第8話 秋月友火と反省堂で待ち合わせ

 放課後、当番の掃除が終わり片付けようとした矢先、後ろから聞き覚えのある声で替えを掛けられた。


 聞き慣れた可愛い声、振り向いた視線の先にはモジモジしながら何か言いたげな様子の春陽がこちらを見つめている。


「ね、ねえ、冬人、掃除終わったら帰りに買い物に付き合ってくれないかな?」


「あー悪い……この後約束があるから今日は無理だ」


「そっか……じゃあ、しょうがないね。今度付き合ってね」


「ん、分かった。ごめんな」


 春陽は秋月と仲良くしてるから一緒でも良いかな? と一瞬考えもしたが秋月は相談があると言ってたから春陽を連れて行く事は出来ないと判断し断った。

 寂しそうに立ち去って行く春陽を見てると、何となく悪い気がしてきたのは気のせいだろうか?



◇ ◇ ◇



 掃除を終え、学校を出て駅前の反省堂に向かっている途中、スマホにライムのメッセージが届いた。『四階にいるわ』との秋月から待ち合わせ場所のメッセージだ。『分かった』とひと言返信し急いで反省堂に向かう。


 到着した反省堂は大規模な店舗であり、四階も結構な人混みであったが秋月はすぐに見つかった。彼女のその優れた容姿は人混みの中でも人目を惹き、その一角を華やかに染めていた。


「よう、待たせたな」


「あら、早かったわね」


「待たせちゃ悪いと思って急いで来たからな」


「私は本屋が好きだし何時間でも居られるから大丈夫だったのに」


「それ、分かる! 俺も家電量販店とか何時間でも居られるからな」


「男子は電気製品とか好きよね。私は見てもよく分からないし、何時間も居られないわね」


「でも、最近の家電量販店は本屋も入ってるし、外国人観光客向けなのか雑貨も売ってるし、文房具売り場も広くて品揃えも多いから画材を買いに行ったりするよ」


「へえ、そうなの? 面白そうね。機会があったら行ってみるわ」


「それなら……駅の反対側にビックリカメラがあったろ? あるんだけど後で行ってみるか?」


「面白そう! これを買ったら行ってみましょうか」


 そう言って、秋月が掲げた小さな買い物カゴには、露出の多い大胆な衣装の可愛い女の子のイラストが描かれた購入予定らしいラノベが数冊入っている。タイトルは見えないがパッと見た感じ異世界モノだろう。


「相変わらず異世界モノ好きだな」


「いいじゃない好きなんだから。それにしても……表紙を見ただけでジャンルが分かるなんて……いつもエッチなイラストを描いてるだけの事はあるわ。流石ね」


 あんな大胆な衣装を着た女の子の表紙のラノベは大体は異世界モノなので、絵だけ見れば大体分かるのだが……それって、褒めてないよね?


「秋月……お前はどうしても、俺がエッチなイラストばかり描いてる事にしたいらしいな」


「あら? そうじゃないの? でも、こういうの好きでしょう?」


 買い物カゴから一冊のラノベを手に取り見せてくる秋月。その表紙に描かれたイラストの女の子は可愛らしくてオッパイも大きくて嫌いじゃない。いや、むしろ好きだ。が、好きと言える訳がない。学園一の美少女を前に、『イラストの美少女が好きです!』なんて言えとか、どんな罰ゲームだよ。人によってはご褒美かもしれないが、俺には羞恥プレイの趣味は無いです。


「いや、それは……」


 俺がどう答えていいか言い淀んでいると――


「ハッキリしないわね。私は好きよ。そういうイラスト。だって可愛いじゃない。私は可愛い女の子のイラストを見てるのが楽しいし好き。でも、自分で描けないから小説で書いてるの」


 ハッキリと言い切る秋月は潔くてカッコイイが、美少女の彼女の口から『可愛い女の子が好き!』とか言われると百合な感じがして『相手は誰だろう? やっぱり仲が良い春陽かな? あの二人ならアリだな』とか思わず、いけない想像してしまったのは内緒だ。


「何か変な事想像してない?」


「え? いやいや何もいやらしい事なんて考えていません。俺も可愛い女の子は好きです! もちろん可愛い女の子のイラストを描くのも好きです!」


 秋月の鋭い指摘にドキッとしながらも誤魔化しつつ、彼女の潔さにならってヤケクソ気味に答えた。


「何かいやらしい想像してたでしょ……でも、そうやって可愛い女の子を描くのが好きとかハッキリ言い切られるのも何かキモいわね……」


「正直に答えたのにヒドイ言われようだな!」


「ほら、やっぱり好きなんじゃないエッチなイラスト描くの。そうやって……え?」


「これ持ってて!」


 秋月が手に持っていた買い物カゴを押し付けてくる。いや、押し付けるというより打撃に近い勢いで押し付けてきた。


「ぐふぉ!」


 買い物カゴでみぞおち付近に打撃を受け、思わずむせてしまう。


「ゲホッ! ……おい⁉︎ 急に何すんだよ!」


 咳き込みながら向かい合っている秋月に苦情を言うが、彼女は俺の顔を見ていなかった。彼女の視線は別の方向に注がれていた。


 ――なんだ?


 秋月の視線の先を、むせながら振り向くと俺の目に飛び込んできたのは見慣れた制服を着た、よく知っているショートヘアの女子の姿だった。


「春陽⁉︎」


 秋月が春陽の名前を呟くと、俺たち二人の存在に気付いた春陽が振り向いた。


「冬人……? それに友火……? なんで二人がここに……」

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