第51話 神代冬人は人気者?
体育祭実行委員の第一回ミーティングから一夜明けた昼休み、いつものように春陽が教室にやってきた。
「冬人! 昨日はお疲れさまでした。まさか一緒の委員だとは思わなかったよ」
「俺も春陽が委員だとは驚いたよ。アレか? くじ引きで決まったとか?」
「違う違う。体育祭実行委員は立候補したんだ。文化祭実行委員か悩んだんだけど、体育祭実行委員にして良かったよ」
「そうなのか?」
「ほ、ほら、別のクラスになちゃった冬人と一緒に活動できるし嬉しかったんだ」
一年の時に仲が良かったクラスメイトの中で、春陽だけが別のクラスになってしまった事を考えると、委員という形で元クラスメイトの川端さんとも接点が出来た事が嬉しかったのだろう。
「川端さんも、武居も同じ委員だったし、なんか同窓会みたいだな」
とは言ったものの川端さんも、武居も特に仲が良かった訳ではないけど。これを期に川端さんとも仲良くなれたらいいなとは思う。
「そうそう、武居くんも頑張ってくれたから昨日はスムーズに議題が進んだね」
「ああ、本当に適役だったな。お陰で昨日は何もしなくて楽だったよ」
「だからって人任せにしちゃダメだからね。今日のロングホームルームで各生徒が参加する競技を決めるんだから」
「ああ、分かってるよ。流石にそれは頼れないから自分たちでシッカリやるよ。今だって今日の議題について復習してたんだぞ」
春陽の言うように今日は各生徒がどの競技に参加するかホームルームで決める日だ。自分のクラスだけ決まりませんでした、なんて言い訳は通用しないので話し合う議題の再確認も済ませている。
「えらいえらい、冬人が珍しくやる気を出してるようだし、お互いに頑張ろうね!」
春陽がよしよしと頭を撫でようと手を伸ばしてきたので素早くそれを
「ちょっと! なんで避けるのよ?」
俺がすかさず躱したのがお気に召さなかったようだ。
「いい歳して頭撫でられても嬉しい訳ないだろ?」
「ははーん……さては照れ隠しかなぁ? 冬人は素直じゃないからね!」
「春陽さん、冬にいの事よく分かってますね。あれは恥ずかしいから照れ隠しですよ。本当は褒められて心の中では嬉しいんです。妹が言うんだから間違いありません!」
先ほどから大人しく俺達の話を聞いていた美冬がここぞとばかりに適当な事を言い始めた。
「おいおい、俺の心の声を捏造するんじゃないよ。妹だからって俺の本心が分かるとは思えないけど?」
「冬にい、何十年一緒に住んでると思ってるの? 私は冬にいの
「はあ? 美冬……誤解されるから変な事を言わないでくれ」
しかも何十年って俺たち生まれてから十数年しか生きてないんだけど?
「冬人……まさか妹にまで手を出してるんじゃないでしょうね?」
「おいおい……春陽……までって何だよ? それじゃ俺が色々と手を出してるみたいじゃないか?」
「アンタいくらモテなくて美冬ちゃんが可愛いからって、妹に黒子の数まで数えさせるなんてとんだ鬼畜兄ね」
どこからともなくやってきた秋月が会話に割り込んできた。最近は彼女を取り巻く生徒も減り、桐嶋くんも同じように取り巻きの女子生徒も減った為、昼休みも自由に動けるようになったようだ。
俺の周りは相変わらず下級生から他のクラスの生徒まで集まってきておりカオスだけど。俺は静かに昼休みを過ごしたいんだけどな。
「秋月……そんなの美冬の冗談にきまってるだろ? アイツは俺を
「美冬ちゃんわあ、冬人お兄ちゃんの事が好きなのでぇ、本当にぃ黒子の数を知ってるかもしれませんよぉ?」
ここまで大人しくしていた夏原が何か怖い事を言ってきた。
「か、奏音ちゃんなに言ってのん? そ、そんな訳ないじゃん。このバカ兄を好きなんてあり得ないから!」
「そんなにムキになって怪しいですぅ。私わあ冗談で言ったんだよぅ? 美冬ちゃん本当にぃ冬人お兄ちゃんが好きなんですかぁ?」
夏原が美冬を揶揄っている様は仲睦まじくて結構なんだけど、俺をネタにするのは止めてくれないかね? なんだか秋月と春陽の視線が怖いのですが?
「あ、あの……神代くん……盛り上がってるところゴメンなさい……ちょっといいですか……?」
後ろ振り向くと川端さんが申し訳なさそうに声を掛けてきた。
「あ、川端さん騒がしくてゴメン。何かあった?」
「えと、今日のホームルームでの事で話したい事があるんだけどお邪魔だったかな?」
「いや、大丈夫だよ。ちょっとここ騒がしいから川端さんの席の方に行こう」
「あー! 冬人先輩もう新しい女子にぃ手を出したんですかぁ?」
夏原が川端さんの姿を見るなり茶化してくる。
「違うわ! 体育祭委員の相方だよ! お前ら昼休みも終わるからそろそろ帰れ。春陽もな?」
「はーい、分りましたぁ」
夏原は毎回、返事だけは良いんだよな。これで昼休みも来なくなれば平和なんだけど。
「咲間いるか?」
教室の外から咲間を呼ぶ声が聞こえ、ドアに目を向けると隣のクラスの武居の姿があった。
「あ、武居くん何か用事?」
春陽が武居に気付き返事をすると武居が教室の中まで入ってきた。
「今日のホームルームの事で話があるから教室に戻って来てくれないか?」
春陽も委員の話で武居に呼ばれてるようだ。よく考えたら今が忙しい俺たち体育祭実行委員はのんびりはしていられないのだ。
「冬人、そういう訳だから教室に戻るね。また来るから!」
「ああ、もう昼休みに来なくていいからな」
「もう、何でそういう言い方するかな? ひょっとしてそれも照れ隠しかな?」
「咲間! 時間が無くなるから行くぞ」
にゃははと笑う春陽の傍にいる武居が、イライラしてるのを隠さず俺をキッと睨み付けてくる。
うわ……メッチャ睨まれてる。俺のせいじゃないからな?
こうして春陽が武居に連れ戻され、夏原と美冬も各々の教室に戻っていき平穏が訪れた。
「川端さん……なんか騒がしくてゴメン……」
川端さんから話があると言われてからゴタゴタして待たせてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「それにしても……神代くんは人気者だね。今や秋月さんや桐嶋くんより人気があるんじゃないかな?」
「いやいや、流石にそれはないわ」
「うーん……秋月さんと桐嶋くんはビジュアルの良さが人を惹き付ける大きな要素だけど、神代くんは何て言うか……人柄で人を惹き付けてる感じかな?」
「人柄と言わてれも……一年の時と何も変わって無いと思うんだけどね」
そう、自分では一年の時と変わったなと思える部分はビジュアル的にも精神的にも感じない。ひとつだけ変わったといえば人間関係だと思う。主に秋月と仲良くなった事で俺の周りの人間関係が大きく動いた気がする。それだけ彼女は俺に大きな影響を与えたともいえる。
「そういうのは自分では分からないものだと思うよ。周りの人の方が変化を敏感に感じとれるんだよ」
他人の方が変化に気付き易いというは正しいかもしれない。川端さんは一年の時も同じクラスだったから、俺の変化にも気付いているのかもしれない。自分では分からないだけで。
「さて、昼休みも残り時間が少ないしホームルームで話し合う議題についての話だっけ?」
「そうそう、時間が無いからさっさと決めちゃいましょう」
こうして川端さんとの事前に打ち合わせたお陰か、放課後のロングホームルームではスムーズに話し合いが進み、各生徒が参加する競技が決まった。
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