第37話 もう一人の学園一 ②
ホームルームを終えた俺は桐嶋くんの件もあり、秋月にライムでメッセージを送ろうとしたが、大介に邪魔をされてしまう。
「冬人、帰りどっか寄って行こうぜ。もちろん友火さんも誘ってな! で、誘うのはお前に任せた!」
「誘いたいなら自分で声掛けろよ」
「でもさ、あの状況は声掛け辛くないか?」
大介がそう言いながら秋月を指差す。
「ああ……確かにアレじゃ声掛けられないな」
秋月の周囲には男女の人集りが出来ていた。会話の一部を聞いてみると、帰りに遊びに行こうとか、誘っているようだ。
男子生徒は学園一の美少女とお近づきになりたいようで必死だ。女子生徒からは桐嶋くんの事を聞かれているようだ。
「な、アレじゃ無理だろ。そこで友火さんにライムのメッセージを送って誘うんだよ。そうすれば誘った上に、メッセージを確認する為に友火さんは席を離れるか人払い出来るだろ?」
おお……大介の割には気の利いたアイデアを出してきたな。大介の案に乗る事にした。
だが、大介には申し訳ないが、桐嶋くんの件で話がしたいから、誘うのは秋月だけだけどな。
俺は素早くメッセージを打ち、送信する。
内容はこうだ。『桐嶋くんの事で話がしたいから、その取り巻きの誘いは用事があるとか言って断ってくれ。いつもカフェで待ってるから話をしよう』
メッセージに気付いた秋月は「ちょっとゴメン」と言ってメッセージを確認する為に、席を離れ一人でメッセージを確認している。
――よし作戦通り。
直後、俺のスマホに秋月からの「分かった」とひと言だけのメッセージが届いた。
メッセージの確認を終えた秋月は「ゴメン用事が出来ちゃったから、今日は付き合えないんだ」と断りを入れている。
「大介、いま秋月から返信があったけど、今日は用事があるから付き合えないってさ」
大介に申し訳ないと思ったが嘘の報告をした。今度ちゃんと誘ってやるからな。ゴメン。
「そっか、じゃあしょうがないな。誠士は何か役員関係の業務があるとか言ってたし二人で行くか?」
「悪い、俺もちょっと急用ができたから、また今度な」
「なんだよ、しょうがねぇなあ」
「悪い、今度は秋月にも遊びに行こうって言っておくからさ」
「ま、それで手を打っとくか」
スマン、と大介に謝り、教室を出てビックリカメラにある恒例となった秋月と待ち合わせの場所のカフェに向かった。
◇
「で、秋月はどう思う?」
待ち合わせ場所のカフェで秋月と落ち合い、桐嶋くんに、ふゆと、と云う呼び方もあるね、と言われた事を話した。
「それは間違いなく私たちの活動を知ってるわね」
「だよな」
と、すると何が目的なんだろうか……? 秋月の弱味を握って交際を迫るとか? いやいや、まさかな……あれだけのイケメンだったら正攻法で大体の女子は落とせるだろう。
……でも、無いとは言い切れない。
「もしかして、秋月の弱味を握って交際を迫るとか……」
そんな事を考えていたら少し心配になってしまい、とりあえず話してみた。
「まさか、そんな事をする訳ないと思うけど……それだったらアンタに声掛ける必要も無いと思うけど」
秋月の言う通り、彼女の弱味を握って交際を迫るとかなら俺は関係ないよな。
「心配してくれてるの? 私が桐嶋くんからアプローチとかされたら嫉妬しちゃうとか~?」
秋月が面白がって
「べ、別に秋月が誰と付き合おうと俺には関係……ない……けどさ」
図星を突かれ、俺は身体が熱くなり上手く反論できず、下を向いてしまう。
「へえ、いいんだ……桐嶋くんカッコ良いからアプローチされたら考えちゃうかな〜」
「い、いやダメだ! アイツはダメだ」
秋月の冗談だと分かっていても何となく嫌だったので、思わず真面目に反応してしまった。
「じ、冗談よ。そんな必死にならなくても……それに桐嶋くんは好みじゃ無いわ」
「よかった……」
冗談なのは分かっていた。でも、心臓に悪い冗談は止めて欲しい。でも、好みじゃ無いと言っていたのが少し嬉しくて、つい「よかった」と安堵の声を溢してしまった。
「心配してくれてありがとう。ダメって言われて、ちょっと嬉しかった……かな?」
秋月が照れ臭そうに、はにかんでいる姿はとても可愛かった。少しドキドキしてしまう自分が、秋月に対して少し情が移ってしまった事を実感してしまう。
――考え過ぎないようにしないとダメだな。
自分にそう言い聞かせ、平常心を取り戻す努力をする。
「二人で考えたところで、どうにかなる訳でも無いし、桐嶋くんに直接聞くと俺達からバラしてしまう事になるし、結局のところ相手が動くまで待つしかないんじゃないかな?」
深呼吸をして脱線した話を元に戻す。
「まあ、それしか無いわよね。小説とイラストの話に直接触れてきたら考えましょうか」
「そうだな……悪い奴では無さそうだから、大丈夫だとは思うけど。というか……思いたい」
結局、話し合いはしたものの、対応策は何もしないと言う結論になり、スッキリしないままお開きとなった。
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