第26話 イラスト教室へようこそ!(後編)

 その容姿に見合った可愛い声と特徴的な語尾を伸ばす話し方で、彼女は自己紹介をした。


「神代です。よろしくお願いします」

「秋月です。私は体験入学で来ました」


 お互い挨拶を済ませたが、夏原さんはイスに座らず、ジーっと俺の顔を見ている。美少女に見つめられ、俺はちょっとドキドキしてしまう。


「神代さんの事は知ってますよぅ。絵が凄い上手い高校生の男子がいるってえ、他のクラスでも噂なんですぅ」


「え⁉︎ そうなの? 俺ってこの教室で有名なんだ……」


 どうやら、知らないところで俺は有名人になっていたらしい。


「だからぁ、会ってみたっかたんですけどぉ、今日は会えて嬉しかったでぇす。あとぉ、思ったよりもカッコイイですぅ」


 夏原さんは満面の笑みで、俺に会えて嬉しかったと言ってくれたのは素直に嬉しいけど……こんな美少女にカッコイイとか言われると照れる。


「ふーん……良かったじゃない。こんな可愛い子に慕われてて。学校じゃカッコイイなんて言われた事ないもんね」


 不機嫌そうな秋月が冷たく言い放つ。


 そんな様子を見ていた夏原さんは、俺と秋月の顔を交互に見た後、まさかの質問を俺たちに浴びせてきた。


「ところでぇ、お二人わぁ、恋人同士なんですかぁ?」


 ――ブッ! またこの質問かよ⁉︎ 即、反応したのは秋月だった。


「ち、違うわよ! コイツと恋人同士とか、な、何で最近、何回も聞かれるのよ!」


 それは、俺も秋月の意見に同感だ……春陽にも聞かれたが今日で何回目だ⁉︎


「夏原さん、俺とコイツはだたのクラスメイトで、付き合ってるとか無いから」


 ちゃんと否定はしておかないと、今後、教室でネタにされてしまう。


「そうなんですかぁ? でもぉ、普通は体験入学してまで、クラスメイトの男子を追っ掛けて来ないと思いますよぅ。そう思いませんかぁ? 秋月さぁん?」


 おお……秋月を煽ってるように聞こえるのは気のせいだろうか? この話を続けるのは何か良く無いと判断した俺は、どう答えて良いか分からず、オロオロし始めた秋月の代わりに答えた。


「秋月は小説を書いてて、先生にアドバイスが欲しいから来たんだよな?」


「そ、そうよ、べ、べつにコイツがいるから来た訳じゃないから!」


 かっちーさんに突っ込まれてた時もそうだったが、秋月を見てるとテンパっている時は論理的に話すのが苦手なんだなと思った。


「秋月もそういってるし、俺と秋月が付き合ってるとかそういうのは無いから、誤解しないで欲しいな」


 教室で変な噂を立てられても困る俺はキッパリと否定した。夏原さんは再び俺の顔をジーっと見つめてくる。


「分かりましたぁ。神代さんがそう言うなら安心ですぅ」


 何を安心したのかは分からないが、納得してもらえたようだ。それにしても……何で秋月にあんなに突っかかったんだろ?




 その後、各々は作業に戻り、秋月も先生と小説についてのアドバイスを受けたり、かっちーさんと話をしたりと、盛り上がっているようでひと安心だ。




「はあ……今日の教室はなんか疲れたな……」


 結局、今日は秋月の様子が気になって自分の作業は全然進まなかったな。


「冬人くん、さっきは大変だったねえ」


「かっちーさん……いや、本当にどうなるかと、ヒヤヒヤしましたよ」


「モテる男は辛いね〜、ひひ」


 意地悪く笑うかっちーさんだが……今日はもう、あなたに突っ込みを入れる気力も無いです。





 こうして、波乱の体験入学は終わりを告げ、俺は秋月と二人で駅に向かって歩いている。


「で、どうだった? 秋月は小説の事で聞きたい事は聞けたのか?」


 今日の教室は色々な邪魔が入って俺は全く作業ができなかった。秋月はちゃんと目的を果たせたのだろうか?


「ええ、色々とアドバイスしてもらえた。的確に悪い箇所を教えてもらえて、本当に役に立った。特に小説を書く時の作法とか教えてもらえたわ」


 秋月は、間違った小説の書き方をしてたんだと反省していた。


「で、今日は体験入学だったけど、今後、教室に通うのか?」


 秋月も体験入学をして、正式に通うかどうかの判断するつもりだったはずだ。


「ううん、やっぱり、あの教室は絵を描く人が通う教室だなって思う。……変わった人が多いけど良い人ばかりで楽しかった。でも……夏原さんは苦手」


 秋月と夏原さんは相性は悪そうだった。ま、教室に通わないなら関係ないけど。


「そうか、小説の事はよく分からないから、アドバイスはできないけど、相談ならいつでも聞くからな」


「かっちーさんが、いつでも相談に乗ってくれるって、ライムトークの交換したからアンタの適当な感想は不要よ」


 いつの間にかっちーさんと、そんなに仲良くなったんだろう?


「そーかよ、役立たずで悪かったな」


 確かに小説のアドバイスは出来ないけど、頼ってもらえないのも何か寂しいものがある。


「アンタには私の小説を認めてもらって、イラストを描いてもらう約束したでしょ? まだ見せられないんだから、仕方がないじゃない?」


「あーそうだったな。面白いの書いてくれよ。その時は俺も全力で描くからさ」


「うん、頑張る」


「で、どんなジャンル書いてるんだ? ジャンルくらい教えてくれてもいいだろ?」


 恥ずかしがってなかなか教えてくれなかったが、笑わないでよ? と、ひと言添えて教えてくれた。


「え、えーと……ラブコメ」


 異世界モノとかハーレムかと思ったが、秋月から聞かされたのは意外なジャンルだった。


「へー、ラブコメかあ、それは意外なジャンルだったな。また、何でラブコメなんだ?」


 俺の先を歩いていた秋月は、振り返り、後ろで手を組みながら、少し恥ずかしそうに笑顔で答えた。


「なんでって……それは……ひ・み・つ! だよ!」

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