第47話 めざしのトップランカー ⑤

 新刊コーナーへ先に行ってしまった桐嶋に続き、秋月も新刊コーナーに早足で向かった。


 ――そんな訳ないじゃない! 相手は男よ男。負ける訳ないじゃない。


「ちょっと、そこの二人! 男同士でなに腕組んでんのよ⁉︎ 離れなさい!」


 秋月は新刊コーナーの二人に駆け寄り強引に二人を引き離す。


「ええ⁉︎ 俺たち腕組んでたよね……? 男同士で⁉︎ 全然意識してなかった……マジか……」


 無意識に腕を組んでいても違和感を感じ無かった事に、冬人はショックを受けているようだった。


「ゴメンなさい……ぼくも全然気にならなくてつい……」


「い、いや……歩夢が謝る事はないから……」


「「…………」」


 二人は気まずくなり沈黙してしまう。


「歩夢の本、凄く良いデキじゃないか」


 そこに空気を読んだであろう桐嶋が、新刊コーナーに平積みにされた歩夢の本を一冊手に取り、話題を変えてくる。


「ほ、ほんとね、表紙のイラストのヒロインと主人公かな? 二人とも可愛いしカッコ良いわね」


 秋月も気まずい雰囲気にしてしまった事を気にして、話題を変えようとしているのか、必死に本を褒めているようだ。


「それじゃあ、僕は一冊買っていこうかな」


 桐嶋は本の購入宣言をする。


「めざしのweb版は読んだけど、挿絵も見たいし私も買って家でゆっくり読むわ」


 桐嶋が歩夢の本を買うと言い出したのに続き、秋月も買って帰るようだ。


「もちろん俺も買うよ」


「え⁉︎ 冬人まで! 献本もあるし……友達の三人にはプレゼントするから、買わなくても大丈夫だよ」


「僕はアユメンデスのファンだから買うんだよ。本を買って応援するのはファンとして当たり前の事だからね」


「そうよ、歩夢くんは気にしなくていいんだから。それにしても……桐嶋くんは変態だけど良い事言うわね」


「はは、秋月さん変態はヒドいな。傷付いちゃうよ」


 桐嶋は変態と言われても笑って流している。


「あ、そうだ! 本にアユメンデスのサイン書いて貰おうかな。歩夢書いてくれる?」


 冬人がサインを書いて貰おうと提案してきた。


「あ、それ良いアイデアね。歩夢くん頼める?」


「ええ! サインなんて書いた事ないよ? 練習もしてないし……」


「じゃあ、後でペンを買ってからカラオケボックスにでも入ろうか? そこでゆっくりしながらサインを考えるのがいいと思うよ? 神代くんがイラストにサイン書いてるから、デザインのアドバイスして貰えるんじゃないかな?」


 桐嶋がカフェじゃゆっくり出来ないだろうと、カラオケボックスを提案してきた。


「冬人が良いならお願いしたいな……」


 歩夢が上目遣いで冬人に懇願している。


「あ、ああ……そ、そういう事ならもちろん手伝うよ」


「ち、ちょっと! また二人で怪しい雰囲気になってるわよ」


 二人の雰囲気を察した秋月が横槍を入れてくる。


「アンタもいちいちデレデレしてるんじゃないわよ。歩夢くんは男なんだからね! まったくもう……」


 油断も隙も無いわね……三人に聞こえないくらい小さいな声でボソッと呟く秋月。



「な、なあ歩夢、ペンネームのアユメンデスって何か特別な意味があるの? 名前をもじってるとか」


「えーと……アユは歩夢の”あゆ“、メンは英語で男の意味の”メン“、デスはそのままで、”歩夢は男です”という意味の名前をもじったペンネームです」


「そ、そうなんだ……めざしの作家さんって、名前をもじるが好きなのかな? 秋月も本名をもじって変なペンネーム使ってるよな」


「変なペンネームで悪かったわね……」


「い、いや悪い意味で言ってるんじゃなくて……その……個性的ユニークだなって」


 不機嫌そうな秋月に対して、歯切れの悪い返事の冬人。


「作家さんは名前でも印象深くして、作品を読んでもらおうという努力の結果だよ。まさにユニーク(個性的)だね」


 桐嶋はヘイトを受け流す事に長けていようで、少しでも雰囲気が怪しくなると全て丸く収めてくれる。


「店によって特典が違うから他の店舗も回ってみようか? 他の店の陳列状況も見てみたいしね」


 こうして桐嶋が先導して秋葉原を巡り、カラオケボックスでサインを練習し、めざしのトップランカーとの顔合わせはサイン入りの本を収穫に無事終了した。

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