第55話 体育祭にトラブルはつきもの?

 梅雨入り前の六月の上旬、真夏のような暑さの中、桐ヶ谷学園高等学校の体育祭が開催された。


「ようやくこの日まで漕ぎ着けたなあ」


 体育祭実行委員の俺と川端さんは体操着に着替え、実行委員の腕章を腕に付け感傷に浸っていた。


「本当……最初、実行委員に選ばれた時どうなるかと思ったけど、準備までなんとかやり遂げる事が出来たのも神代くんのお陰だよ」


「いや、そんな事ないって。川端さんに助けられた事もたくさんあったし、お互い頑張った成果だし胸を張ろうよ」


 最初に委員に選ばれた時は正直面倒臭いと思ったけど、いざ取り組んでみると大変だったけど楽しくもあり充実した二ヶ月であった。


「そうだね……私たちの努力とみんなの協力無くして為し得なかった事だし感謝して自慢してもいいかもね」


「ああ……でも今日がまだ残ってるからな。気を抜いて最後にポカしないように気を付けよう」


 そう、実行委員は今日のスケジュール管理をしなければならない。競技の準備と片付け、生徒の誘導、各競技の記録などなど……


「さて……もうすぐ開会式も始まるしそろそろ行きますか」


「うん!」



 開会式が始まり校長の話など一通り終わり最後の宣誓の時を迎えた。


 壇上に颯爽さっそうと登場した生徒代表はなんと……柳楽大介やぎらだいすけであった。


「大介の奴本当に大丈夫なのかな? まさか本人が宣誓をやりたいって立候補するとは思わなかったわ」


 うちの学校では宣誓をやる生徒は立候補で決めていた。立候補した生徒は選挙のように体育祭にどんな想いで参加するのか等、熱い想いを語り、投票で決まるという変わった選考方法だった。大介はそんな選挙を勝ち抜いたのだった。


「俺はやる時はやるよ、と言ってたから柳楽の宣誓に期待しようじゃないか」


 隣の誠士は大介の宣誓に期待しているようだ。


「俺は心配だよ……宣誓で変な事言わないか」


 俺は逆に宣誓で何か変な事を狙っていないか心配で仕方が無かった。


 俺の心配を他所に宣誓が始まった。


『宣誓!』


 静まり返る校庭の中、大介の宣誓がマイクの大音量で響き渡る。


『我々選手一同は、今日、この日のために頑張って練習をしてきました。

週一くらいで一生懸命練習に励んできたので、本番の今日くらいは、楽をして勝てる方法を思案することに全力を尽くしたいと思います!

二〇××年六月八日 二年C組 柳楽大介!』


 大介の宣誓にドッと生徒たちから笑いが湧き上がった。


「大介の奴……真面目に宣誓すると思ってたけど、まさかのウケ狙いだったとは……」


『あはは、柳楽の奴やるじゃない?』、『いいぞー柳楽!』


 周囲の生徒たちの反応は上々で大介のウケ狙いは成功のようだった。


『桐ヶ谷学園高等学校 第五十八回体育祭ただ今より開催します!』


 ウォォォーーー!


 締めの開催の合図で一気に盛り上がる生徒たち。大介の宣誓も大成功のようだった。



 各競技も順調に消化し、特にトラブルも無く午前中の競技は終了となりお昼休みになった。俺の参加競技も終わり残すは実行委員の役割を全うするだけとなった。


 ただスケジュールの進行が若干遅れていた為、十二時半からの昼休憩となる。


「暑いな……これから競技の生徒はこの暑さの中で大変そうだな」


 まだ六月だというのに真夏並みの暑さで、汗が止まらず水分補給は必須だった。


「本当……暑すぎて熱中症に気を付けないと危険よね」


 まだ自分の競技を終えていない秋月が、ウォーミングアップエリアでストレッチをしている。


 秋月は長い髪をポニーテールに纏め、汗で体操着が肌に張り付き、身体のラインや胸の膨らみを強調し、髪をアップにしてあらわになったうなじとかが、何だかエロい事になっている。

 短パンから伸びる長い脚も程良い太さで生の素足は健康的で魅力的だ。


「ちょっとー友火の身体を何ジロジロ見てんのかな。? 冬人の目がなんかイヤらしいよ」


 秋月をエロい目で見ていた事がバレ、ギクッとしながら声のする方に振り返るとハチマキを巻いた春陽が腰に手を当てただずんでいた。


「えーと……何のことでしょうか? 春陽さん?」


「あーしらばっくれる気なんだ……ねえ友火、冬人がさっきイヤらしい目でずっと見てたよ」


 いやいや、チラッと見ただけですよ……と、心の中で思っていても秋月に届くはずもなく、彼女がジト目でさげすますように睨みつけてくる。


「アンタ……本当に見境が無いのね……女子なら誰でもいいんじゃない?」


「いや……そんな事はないぞ。秋月と春陽ならオッケーだ」


「全然っ嬉しくないわ!」


 秋月は名誉あるエロい目で見られる対象大賞に選ばれても嬉しくないらしい。俺も自分で何言ってるか分からなくなってきた。


「あ、私は嬉しいかも……」


 どうやら春陽はイヤらしい目で見られる対象大賞として選ばれたのが嬉しいらしい。


「春陽……アンタ……コイツにイヤらしい目で見られて嬉しいの?」


 訳分からないと秋月は春陽に問い返した。


「ほら……特別扱いっぽいし友火と共に選ばれるなら光栄じゃないかな?」


「ち、ちょっと春陽! 頭大丈夫? 熱射病とかになってない? 変な事口走ってるわよ!」


 どうやら春陽はこの日差しの中、熱にやられて変な事を口走ってると秋月に心配されている。


「もう! 別に頭は大丈夫よ! 変な事言わないでよね。私は昼休みが終わったら直ぐ出番だから、ウォーミングアップしてるからね」


 そう言ってストレッチを始める春陽に俺は目を奪われる。やっぱり汗に濡れる美少女は絵になると。


「アンタ……懲りないわね……目を潰されたいの?」


 秋月が物騒な事を言ってくる。


「分かった分かった! 目を突こうとしないで!」


「まったく……」


 秋月は呆れたとブツブツ言いながらタオルで汗を拭いている。


「それにしても春陽は頑張ってるなぁ……暑いからあんまり無理しない方がいいけど」


 春陽のウォーミングアップには余念が無い。ダッシュとストップを繰り返して汗だくになっている。


「おーい! 春陽、少し休んだらどうだ? 水分も補給した方がいいぞ」


「うん、もう少しで止めるから。水分はお腹が重くなって走れなくなるから、喉を潤すくらいにしとく」


 春陽は真面目だな……体育祭の競技といえど本気で取り組んでいるのが分かる。これなら良い成績が出そうだな。

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