第52話 咲間春陽は動物好き
体育祭実行委員に選ばれてから何回かのミーティングを重ね、体育祭の準備も着々と進んでいる。
俺と川端さんも思った以上に忙しい日々を送り、今も放課後の実行委員のミーティングを終えて第二視聴覚室から出て教室に戻るところだ。
「冬人! 今日は一緒に帰ろうよ!」
視聴覚室から出た俺たちの後を追い掛けるように春陽が駆け寄ってきた。
「そうだな……帰りにどっか寄って行くか?」
「うん! そうしよう!」
春陽が嬉しそうに元気よく返事をする。
俺は川端さんも一緒にどう? そんな感じの視線を彼女に送ってみた。
「邪魔しちゃ悪いから私は帰るね。神代くん、咲間さんお疲れ様でした!」
川端さんはそう言って俺たちからの挨拶も聞かずにさっさと行ってしまう。
「じゃあ、一回教室に戻って荷物を取ってくるか」
春陽と二人で教室に戻ろうと歩き出した時、誰かに見られてるような視線を背中に感じて振り返ると、視聴覚室のドアの前に佇む武居の姿があった。その顔は俺たちを睨み付けるような、悔しそうな表情に歪んでいた。
「な、なんか武居に凄い睨まれてるような気がするんだけど……」
俺が春陽にその事を訴えると、彼女は後ろを軽く振り返り確認すると、俺の手を引き慌てて廊下を早足で進んでいった。
「お、おい……どうしたんだよ?」
「なんか武居くん凄く機嫌が悪いみたい。最近はミーティングが近くなると機嫌が悪くなるんだ。それに……なんか冬人の事をあまり良く思ってないみたい」
「え? 俺嫌われてるの? なんかしたかな……?」
武居を怒らせたり、嫌われるような事はしていないと思う……たぶん。
「武居くんが言うには、いつもミーティングでやる気無さそうにしてるとかどうとか……」
確かにミーティングでは発言もほとんどしてないし、流されてるように見えるかもしれないけど……それが気に入らないのかな?
「きっと忙しくてイライラしてるんだよ。とにかく触らぬ神に祟りなし。さっさと帰ろう」
落ち着けばそのうち機嫌は良くなるから今日は関わらないようにしよう、と春陽は言っている。
「そうだな武居の奴忙しそうだもんな。春陽も協力してやれよ」
「もう……他人事みたいに言わないの。もちろん私も出来るだけの事はするけど、冬人も委員なんだから協力してよ?」
「分かった分かった、せいぜい足を引っ張らないようにするよ」
春陽は相変わらず消極的だなぁ、冬人らしいけどね、と笑っていた。
◇
教室から校門を抜けて春陽と二人で駅に向かう途中、通り掛かった店の前で春陽が立ち止まった。
「うわあ! 冬人見て! ちょーカワイイ!」
春陽がガラス越しに覗き込んでいる先には、ショーケースの檻の中で
ここはペットショップの前で、春陽と一緒に帰宅すると必ず彼女が足を止める場所だった。
「冬人、ちょっと覗いていこうよ!」
店の前を通り掛かれば必ず足を止め、店に入ってペットを愛でて帰るのが春陽にとっての帰宅ルートで最も重要なポイントだ。
春陽は無類の動物好きだ。動物を眺めている彼女の顔は慈愛に溢れ、その笑顔を見ているだけで俺も癒される。
春陽は動物病院の前でも立ち止まり、病院の入り口に貼り出された保護された猫とかの情報を見ながら、飼い主が見つかって良かったとか、なかなか見つからないね……と一喜一憂している。彼女は本当に優しい女性だ。
店内に入ると様々な動物がケースの中で戯れていたり眠っていたりする。春陽は動物たちを眺めながら優しい表情を浮かべる。
「ねえ、冬人! もうすぐゴールデンウィークだし動物園に行かない?」
春陽はペットショップだけでは物足りなくなったのか動物園に行こうと言い出した。
「動物園かあ……そいうえば小学校の時の課外授業以来行ってないなあ……じゃあ行くか?」
俺も動物は嫌いじゃない。むしろ好きな方だし、この前久々に行った水族館も楽しかった。動物園も楽しめるのではないだろか?
「やった! 行こう行こう! わーい!」
春陽がやたらと浮かれている。そんなに動物園に行くのが嬉しいんだな。
「じゃあ、今日どこに行くか決めちゃうか。ここ出たらどっかカフェに入ろう」
「うん、そうしよう!」
俺たちはペットショップを後にし駅前に向かった。
◇
カフェに入り注文を済ませ、テーブル席ではなくカウンター席に並んで座った。この方がスマホを覗き込んだりしながら話し易いからだ。
「さて……どこにするかな……」
スマホで動物園を検索をすると、行動範囲内には結構な数の動物園があった。
「へえ、動物園って結構あるんだな。自然公園って名前で動物ゾーンがある公園もあるんだな」
春陽も自分のスマホで検索しているようで真剣にスマホの画面を眺めている。
「ああ……どこの動物園にするか迷っちゃう。動物園ごとに展示されてたり、されてなかったりする動物がいるから悩ましいな……」
春陽によるとパンダがいる動物園は近くに一ヶ所しかないし、オカピはまた別の動物園にしかいないし、見たい動物は散らばっていて一ヶ所で全てを見れないのが残念と言っている。
「まあ、それは仕方がないんじゃないかな? 別の機会に行けばいいんだし」
「そうだよね! 冬人は何回でも付き合ってくれるよね?」
「あ、ああ……動物園くらいないくらでも付き合うよ」
春陽の勢いに負けていくらでも付き合うと約束させられてしまった。
「えへへ……冬人がいくらでも付き合ってくれるって……付き合ってくれる……」
春陽がニヤニヤしながら何やらブツブツと言っていて怖い。でも嬉しそうにしてるし、楽しそうだしまあいいかな。
「あ! ねえ、冬人! 良い情報見つけたよ。下野動物園は五月五日のこどもの日は無料開放日だって」
「へえ、子供だけじゃなくて全員入場無料なのか?」
「そうみたいだね。これならお金も掛からないしどうかな?」
「うん、いいんじゃないか? でも……無料だと凄い混みそうだな」
「ゴールデンウィークだしどこ行っても混んでるよ」
「まあ、そうだな。じゃあ五月五日に下野動物園に決まりだな」
「オッケー! 今からすごい楽しみ! 早くゴールデンウィークにならないかなあ」
春陽はこの後カフェを出て帰宅する間ずっと上機嫌だった。
それだけ喜ばれると俺まで楽しみになってくるから不思議だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます