第32話 これって水族館デートですか?③

 休憩と軽食を済ませた俺たちは屋外展示に向かった。


「ん? アレ何だろう? ちょっと行ってみよう」


 低い横長の水槽が並んでいるのが目に留まった。


 「ふれあいゾーンだって。動物園のふれあいはモフモフした動物だけど、水族館のふれあいって……魚とかかよ!」


 ヒトデやナマコ、ウニとかが触れ合える様に展示されているが……ウニとか触っても平気なのだろうか?


「え? ヒトデとかナマコって……ウニとか触っても痛く無いのかな?」


 秋月も触れ合える生き物のレパートリーに驚いた様子だ。


「展示してあるんだから大丈夫なんじゃ無いか?」


「アンタ、ちょっと触ってみなさいよ。そうね……最初は……ヒトデかな」


「まあ……ヒトデくらいなら……触れない事もないかな?」


 俺は水槽の中に手を伸ばしヒトデに触れてみる。


「『水中から持ち上げないで下さい』って書いてあるから、気を付けなさいよ」


「うーん……固いな……思った以上に固い。なんかザラザラした触り心地だ。秋月も触ってみな」


 もっと柔らかいものを想像していたが、思った以上に固かった。


「え? 私も触らなきゃダメ?」


 秋月はヒトデに触れるのはちょっと嫌そうだ。


「折角の機会なんだから勿体ない。小説のネタにもなるぞ」


「そ、そうね、こんな機会滅多に無いし……ちょっと触ってみる」


 秋月は恐る恐る手を伸ばしヒトデに触れた。


「うん、固いわね。それ以外の感想は特に浮かばないわ」


 そう、固いのだ、それ以外に感想が思い浮かばない。


「秋月、次はナマコいってみようか?」


「ナ、ナマコはちょっと嫌かな……ブヨブヨしてそう……」


「ナマコに触れ合える機会なんて滅多に無いぞ。これで小説とか書いたら、リアルな描写ができそうだなあ。勿体ないなあ」


「ち、ちょっと触ってみる」


 コイツ……チョロいな。小説の為って言えば、何でも言う事を聞きそうだ。


「うーん……予想通りブヨブヨしてる。思ったよりヌルヌルしてないかな」


 秋月は意外と何でも触れるようだ。


「よし! 次は本命のウニいってみようか!」


「ちょっと! 何で私ばっかりなのよ! ウニはアンタが先に触りなさいよ! こういうのは男が触って安全を確認してから『触っても大丈夫だよ』って女の子に言うのが普通よ」


「わ、分かったよ。ウニは俺が先に触ってみるよ」


 流石にウニの刺に触るのは緊張する……もちろん怪我しないようなウニなんだろうけど。


「うん……まあ、チクチクするけど、触れる分には刺さる感じはしないかな? 安全なウニだろうから当たり前だけど」


 その言葉を聞いた秋月もウニに触れてみた。


「確かに毒があったり刺さったりする様な生き物が、ふれあいコーナーにいる訳ないもんね」


 ヒトデやナマコ、ウニなど珍しい生き物に触れ合え、満足した俺たちは、手洗い場で手を洗い次の展示に進む。




「ペンギンの展示で外は終わりか。屋外展示は少ないんだな」


 屋外展示は海の岩場の浅瀬を再現したゾーン、ふれあいゾーン、ペンギンゾーンだけのようだ。


「ねえ! アレってペンギンの子供かな?」


 秋月が小さなペンギンを指差しながら聞いてきた。


「ペンギンのヒナって、こう……茶色くて親よりも大きいイメージがあるけど……どうなんだろう?」


 展示エリアの柵に掲示してある展示の案内を見てみると……『ペンギンの子供ではありません。フェアリーペンギンです』と書いてあった。


「どうやらヒナじゃなくて、フェアリーペンギンっていう種類みたいだぞ」


「本当だ。わざわざ説明してるって事はヒナと間違える人多いんだろうね。……あ、そこから下に降りれるよ」


 ペンギンの展示エリアは一部が半地下になっており、ペンギンが水中で泳ぐ姿をガラス越しに見て楽しむ事が出来るようだ。


「ペンギンって地上じゃヒョコヒョコ歩いてて可愛いけど、水中だと凄いよね。ビューンて水中を進んで魚みたい」


 秋月が関心しながら水槽を眺めている。


「子供の頃水泳やってたんだけど、人間じゃフィンでも付けないとあんな早く泳げないよ。そう考えると水中の生き物でも無いのに凄いよな」


「へえ、アンタ水泳もやってたんだ?」


「まあ、通わされてただけて選手目指してた訳でもないから、人より少し泳げる程度だよ」


「アンタ、絵だけじゃなく実は色々出来るのね。私は……水泳はあんまり得意じゃないかなぁ。今は25メートル泳げるか分からないわ」


 ――じゃあ、今度教えてやるよ。


 なんて、一瞬口走りそうになったが、流石に水着になる水泳は容易には誘えない。そんな事を考えてしまうとは、どうも今日は調子が狂うな……秋月の魅力に当てられてるのかもしれない……と思うと複雑な気分だ。


「ねえ! 今度泳ぎを教えてよ! 温水プールならいつでも行けるし。ね?」


 俺の葛藤の壁を秋月は簡単にブチ壊してくる。今日、彼女と接してみて分かったんだが、彼女には警戒心のカケラも無いように感じる。信用されているのかもしれないけど、とにかく純粋で無邪気だ。


「そ、そうだな俺でよければ教えてやるよ」


「わ! やったあ! 海とかも行きたかったんだけど、あんまり泳げないから、ちょっと怖くて行くの躊躇ちゅうちょしてたんだ」


 これは夏に一緒に海に行くという、フラグが立ったという事でしょうか? いや、家族やクライスメイトの女子とかかもしれないし、勘違いしないようにしよう……


「じゃあ、練習して泳げるようにならないとな」


 秋月は――そうだね、いつ行こうかなぁ……とか言っている。


 実は俺もちょっとワクワクしている。秋月は人を楽しませるのも上手いようだ。……というか天然なんだろうけど。


 そんなドキドキしながら会話を続けている内に屋外展示は終了し、再び屋内へと順路に従って進む。

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