第26話 これって水族館デート?ですか④
屋外展示から少し長めの薄暗い通路を進むと、水槽の光で暗い順路の一画が明るく照らし出されている場所に辿り着いた。
色とりどりの熱帯魚が小型の水槽を鮮やかな色で染めている。
「ねえ見て! 熱帯魚が寄ってきてるよ! エサでも貰えると思ってるのかな?」
水槽のガラスを秋月が指で突くと、熱帯魚が寄ってくるのが面白いらしく、指で上下左右と熱帯魚を誘導している。
鮮やかな色を放つ水槽の光が、無邪気にはしゃぐ秋月の横顔を美しく照らし、薄暗い館内で彼女は一際輝きを放っていた。
「ねえ! この水槽をバックに写真を撮ってもらおうよ!」
先程からスマホで写真を撮っていたが、自分も写真に写りたいと言い出した。
「分かった、俺が撮るから水槽の前に立ってくれ」
「何言ってんのよ。アンタも一緒に撮るのよ」
「え? 俺も一緒に写るの?」
「そうよ、折角なんだから一緒に撮りましょうよ。誰かに頼んで撮ってもらいましょ」
そういって俺の返事も聞かずに、近くに居た家族連れに撮影を頼み始めた。
「撮ってくれるって〜!」
家族連れの母親らしき人にスマホを渡した秋月が戻ってきた。それしにても、こういう時の彼女はフットワークがメチャクチャ軽かった。
「すいません、この水槽をバックでお願いします」
秋月が家族連れの母親に指示をだしている。
「ほら、アンタもこっちに来て」
水槽の前で秋月と並ぶ。恥ずかしいので、あまり近付き過ぎ無いないうに距離を取った。
「すいません、彼氏の方、もう少し彼女に寄り添ってもらえますか?」
「か、彼氏じゃありません! 友達です!」
秋月が真っ赤になりながら慌てて否定している。
「うふふ、照れちゃって可愛い彼女ね。ほら、彼氏の貴方が彼女の引き寄せてリードしないと」
秋月のスマホを持った家族連れの母親が、もっとくっ付けと指示を出してくる。流石に恋人同士でも無いのにこれ以上くっ付くのは……恥ずかしい!
それでも触れない程度にギリギリまで秋月に身体を寄せたところで、『じゃあ、撮りまーす』と家族連れの母親が合図を出してきた。
――パシャ!
「二人とも表情が硬いですよー。もう一枚撮ります!」
――パシャ!
「……うん、凄くキレイに撮れましたよ!」
返されたスマホを覗き込むと、色とりどりな熱帯魚が泳ぐ水槽をバックに、微妙に硬い表情の俺と、少し顔の赤い秋月のツーショット写真が鮮やかに写し出されていた。
「「ありがとうございました!」」
お礼の言葉を伝えると家族連れの母親が『お二人共お似合いですよ。初々しくて可愛い』とか言っていて、旦那さんに『おいおい、あんまり
「じゃあ、ライムで写真送るね」
秋月に送ってもらった写真を改めて見る……うん、自分の写真はあんまり見たく無いもんだな。彼女は写真に写っても美少女だった。
「アンタ、すごい表情硬いね。私の横で緊張しちゃいましたか〜?」
「お前だって顔が赤いじゃないか? 俺の横で赤くなっちゃいましたか〜?」
「こ、これは水槽の光が反射して赤くなってるんです!」
自分で墓穴を掘る秋月は面白いな。大介と同じくらい抜けてるんではないだろうか?
その後も『東京湾の海』とか『シベリアの海』とか色々な展示を、二人であーでもない、こーでもないと、まるでデートのようにイベントをこなしつつ、お土産コーナーを見て周り、順路を進むと一番最初の展示であった大水槽の前に戻ってきた。
どうやら全ての展示を一周すると元に戻ってくる構造のようだ。
「ここ最初の水槽のとこだよね。これで一周して終わりなんだ」
最初のガラス張りのドーム状の建物から入り、エスカレーターで降りた時に登りのエスカレーターも併設されていた。
水族館への出入口は、ガラス張りのドーム状の建物の一箇所だけの作りになっている。
「じゃあ、そろそろ出るか」
「そうね、海辺の方にガラス張りのレストハウスみたいなのがあったし、散歩しましょう。その後は……いよいよ観覧車よ」
「え? やっぱり観覧車乗るの?」
「当たり前じゃない。デートの締め括りは観覧車でしょう? それじゃなきゃ来た意味が半減しちゃうでしょ」
こうして水族館を堪能した俺たちは水族館を後にし、海辺を散歩し観覧車に乗る事となった。
ほんと、デートみたいだな……
水族館を後にした俺と秋月は、海浜公園の海岸近くにあるガラス張りのレストハウスから海を眺めたり、人工渚を散策し観覧車に向かう。
人工渚から観覧車に向かうまでは緑豊かな散策路になっており、途中の芝生の広場で少し休憩する事にした。
芝生の上に腰を下ろし、そのまま寝っ転がった。緑の香りがして心地良い。
「はあ……今日は色々と見て回ったね。ちょっと歩き疲れちゃった」
俺の横に腰を下ろし、座っていた秋月は大分お疲れのご様子だ。途中、休憩をしながらではあったけど、何時間も遊んでいたのだから疲れるのは当然だろうな。俺も少し歩き疲れた。
「結構歩いたもんな。それに……もう日が暮れてきたよ」
勾配のある芝生から見える水平線は、夕焼けでオレンジ色に染まり始め、もう一時間もすれば夜の
「本当……もうそんな時間なんだ……んー! 今日は楽しかった! 水族館も子供の時と違った楽しさで、本当に来て良かった!」
秋月はそう言うと、伸びをしながら腰を下ろしていた芝生に寝っ転がった。
「ねえ? 暗くなってから観覧車に乗らない? 観覧車から向こうのテーマパークのイルミネーションが綺麗に見えるらしいよ」
暖かくなってきたとはいえ、三月の夕方から夜に掛けてはまだ気温は低い。ここで寝転がってるのも気持ちが良いが、二人の薄着では風邪をひきそうだ。
「そうだな……でも、ここで一時間近く過ごすには少し肌寒いから、そこのカフェで時間潰すか」
「うん、そうだね。ちょっと温かいものが飲みたくなったかな」
「じゃあ行くか」
俺たちは夜まで時間を潰すため、公園内のカフェに移動した。
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