第31話 登校初日は両手に華でした
電車内は混雑していたが、美冬が必要以上に身体をくっ付けてきたり、通学路では腕を組んできたりと、ちょっと鬱陶しいくらいにスキンシップを取ってきたのを、無理やり引き剥がしながらも学校に到着する。何だか無駄な体力を朝から使わされて疲れた。
校門を抜けるとたくさんの学生で賑わっている。中でもパリッとした制服に身を包み、初々しさ満点の新一年生の姿が目に留まる。
ああ……進級したから後輩ができるんだな。部活に入ってる訳でも無いし、先輩、後輩とか俺には関係無さそうだ。
「せんぱあーい」
早速、甘ったるい可愛い声で後輩が先輩を呼ぶ声が聞こえてきた。
俺を先輩と呼ぶ知り合いはいないから自分の事だとは思わなかったが、可愛い声だったので、どんな子かちょっと興味が出て、声の聞こえた方に視線を向けてみた。
「せんぱあーい、おはようございますぅ」
背が低目の可愛い女子生徒が、前方から俺の方に向かって走って来る。
何度も言うようだが俺には後輩はいないので、俺の後ろにでも誰かいるのだろうと思い後ろを振り返る。
「冬人せんぱあーい、無視しないで下さいよぅ」
向いから走ってきた女子生徒は、そう言って半身になって後ろを振り向いていた俺の腕にしがみついてきた。
「ええ? ちょ、だ、誰?」
急に女子生徒に腕を組まれ、動揺してしまい俺は少し
「ちょっと、冬にい! 誰よ! この女?」
一緒にいる妹の美冬が、コイツ誰? みたいに不機嫌さを
「い、いや、俺にも誰だか分からないんだが……」
「冬人せんぱあーい、覚えていないなんて、ヒドいじゃないですかあ。私ですよ、教室の夏原ですよぅ」
「え? 夏原……さん? なんか雰囲気が大分変わってない?」
前回、夏原さんに会った時は、暗い髪色で眼鏡を掛け、垢抜けない感じだったが今は眼鏡も無く、髪も大分明るい色になり、緩いパーマを掛けてるっぽい。垢抜けて更に可愛さが増している。ハッキリ言ってかなり好みだ。
秋月の体験入学の日以来、夏原さんが教室を休んでいたので暫く会ってなかったが、数週間で変わるもんだな……。
「えへへ、冬人先輩の為にぃ、頑張って高校デビューしましたぁ。可愛いですかぁ?」
夏原さんは背が低いので、下から見つめられ正直に言うと、あざといが可愛い。腕も組まれていて、何か柔らかいモノが腕に当たりドキドキしてしまう。
「冬にい……何デレデレしてるのよ! 誰なのよ?」
美冬は何かイライラした様子で俺の空いている方の腕にしがみ付いてきた。これで側からみれば、両手に華である。
「ちょ、ちょっとお前ら手を離せ! 目立つだろ!」
そんな俺の主張は二人に無視され、両腕に美少女がしがみ付いてる、一見羨ましい状況だった。
「ところでぇ、隣の女の子は彼女さんですかぁ?」
夏原さんが、俺の隣ですっかり空気になっている妹を指差す。
「ん? ああ、違う違う、コイツは妹の美冬だ。四月からこの高校の一年なんだよ。夏原さんと同級生になるからよろしくな」
「そうなんですかぁ、それなら良かったですぅ。
美冬に礼儀正しくペコリと頭を下げる。妹は『どうも……』と頭を下げながらも『お兄さんねぇ……』と何やら不満そうだ。
「それにぃ、先輩なんですからあ、“さん”付けなんてしないで、奏音と呼んでくださぁい」
「それは却下! いきなり下の名前で呼び捨てとか無理だから。“夏原”って呼び捨てでいいな?」
「ええー、残念ですぅ。……でも、仕方がないので我慢しまぁす」
そんな遣り取りを校内でしている俺たちが目立たないはずがなかった。
美少女二人に囲まれ、学生たちの視線が俺たちに集まってる。
なんか俺たち注目されてない?
そう思った矢先、聞き覚えのある、これまた不機嫌そうな声が俺の耳に届いた。
「可愛い女の子二人も
その不機嫌そうな声の主を見て、心臓の鼓動が跳ね上がる。
俺はどう返事して良いのか分からず、声の主との間にほんの数秒間の沈黙が流れた。
そして……その気まずい沈黙を破ったのは夏原だった。
「秋月せんぱあーい、お久しぶりでぇす」
不機嫌そうな声の主とは……秋月だった。
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夏原奏音のイメチェン後のイメージイラストを投稿しました。
https://kakuyomu.jp/users/t_yamamoto777/news/1177354054893938214
また、近況ノートにイラストに関するアンケートを行っていますので、御協力をお願いします。
https://kakuyomu.jp/users/t_yamamoto777/news/1177354054893603871
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