第21話 咲間春陽の憂鬱(前編)

「はあ、なんか集中できない」


 私はスマホを布団の上に放り投げベットに寝転び溜息を吐く。


 反省堂で冬人と友火の二人が、仲良く買い物をしている姿を偶然目撃してしまった。


 冬人が女の子と、あんな風に親しげにしているのは中学の頃から見た事が無い。友火もあれだけ人気があるのに、男子と親しげにしているのは見た事が無かった。


 学校で目撃した、廊下での一件以来あの二人の仲は急激に距離を縮めている。


 そんな事を考えていると何も手に付かなかった。


 さっき布団の上に投げ捨てたスマホを手に取りライムトークのアイコンをタップする。


 ライムトークの友達リストをスクロールし、友火の名前で一度止め、再びスクロールして冬人の名前をタップした。私は数秒間考えた後、メッセージを入力し冬人に送った。


『この前の約束覚えてる? 買い物に行こうって。明日の放課後に買い物付き合ってくれないかな?』


 メッセージを送った後、私はドキドキしながら返事を待った。


 五分、十分経っても既読が付かなかった。わずか五分、十分なのに長く感じた。


 ――はぁ……冬人の奴、今、何してるかなぁ。


 私は、冬人に想いを馳せベッドに横になった。


………

……


 一時間ほどしても既読は付かなかった。私は寝転んでいたベットから重い身体を起こし、立ち上がる。


「お風呂に入ろう。その間に返信があるかも」



 私は脱衣所で服を脱ぎ下着を洗濯機に放り込んだ。


 鏡に写し出された、一糸纏いっしまとわぬ自分の身体を見る。


 最近は胸も大きくなってきた。でも、友火はもっと大きい。


 髪を見た。私は癖っ毛でショートにしか出来ない。友火は綺麗なストレートで女の子らしい。


 顔を見た。私は垂れ目で子供っぽい。友火は美人で大人っぽいけど可愛い。


 彼女は完璧だ。


 敵わないなぁ……


 湯船に浸かった私は、顔を半分湯船に沈め溜息を吐いた。溜息は泡となって消えた。


 お風呂から上がり、部屋に戻った私はスマホの通知を確認した。


 『冬人さんからメッセージが届いてます』


 ――やった! 返信がきた。


 スマホの通知をタップしメッセージを開くだけなのにドキドキする。


『返信遅くなってゴメン。ベットでゴロゴロしてたら寝ちゃって気付かなかった。この前は付き合えなくて悪かったな。明日なら行けるよ』


 冬人からのメッセージをを読んだだけで、私はいままでの胸のモヤモヤが吹っ飛んだ気がした。そして直ぐに返信した。


『うん! 明日は一緒に帰ろう』


ここ数日間眠れぬ夜を過ごしてきたけど、今日はゆっくり眠れそうだ。



◇ ◇ ◇



 翌日の放課後、私は冬人と一緒に反省堂に来ている。あの日は冬人と友火と遭遇した事で動転し、何も買わずに帰ってきてしまったから。


 目の前で本を物色している冬人の後ろ姿を私は見つめている。


 背中広くなったし、背も高くなったんだ……


 中学の頃からの付き合いだけど、そんな事あまり気にしていなかった。冬人も成長して男の子から男性へと変わっていってる事に、今更ながら気付いた。


「ん? 何か気になるのか?」


 冬人が私の視線に気が付いた。


「あ、ううん、何でもない」


 彼の後ろ姿に見惚れていた事はとても言えない。


「そうか、で、欲しい本は見つかったのか?」


「うん、これ。冬人は何か欲しい本はあるの?」


 私は手に持っている本を冬人に見せた。


「うーん……今日は特に無いかな。春陽の買い物が済んだら、そろそろ帰るか?」


「うん、帰りにお茶して帰ろうよ」


 このまま帰ってしまっては今日、一緒に帰る意味が無い。大事な事を聞かなければならないから。


「そうだな喉も渇いたし、駅前にあるカフェに寄ってから帰るか」


「うん、そうしよう!」


 私は明るく振る舞いながらも、この後にどんな話を聞く事になるのか不安を抱いていた。

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