんなにダサいのかなぁ……」
「冬人先輩わぁダサくないですよぉ。冬人先輩の魅力わぁ、カッコイイとかぁそう言うのじゃないんですよぉ。ねえ? 春陽さん」
「うん、そうだね。冬人にカッコ良いキャラは期待してないから大丈夫! 他にたくさん魅力があるんだから気にしない事」
「そう言って貰えて少し自信が出たよ。ありがとう」
「それにしても、いつもニコニコしている桐嶋先輩が怒ってるの初めて見ました。それに真面目な柳楽先輩も初めて見ました。二人ともカッコ良かったですです」
「そうだろ美冬ちゃん! 俺もやる時はやるんだよ? それなのにモテないのはなんでだろうな? うちのクラスの女子は見る目がないよなぁ。あ、美冬ちゃん俺に惚れちゃあダメだぜ。シスコンの冬人が嫉妬するからな」
「誰がシスコンだよ!」
「い、いえ柳楽先輩には惚れないと思いますので大丈夫です」
「カッコ良いとこ見せたのになぁ……なあ桐嶋」
「そうですね。柳楽くんカッコ良かったですよ。あの機転の利かせた対応で見事に相手を完封しましたね」
「桐嶋、俺のカッコ良さをクラスの女子に広めてくれても良いんだよ?」
「はは、分かりました。クラスのみんなに柳楽くんの良さを伝えておきましょう」
「おお! よろしく頼むよ」
大介が長年の親友のように親しげに桐嶋の肩を抱いた。
「何だかカラオケの気分じゃ無くなったし、アイツらとまた顔合わす前に今日はもう帰った方が良さそうだな」
また絡まれるのはゴメンだと冬人が提案し、波乱のカラオケはお開きとなった。
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