第23話 三人の秘密

 翌朝、通学路を歩いていると見慣れた後ろ姿を見つけた。私のクラスメイトで親友の友火だ。


「友火、おはよう!」


 私は駆け寄り声を掛けた。


「春陽、おはよう。今日も朝から元気ね」


「そういう友火は今日、歌ってなかったね」


「べ、別に毎日歌いながら登校してる訳じゃないから! もう、あの時は本当に恥ずかしかったんだから思い出させないでよね」


 よく考えると、友火が鼻歌を歌いながら登校した日は、彼女が終始ご機嫌で、放課後に廊下での出来事があった。もしかしたら関係がある? 関係があるかもしれない。


「それで春陽、一緒に帰ろうって、前日にメッセージで誘ってくるなんて珍しいわね」


「うん、今日はどうしても友火とお話ししたかったから、かな?」


「ふうん、よく分からないけど、どこに行くか決まってるの?」


「ううん、何にも決まってないよ。友火はどこか行きたいとこある? 私は友火とお喋りできればどこでもいいよ」


 そう、私は友火に会って、話しができれば良かったから何も考えていなかった。


「もう、誘っておいて何も考えて無いなんて。帰りまでに考えておくから、春陽も考えてね」


「えへへ、ごめんね。私も考えておくね」



〜 放課後 〜 



 昨日は目が冴えてしまい、あまり眠れなかったせいで退屈な授業の中、眠気と格闘しながら何とかホームルームを終え、放課後を迎えた。


「で、春陽、どこに行くか決めた?」


 帰り支度を済ませた友火が、眠気で思考停止している私に声を掛けてきた。


「ゴメン、考えて無かった」


 授業中は眠くて、眠らないようにするので精一杯で、それどころでは無かった。


「なんか、凄い眠そうにしてるけど、今日は真っ直ぐ帰る?」


「ううん、大丈夫。もう目が覚めた」


「それならいいけど。とりあえず駅前まで行きましょう。行けば色々あるし」


「うん、分かった。じゃあ行こっか」



 友火がオススメの場所がある、との事でそこに向かう事になった。


「ねえ友火、どこに行くの?」


「春陽はビックリカメラに行った事ある?」


「ビックリカメラって家電量販店だっけ? 駅前にあるのは見た事あるけど入った事はないかな。友火は家電とか興味あったっけ?」


「私も最近、初めてビックリカメラに行ったんだけど、電気製品ばかりじゃ無くて色々あって面白いのよ」


 友火の話を聞きながら、目的のビックリカメラに向かった。到着し店内に入ると平日だというのに人で溢れていた。


「わあ、凄い人。今日、平日だよね?」


 私は平日だというのに、この混みようを見てどこから来たんだろうと疑問に思った。


「アイツが言うには、大量買いする観光客向けの品揃えにして、観光客を呼び込んでるとかどうとか、そんな事言ってたかな」


 そんな友火の説明の中に引っ掛かる言葉があった。


「アイツ?」


 胸がザワつく。


「あ、えと、アイツって神代くんの事」


 慌てて言い直す友火。


「冬人とここに来た事あるんだ?」


 私は友火に問いただした。


「うん、ここはアイツが買い物するっていうから、連れて来てもらったの」


 胸がチクリと痛む。やっぱり二人は私の知らないところで仲良くしていた。


「そうなんだ……」


 その後、店内を色々と見て回ったが私は上の空だった。


「春陽? やっぱり帰る? 調子悪そうだよ」


 友火が心配そうに私の顔を覗き込んできた。


「あ、ゴメン寝不足でボーっとしてた。でも、大丈夫だから。どこかで少し休憩しない?」


「じゃあ、上のフロアにカフェがあるから、そこに行きましょう」


 私たちは七階のカフェでドリンクを注文し、席に座りひと息ついた。


「もう、明日も会えるんだから、今日無理して来なくてもよかったのに」


 学校で毎日会えるのだから友火の云う事はもっともだ。でも……ハッキリさせたい事があったから、わざわざ前日に一緒に帰る約束までした。


「ねえ、友火」


 私は決断した。昨日、冬人は二人は付き合っていないと言っていた。でも、私の胸のモヤモヤは消えない。


「友火と冬人は付き合ってるの?」


 だから、友火にも冬人と同じ質問をした。


 ――ブッ!


 友火が飲みかけのドリンクを吹き出した。


「友火! 大丈夫⁉︎」


「ケホッケホッ! だ、大丈夫よ。一体なんの事よ?」


 昨日の冬人と全く同じ反応だった。


「言葉の通りだよ。二人は恋人同士なのかな? って」


 私は友火に、冬人にしたのと同じ質問をした。


「そんな訳ないじゃない。私とアイツが付き合ってるって、どう考えたらそうなるのよ?」


 友火も冬人と同じ事を言ってて少し笑ってしまった。


「ここにも二人で来たみたいだし、反省堂で見掛けた時も凄い仲が良さそうに見えたから」


 実際、恋人同士にしか見えなかった。


「そ、そんな風に見えてたのね……。あ、あの時はアイツが素直にならないから、つい……」


 友火の声が段々と小さくなっていく。


「それじゃあ、二人が付き合って無いって事で信じていいかな」


「ないない、付き合ってるなんて絶対無いから」


 友火は絶対に有り得ないと全力で否定している。


「うん、分かった。信じる。……それじゃあ教えてくれないかな? あの日、学校の廊下で何があったのか。あの日を境に友火と冬人は、仲良くなったように私は思うんだ」


 二人が付き合っていないと分かった今、残った最大の知りたかった事だ。


 私は友火の目を見た。そして友火も真剣な眼差しで私を見つめ返した。


 数秒の沈黙の後、友火が口を開いた。


「分かった。親友の春陽には教える。でも……笑わないでね」


「え? うん、笑わないよ」


 笑わないでって、どういう事だろう?


「私は趣味で小説を書いて小説投稿サイトに小説を投稿しているの」


 友火が小説を書いているなんて始めて知った。想像もしなかった趣味に少し驚いた。


「それで、私が書いている小説にファンアートを描いてくれた読者がいたんだけど……あ、ファンアートってイラストの事ね。で、それが偶然アイツだったって訳」


 最初はお互いがクラスメイトだとは知らなかったが、冬人が落としたイラストの下書きで、お互いにクラスメイトだと分かった、というのが廊下での事の顛末てんまつだった。

 友火が小説の趣味の事をクラスメイトには隠しておきたかったから、ああいった行動をしてしまったと友火は語った。


「プッ! あははは!」


 どんな話なのかと緊張して聞いていたが、まさかの真実に気が抜けてしまった。凄く悩んでいたのが何だかバカみたいに思えてきて、思わず笑ってしまった。


「もう、笑わないでって言ったのに!」


「ごめん、まさかの内容で思わず笑っちゃった。今度、友火の書いた小説読ませてね」


「ぜーーーったいイヤ! 恥ずかしい」


「でも、冬人は読んだんでしょう?」


「アイツには酷評されたわ。キャラクター以外は全部ダメって」


「大丈夫、今度は私がちゃんと批評してあげるから」


 友火は次の作品を書き始めているから、ある程度書けたら見せると、渋々承諾してくれた。


 今回は思い切って聞いてよかった。これで友火と冬人の二人だけだった秘密が、三人の秘密になった事が本当に嬉しい。


 だって……私は友火も、そして……冬人も大好きだから。

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