第29話 第一章完結記念SS 秋月友火の日常

「あー、書けない! やっぱり経験の無い話を想像だけで書くのは難し過ぎる」


 連載中の小説とは別に新しい小説を書いている。そのジャンルはラブコメ。ストーリーには当然、デートシーンがある。

 私は今、主人公とヒロインが水族館でデートをするシーンを執筆中だった。だけど、そこで問題が……私の記憶では、水族館なんて小学生の頃に行ったキリで殆ど覚えていない。それに……デートなんてした事がない。そもそも、男性と二人きりで出掛けた事なんで無い。


「うーん……ラブコメ書いてる人って自分の経験に基づいて話を書いてるのかな?」


 これはラブコメを書き始めてから湧いてきた疑問だ。デートシーンとか、えと……ラブシーンとか。


 異世界モノなら、読者の全てが経験した事が無い話だから、現実味の無い設定やシチュエーションのシーンがあっても違和感は無いと思う。

 でも、現実の恋愛を書いてる作品だと、やっぱり作者の経験に基づいて、話を膨らませていけば、共感を得られたりして人気作になっていくのだろうか?


 いや……私は恋愛経験無いけどラブコメ読んで、キュンとしたからラブコメ書き始めた訳だし……一概にそうとも言えないか。


 どっちにしろ、経験はしていた方が良いに決まってるよね。なら誰かとデートするしか無い……けど……相手はいない。春陽と一緒に水族館に行けばいいかな?


 いや……それじゃ、ただ遊びに行くだけだわ……あ! アイツがいるじゃない! そうそう、アイツなら気兼ねなく頼めるし、そうしよう。


 思い立った私はライムでメッセージを送った。


 宛先は“神代冬人”、内容は『ちょっと相談があるから、明日の放課後いつものとこに集合』


 ――よし! これで約束は完了ね。


「ともかー、ごはんよー! 降りてきなさい」


 お母さんの呼ぶ声が聞こえる。私はスマホを手に部屋を出た。途中、リビングのテーブルにスマホを置きキッチンに向かう。


 キッチンには既に席に座ったお父さんと、お母さんが出迎えた。


「あれ? お父さん今日は早かったね」


 いつも仕事が遅くなるので、お父さんと一緒に夕飯を取れる事は少ない。


「たまには、早く帰れる日もあるさ。そうじゃなきゃ過労死まっしぐらだ」


「お父さん……それ笑えない冗談だから」



「友火、最近なんか楽しそうね。なんか最近は笑顔が絶えないように見えるわよ」


 何か良い事あった? と、お母さんが聞いてくる。


「そ、そう? 自分では分からないけど……良い事というか……楽しみが増えたかな?」


「ははーん……さては、彼氏かなんか出来た? それとも気になる男子と仲良くなれたとか? 今度うちに連れてらっしゃい」


 お父さんの前で爆弾発言は止めて! お母さん!


「な、なんだと! 男なんて許さんぞ! そいつはどこの馬の骨だ⁉︎ 学校か!」


 ガタンと、イスを鳴らし立ち上がるお父さん。


「お、お父さん、違うから落ち着いて! 彼氏とかいないから!」


「お母さんも変な事言わないでよ! お父さんが大変な事になっちゃうから」


「そ、そうか……なら良いが……どうしても、好きな男が出来たら連れてきなさい。お父さんが見定めてやるからな」


 お父さん……凄い上から目線ですね。


「でも、友火も良い年頃だし、私に似て美人だから、そういうのがあってもおかしくないでしょう?」


 自分の事を美人と平然と言ってのけるお母さん凄いです。確かに家族の私から見ても美人だけど……これ以上火に油を注ぐ発言は止めて下さい……。


「もう! 私か機嫌が良いのは最近、趣味の友達が増えたからだよ」


「男じゃないだろうな?」


 お父さんが再び疑い出す。


 私は否定しようと思ったが、アイツの顔を思い出し否定する事が出来なかった。


「趣味の友達って小説の?」


 両親には小説を書いてる事は話している。お母さんには読ませてるけど、お父さんには読ませていない。お父さんが仲間外れは寂しいとか言ってたけど、さすがにアレは見せられらない。


「そう、年上の面白い女性と仲良くなったんだ」


 先日イラスト教室で知り合った、かっちーさんの事を話した。


「そうか、ならいい。良かったらうちに連れてきなさい。友火が相談とかに乗ってもらってるようだし、お礼をしなければな」


 そうは言ったものの実は、相談に関してはアイツにばかりしている。全てを話せないお父さんには申し訳ない気持ちになった。

 趣味がキッカケで仲良くなったのが、女性のかっちーさんだけでは無く、クライスメイトの男子とか言ったら大変な事になりそうだし。ゴメンね。




「はあー、食べ過ぎちゃった。お母さんの料理は美味しいから、つい食べ過ぎちゃう」


 なんか毎日食べ過ぎて同じ事をリビングで呟いてる気がする。


 ピロン♪


 リビングのテーブルの上に置きっ放しだったスマホが、メッセージを受信した旨の通知の着信音を響かせる。

 スマホを手に取りメッセージを確認する。


『なんで俺の意思を聞かずに集合する事が決まってるんだよ。まあ明日は教室だけど時間はあるから話くらいは聞くよ』


 アイツからの返信に思わず顔が綻んでしまう。なんだかんだ文句を言うけど、絶対話は聞いてくれる優しい人だ。


 デートの相談なんて知ったら、アイツどんな顔するかな?


 私は明日の放課後が楽しみで仕方なかった。


━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━

友火がデート取材を申し込む前日譚でした。

如何だったでしょうか?


‪「第25話 イラスト教室へようこそ!(中編)」に登場する夏原奏音のラフイラストを投稿しました。

https://kakuyomu.jp/users/t_yamamoto777/news/1177354054893603769


また、近況ノートにイラストに関するアンケートを行っていますので、御協力をお願いします。

https://kakuyomu.jp/users/t_yamamoto777/news/1177354054893603871‪‬

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