第36話 もう一人の学園一 ①
秋月の登場でザワついていた教室に、ガラッとドアを開ける音が響き渡る。と同時に女子生徒から湧き上がる黄色い声。何事かとドアに視線を向けると……そこには一人のイケメンが教室に入って来るところだった。
「あ、あれは……去年、一年生に凄いイケメンが入学してきたと話題になったが、同じクラスだったのか……」
イケメンの姿を確認した大介の話によると、俺たちの同級生に凄いイケメンがいると噂になっていたという。何人もの女子からの告白を断ってきたという噂だが、彼女らしき人物の影もなく、人柄も良いのでフラれた女子生徒も彼の事を悪く言わないくらい、完璧イケメンらしい。
そんなイケメン男子の登場で今度は女子生徒が浮き立ち始める。
そのイケメンは教室に入るなり、真っ直ぐ俺の机に向かって来る。イケメンは俺の目の前で立ち止まった。
「
「え? 俺?」
面識の無いイケメンから突然の挨拶。一瞬誰に向けて挨拶しているのか分からなかった。
「もちろん神代くんです。クラスメイトになったんだから挨拶に来たんですよ」
イケメンはそう答えると、白い歯を見せ、女子生徒なら一目惚れしそうなイケメンスマイルで人懐こく自己紹介をしてきた。
キリッとした口元、通った鼻筋に長い睫毛、整えられた眉。少し長めだが清潔感のある髪の毛。細身で身長は高い、大介と同じ位かな? 男から見ても完璧なイケメンだ。
「僕は
「
教室に入るなり、俺のところに一番最初に挨拶に来たのは何でだろう? 理由がさっぱり分からない。
「うん、よろしく」
イケメンこと桐嶋くんは満足そうに頷いた。
「そういえば
「え? まあ、そうだけど……それが何か?」
「いや、何でもないよ。それじゃあね」
謎の言葉を残し桐嶋くんは立ち去って行った。
……何だったんだ……今のは。
桐嶋くんが次に向かったのは秋月の席だった。教室の空気が一変する。ザワついた雰囲気から一気に教室内は静かになる。
教室の生徒達から「いよいよ学園一のイケメンが学園一の美女を口説きにきたか⁉︎」、「はやり狙いは秋月だったのか……」、「相手が友火ちゃんじゃ敵わない……」等、静かになった教室にヒソヒソと話す男女の声が聞こえる。
桐嶋くんが歩いて行く先にいる生徒は男女問わず、身を退き彼に道を譲る。人垣が割れ無人のスペースを彼はゆっくりと歩いて行く。
そして秋月の目の前で立ち止まった。
「秋月さん、はじめまして。僕は今日から同じクラスになった桐嶋凌。一年間よろしくね」
俺の時と同じように、白い歯を見せ、イケメンスマイルで自己紹介をする。
「桐嶋くんね。よろしく」
秋月の対応は素っ気無いものだった。他の女子なら昇天しそうなイケメンスマイルにイケメンボイスは彼女に通用しないようだ。
ひと言だけ挨拶を交わした後も、桐嶋くんはその場に留まり続け、長身の彼は着席している秋月を見下ろしている。
「桐嶋くん、まだ何か用?」
秋月の桐嶋くんに対する塩対応を見て俺はホッとした。もしかしたら彼女まで浮かれてしまうんじゃ無いかと不安だった。
「友火さんって言うんだよね。良い名前ですね。友はフレンド……火はファイヤ……そういえばフレンドリー・ファイヤっていう英語があったね? 意味は何だったかな?」
――アイツ!
俺は思わず席から立ち上がりそうになる。その言葉を聞いた秋月も一瞬、驚きの表情を見せるも、すぐに無表情になった。
「さあ? そんな言葉知らないわ。聞きたいのはそれだけ?」
身に覚えのある言葉であるはずだが、秋月は取り乱さずに桐嶋くんと話を続けている。
「ああ、ゴメン。意味が分からないよね? 今のは忘れて下さい」
桐嶋くんは「じゃあ、また」と秋月に手を振り席順の確認に掲示場所へと向かっていった。
秋月と桐嶋くんのやりとりは、周りの生徒には何の事かサッパリ分からないだろう。だが……俺に、ふゆと、と問いかけた事からも、アイツは俺達の事を知っている。
だけど……どうして分かった? 何が目的で俺と秋月にわざわざ遠回しに、近づいて来たんだ? 答えが出ないままホームルームが始まり、波乱の二年生は幕を開けた。
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今回、新たな登場人物のイラストを投稿予定でしたが、技量不足でイメージ通りに上手く描けなかった為、後日投稿します。申し訳ありません。
今後も精進して頑張りますので気長にお待ち下さい。
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