第20話 イラスト教室へようこそ!(友火Side)
私はスマホで、あるウェブサイトを検索している。
「あ、これかな?」
検索結果のリンクの一つをタップすると見覚えのあるウェブサイトが表示された。
「たぶん、ここね」
私は、アイツが通っているイラスト教室のウェブサイトを検索していた。
私は絵が描けないけど小説を書いている。一人で書いていると、この書き方が正しいのか本当に面白いのか分からなくなる。だから、読者からの感想は小説の良し悪しを判断する唯一の方法である、と言えなくもないと思う。
でも、その読者の感想というものが中々もらえない。そうなると面白い小説を書くには、習うのも一つの方法だと考えた。だからアイツに聞かされたカルチャースクールに興味が出て、調べているところだった。
アイツの通っているのは、イラストやマンガを描く人の通うカルチャースクールと言っていたが、小説やマンガの原作を執筆している人もいる、と彼は言っていた。ここなら絵を描かない私でも何か得られるかもしれない。
――色々なコースがあるわね……イラスト入門コース、マスターコース……へえ、マスターコースは人物とか背景の描き方とか別々のコースになってるんだ……シナリオのコースまである。
シナリオの書き方とか気になる。イラスト入門コースもちょっと気になる。全くの初心者から受講できるようだし。
――いや、ダメ。シナリオコースはマンガを描く事が前提になってる。絵まで描いてる余裕は無いわ。絵に関してはアイツに任せればいいかな。
教室のウェブサイトに『体験入学』の文字を見つけた私は、アイツを驚かす面白い案が浮かんだ。想像したら思わず笑みが溢れてしまう。
「あ、これだ! 木曜日のフリーコース」
ビックリカメラで会った教室の生徒の男性……山本さんって言ったっけ? とアイツの会話から木曜日に彼が教室に通ってる事は分かっている。
――アイツが通ってる木曜日のフリーコースに、私が体験入学で教室にいたらビックリするだろうな。
アイツの驚いた顔を想像してしまい思わずニヤけてしまう。
こうして私は、木曜日のフリーコースに体験入学を申し込んだ。
◇ ◇ ◇
体験入学当日、朝から私はアイツを避けるように行動していた。彼の顔を見ると、この後の事を考えてしまいニヤついてしまいそうだったから。実際ニヤニヤしてるのを見られて変な奴だと思れたかもしれない。
――アイツより先に教室行かないと。
放課後はホームルームが終わるなり私は、誰よりも早く教室を出て駅前に向かった。
スマホの地図を頼りに到着したのは古ぼけた雑居ビルだった。階段を上り、教室のドアを開ける。まだ開講前の時間だった為、事務机に座っていた関係者と思われる男性しかいない。
私は関係者らしき男性に恐る恐る声を掛けた。
「体験入学で来ました秋月です」
関係者と思われた男性は教室の講師で森山と名乗り、アンケートを書くように用紙を渡してきた。アンケートを記入していると他の生徒さんが集まって来る。教室に入ってくる生徒さん達が揃って横目でチラチラと私を見ていくのは気のせいでは無いと思う。見た事が無い人が居れば見ちゃうのは人の性だよね。
アンケートを記入しているとアイツが教室のドアを開けて入ってきた。
――ようやく来た! どんなアクションをするか楽しみ!
「……なぜ、お前がここにいる?」
驚きの表情を浮かべ、疑問を投げ掛けてきたアイツに向かって私は、こう答えた。
「今日は体験入学できました(ドヤァ)」
その時のアイツの驚いた顔ったら忘れられない。私が予想していた通りの反応に、してやったり! と私は拳を握り心の中でガッツポーズ。
こうして始まった体験入学だが、ここからが色んな意味で大変だった。
かっちーさんと呼ばれた年上の女性は私とアイツが恋人同士かのように吹聴して回り、夏原さんと呼ばれた女子中学生にも彼との仲を疑われ、彼を追い掛けて来たんじゃないかと
でも……よく考えたら……教室のウェブサイトを探して、彼の通っている教室の時間を調べて追い掛けて来た事には間違いなかった。そう思った途端に恥ずかしくなり、夏原さんに何も言い返せなくなってしまった私は、アイツにフォローをしてもらって事なきを得た。
そんなアイツは……可愛い子にカッコイイとか言われてデレデレしてた。なんか面白くない。夏原さんと呼ばれた中学生の女の子は、何でか分からないけど
色々あったけど、小説は森山先生に読んで頂いてアドバイスをしてもらえた。最近書き始めた小説のジャンルはラブコメで分からない事だらけだった。執筆の作法とかも教えてもらった。いかに自分が適当に書いていた事を知る事ができて体験入学に来て本当に良かったと思う。
かっちーさんが今後も色々と相談に乗ってくれると言うので、ライムトークの交換もした。アイツ以外に初めて創作仲間が出来たのが体験入学して一番の収穫。今まで一人で活動してきて創作の悩みは幾らでも湧いてきたけど、それを誰にも相談出来なかったのは結構辛かった。創作仲間……凄く良い響きだと思う。これからも仲間を大切にしていこうと思う。
そしてアイツは……一番最初の創作仲間であり理解者でもあり友達でもある。本当に大切にしなければいけない関係だとつくづく思う。『アンタの適当な感想は不要よ』なんて言っちゃったけど、本当はこれからも色々と相談に乗って欲しいと思ってます。照れ臭くて口に出しては言えなかったけど……
――こうして、波乱の体験入学は終了した。
教室からの帰り道、アイツにラブコメを書き始めた理由を聞かれた。でも……恥ずかしくて、とても言える訳がない。
だって……
――ラブコメを読んで胸がキュンと、ときめいてしまったから……なんて。
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