第17話 秋月友火の相談(前編)

 ビックリカメラの七階にあるカフェに移動した俺達はドリンクを注文し、ひと息ついた。


「で、相談ってなんだ?」


 俺は今日の目的である相談内容について切り出した。


「その前にさっきの話を聞かせてよ。イラスト教室とか言ってたでしょう?」


 秋月は興味があるらしく、相談より先に教室の事が聞きたいようだ。


「ああ、俺が通ってるのは、マンガとかイラストとかの描き方を教えてくれるカルチャースクールだよ。小学校の頃から通ってるんだ」


「へえ、小学校の頃から……どうりで絵が上手いと思った」


「幼稚園の頃から何か描くのが好きだったから、いつも何かしら描いていた記憶があるよ。で、小学校の高学年になってから、習い事として通わせてもらう様になったのが始まりかな」


「習い事といえば、ピアノとか水泳とか、最近はダンスなんかがあるけど、絵画教室じゃなくマンガ教室なんてよく通わせても貰えたわね」


 まあ、普通はそうだよな。でも、うちの両親はオタク趣味には寛容だし、自分の趣味を子供にも布教したかったんじゃないかな? と今は思う。


「両親のススメで通い始めたからね。でも、小学生向けのコースに通ってたけど、他にも生徒がいたから需要はあるんじゃないかな」


「へえ、良いご両親じゃない」


「うちの親は二人ともマンガとかアニメとか好きで、今でも観てたりするからなあ。俺を通わせたのも、ただ単に趣味? だと思うよ」


 秋月は理解のある親だと思っているが、それは違うな。ただ単に自分達の趣味を、子供にもやらせたかっただけだな。


「それで、教室って具体的にどんな事をしてるの? 塾みたいな感じかしら」


 秋月は興味があるらしく、事細かに質問をしてくる。


「例えば、人物の描き方とか、背景の描き方とか、テーマを絞って講義を受けるタイプのコースもあるけど、俺が受けているのは……うーん……集団個別授業っていうの? 各自、好きに描いてて、分からない事があったら先生に質問する、みたいな。先生が教室内を巡回してるから、先生が気になる箇所を指摘してくれたり、アドバイスしてくれたりとかね」


「要は、先生が教室に常駐してて、生徒は自習をしてるのね」

 

「そういう事」


「へえー、そういうの良いわね。私も小説を書いてて、どう表現したらいいか分からない時があるけど、アドバイスが欲しいなあって思う事が結構あるわ。小説の書き方なんて教えてもらうような物でも無いし、結局自分で調べて考えるしか無いんだけどね」


 文章と絵の違いはあれど、創作の苦しみは俺にもよく分かる。


「うちの教室には絵は全く描かないで小説を書いたり、シナリオを書いたり、台本書いたりしてる人もいるよ。中には両方書いてる人もいるけど。ほら、さっき会った山本さんは、小説とイラストの両方書いてるよ。プロで活躍してるマンガ家もいるし原作者もいるな」


 ……よく考えたら、うちの教室はアマチュアもプロもゴチャ混ぜだなあと思う。


「なんか色々な人がいて面白そう。ちょっと気になるかも」


 俺はスマホで教室のウエブサイトを検索し、秋月に見せた。


 秋月がテーブルから身を乗り出し、俺のスマホを覗き込んできた。彼女の整った顔が俺の顔に近づくと、彼女の髪の毛からフワリと良い香りがする。近くで見ても彼女はやはり可愛い。それに良い匂い。ああ、これはヤバイ。ちょっとドキドキしてきた。普段なんとも思っていないが、はやり彼女は学園一と名高い美少女であり伊達ではなかった。


「さすがマンガやイラストの教室のサイトだけあって、イラストがいっぱいあって可愛いわね。ちょっと見せてもらっていい?」


 俺のスマホを受け取った秋月は、「へー」とか「ほー」とか言いながら、興味深そうに教室のウエブサイトを見ている。彼女が離れてくれて俺はホッとした。あのまま彼女の近くで匂いを嗅いでたらヘンな気分になりそうだった。

 彼女は何事も無かったかのようにスマホでウエブサイトを眺めている。


「うん、講座の種類も多いし、授業料も安くて凄く良さそうな教室ね。この金額なら高校生でもアルバイトすれば通えそう。……そういえばアンタはアルバイトとかしてるの? 親に授業料は払って貰ってるとか?」


 その質問に、どう答えようか悩んだが話す事にした。


「ちゃんと自分で払ってるよ。アルバイトはしてないけど、絵を描いてお金を稼いでたりする」


 この話は本当に一部の人しか知らない話だ。両親以外では春陽と大介、誠士だけだ。この三人は信用できる友達だから隠さずに話している。色々バレてる秋月には今更隠す必要も無いだろう。


「え⁉︎ アンタ絵で稼いでるんだ? もうプロじゃない」


 そう言われてみればアマチュアとプロの違いが、お金をもらってるかで区別するなら、俺はプロだな。全然そんな意識は無いけど。


「イラスト制作の仕事を募集するサイトに登録してるから、たまに仕事の依頼が来るんだよ。こういうのをコミッションって呼んだりする。あと、PixitとかのSNSとかで投稿したイラストを見た人が直接依頼してきたりね」


「あれだけ上手に描ければ、依頼は受けられるわね。需要がどの位あるかは分からないけど。それで……今後もプロのイラストレーターとしてやっていくの?」


「それは分からないなあ。俺にとって絵を描く事は、お風呂に入ったり、歯を磨いたりする事と同じ感覚だから、将来それで生計を立てるとか想像も付かないよ。これから他に何かやりたい事が見つかるかもしれないしさ」


 そう、絵を描く事が生活の一部になり過ぎているので、それが将来に結びつくのか良く分からない。


「それもそうね。私たち、ようやく二年生に進級するところだしね」


 そう、今はまだ一年生なのだ。これから何をやりたいかをゆっくり考えていけば良いと思う。

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