第二章 新たな出会いも波乱万丈

第30話 神代美冬

 冬の寒さも和らぎ暖かくなり、桜が散り始める頃の行事といえば、始業式だ。今日から学校が始まり、俺は高校二年に進級した。

 世間一般的には『進級おめでとう』と、お祝いされるめでたい日だが俺の気分は冬のままだ。

 何故かって? 春休みが短いとはいえ、長期間の休みの後は人間、堕落するものだと思う。まあ、それだけじゃないんだけど。


 秋月と水族館に行ったあの日以来、連絡を取っていない。彼女から連絡は来ないし、自分からも取っていない。

 観覧車の一件で嫌われてしまったんではないかと思うと、連絡するのを躊躇ためらってしまう。特別好かれていた訳では無いだろうけど、それでも嫌われてしまったのなら精神的ダメージは大きい。だから連絡するのが怖い。男女の関係というのは繊細なんだな、と痛感させられた。


ふゆにい! 早く起きなよ。学校遅刻ちゃうよ」


 妹の美冬みふゆがノックせずにいきなりドアを開けて部屋に入ってきた。

 美冬はこの四月で高校生になる。しかも俺と同じ高校に入りたいとか言い出した時には驚いたが、合格してこの春から同じ高校に通う事となった。


「美冬……部屋に入ってくる時は、ノックしろって前にも言ったと思うけど?」


「冬にい、いきなり部屋に入られたら困る事でもあるのかなぁ〜? ひひ」


 俺はシスコンでは無いがうちの妹はハッキリ言って可愛い。薄い胸を張りイタズラっぽくにひひ、と笑う姿も小悪魔的な可愛さだ。

 もう高校生だし意味は分かって言ってるのだと思うが、兄として変な知識ばかり覚えて来られても心配だ。


「お前、意味分かって言ってんの?」


「もちろん! 分かってるってば。アレでしょ? 男の人が朝、布団から出れない理由は……おち――」


「ストーップ! 分かった……これ以上言わんでいい」


 何を言おうとしたのか察した俺は、強制的に続きを遮った。可愛い妹に、そんな言葉を言わせる訳にはいかない。


「お前なあ……そういう事は絶対に人前で言うんじゃないぞ」


「はーい、分かりましたあ。こんな事は、冬にいにしか言わないから安心してね♪」


「まったく……すぐ起きるから美冬は部屋を出てくれ」


「ああーやっぱり……その布団の下はおち――」


 俺はすかさず布団から飛び出し、妹を部屋から強制退場させた。


「はあ……朝から疲れる……」


 美冬が部屋に乱入したお陰で布団から出る事はできたが、朝から不要な体力と気力を使ってしまった。


 重い身体を引き摺りキッチンへ向かうと、既にパンもトーストされ、朝食の準備も出来ていた。


「冬にい、遅いよ。今日は一緒に学校行くんだから早く食べて支度してね」


「ええ⁉︎  一緒に登校するのかよ」


「当たり前じゃない。同じ高校なんだから。それに可愛い妹が電車で痴漢とかにあったらどうするのよ」


 可愛い妹が痴漢に遭う可能性も考えると断る事はできない。


「……分かったよ。でも、これから毎日一緒に通学するのか?」


 それはそれで何か嫌だな。同級生に見られたらシスコンと思われてしまいそうだ。


「もちろん! でも……部活とか始めて朝練とかあると無理かもしれないけどね」


「じゃあ、是非部活に入ってくれ。そうすれば俺は一人でゆっくり通学できる」


「それとも、アレかなぁ? 彼女と一緒に通学するとかで、お邪魔ですかぁ?」


「彼女なんていないからな」


 いないと言いながらも一瞬、頭に恋人でもないのに秋月の姿が浮かんでしまう。彼女の事をかなり意識しまっているんだなと改めて思い知る。


「ふーん……まあ、今日から一緒の高校だし、冬にいのプライベートはこれから探っていけばいいかな」


 妹よ……学校で俺の身辺調査でもするつもりか?


「二人とも早く食べて準備しなさい! 初日から遅刻するわよ!」


 朝から美冬とグダグダしていたら、母親から早く行けと怒られてしまい、慌てて支度をし美冬と家を出た。


「行ってきまーす」


 学校で秋月に会ったら、どんな顔をすればいいんだろう……?


 そんな一抹の不安を抱えたまま、美冬と二人で学校へと向かう。


━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━


神代美冬のイメージイラストを投稿しました。

https://kakuyomu.jp/users/t_yamamoto777/news/1177354054893938214


また、近況ノートにイラストに関するアンケートを行っていますので、御協力をお願いします。

https://kakuyomu.jp/users/t_yamamoto777/news/1177354054893603871‪‬

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る