第27話 恋の大観覧車
俺たちは公園内のカフェで外が暗くなるまで時間を潰し、観覧車乗り場までやって来たのだが……俺たちは、下から仰ぎ見た観覧車のあまりの大きさに言葉を失った。
「凄い大きいね……」
「ああ……何でも百二十メートルくらい高さがあるらしいぞ」
「百二十メートルって言われてもピンとこないわね……と、とにかく高い事は分かったわ」
秋月を見ると心なしか緊張してるように見える。
「怖いなら止めとくか? 無理しなくていいぞ」
「ううん、高所恐怖症とかそういうのじゃないから大丈夫」
「そうか……じゃあ行こう」
ちょっと緊張してる秋月が心配だが、高所恐怖症では無いと言っていたから大丈夫だろう。
俺たちはチケットを購入し、乗り場からゴンドラに乗り込み、中では対面で座る形になる。
「ちょっとドキドキしてきた……」
秋月はやはり少し緊張してるようだ。そんな彼女の不安を少しでも紛らわそうと思い、俺は先程仕入れた観覧車の情報で話し掛ける。
「一周が十七分だって。長いんだか短いんだか分からないな」
「あんまり長いとトイレとかの都合もあるし、丁度良い時間なんじゃないかな?」
トイレとか行きたくなってもギリギリ我慢できる時間かな? などと話しているうちに高度がどんどん上昇し駐車場の車が小さくなっていく。人間なんてもう豆粒だ。
「おお! もうこんなに高いとこまで来た」
ゴンドラは高度を上げ、窓から望む景色は、沈みゆく太陽が水平線付近をオレンジ色に染め、空に向かって殆ど夕闇に包まれてゆく。もうすぐ日没だ。
ものの数分で日も完全に沈み、ゴンドラから見る水平線の向こうは、完全な暗闇で、夜の海の飲み込まれるような怖さを
「ねえ、見て! 向こうに街の明かりが見えるよ!」
秋月が指差す向こうには、都会のネオンが闇夜を明るく照らしていた。
「おお……凄え……あ、こっちは海に浮かぶ客船のライトが見えるぞ」
「本当だ、凄い
人生で始めて見るゴンドラから望む都会の明かりやイルミネーションに、二人とも興奮を隠せない。
ゴンドラが観覧車の頂点近くになった時、座席に座ったまま半身になり、後ろの窓から景色を見ていた秋月が一際大きい驚きの声を上げた。
「うわあ! お城が見えるよ! ライトアップして凄い綺麗……」
その美しいお城は超有名大型テーマパークのアトラクションの一つだった。
秋月はライトアップされたお城の醸し出す幻想的な美しさに見惚れている。
俺はと言えば……お城に見惚れている秋月の美しい横顔を、息をするのも忘れ見入っていた。
お互い別の美しい対象に目を奪われ無口になり、ゴンドラ内は心地良い静かな時間が流れていく。
しかし、そんな静かな時間は突然のゴンドラの激しい揺れで打ち破られた。
「きゃあ!」
半身になり浅く座席に腰掛けていた秋月は、急な揺れに対応できず悲鳴を上げ座席から投げ出されてしまう。
その時、俺は考えるより早く身体が動いた。座席から身を乗り出し、咄嗟に手を広げ、秋月の身体を胸で受け止め、彼女を抱えたまま床に座り込んだ。
「秋月! 大丈夫か!」
俺の身体で受けた時に大した衝撃は無かったから多分大丈夫だろう。
「う、うん……だ、大丈夫……」
秋月は急なゴンドラの揺れで動揺している。声が震えていた。
「どこか打ったりしてないか⁉︎」
「……」
秋月は声を出さずに、頷くだけだった。怪我とかは無いみたいだが、かなり怯えている。
ゴンドラの外はビュービューと激しく風を切る音がする。恐らく突風でゴンドラが煽られたんだろう。しかも、最悪な事に観覧車が止まってしまった。
ゴンドラが強風に煽られ、ゆらゆらと今も揺れている。観覧車が停止した状況でユラユラと揺れるゴンドラは冷静を保っていた俺でも怖かった。怯えている秋月には恐怖だろう。
俺は秋月を安心させようと彼女の身体を抱きしめ頭を撫でる。彼女の髪の毛はサラサラで柔らかかった。
……ゴンドラ内のスピーカーから音声が流れきた。
『ただ今、強風の為に一時、観覧車の運転を停止しております。安全の為、慌てず座席に座り手摺りにお掴まり下さい。安全確認が出来次第、運転を再開致します。御迷惑をお掛け致しますが、今暫くお待ち下さい』
「強風で止まったみたいだ。たまにある事だろうから大丈夫だよ。すぐ動き出すよ」
俺の腕の中で怯えている秋月を安心させる為に、優しく語り掛けた。胸の中で頭を埋めている彼女はコクンと無言で頷いた。
恐怖で俺から離れようとしない秋月の温もりを感じる。シャンプーとは違う良い匂いがする。これが女の子の匂いなんだろうか……。彼女が強く抱きついているせいで、彼女の大きな胸の感触が……その……俺の胸に押し当てられているのを感じる。
秋月が怯えているせいで、こんなトラブルでも逆に自分は冷静を保っていられる。でも、その冷静な精神状態が災いし、この彼女に抱き付かれた状況で理性を保つのが精一杯だった。
そんな葛藤をしている内に、ゴンドラ内のスピーカーから運転再開のアナウンスが流れ、観覧車が運転を再開した。強風の為、運転速度を落として運転再開らしい。
「あ、動き出した。もう大丈夫だから安心だよ」
俺は優しく語り掛け、秋月を俺の身体から離そうとしてみたが、身体を硬直させた彼女は俺の胸に顔を埋めたまま離れる事は無かった。
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