第7話 秋月友火からのお誘い

 先日の教室での一件で、お互いが身バレしてから数日が経ち、イラストは“異世界ハーレム“の挿絵として無事公開され、小説の更新も滞りなく続いている。


 自室で日課である絵の練習をしていたところ、“めざし“に一通のダイレクトメールが届く。差出人は“フレンドリー・ファイヤ“つまり秋月からだ。


 そういや、メッセージが来るのはファンアートを描いた時以来だな……えーと……相談があるから明日の放課後、学校の外で会えないか? か……まあ、放課後に用事は無いし別にいいかな。

 あ、そういや明日掃除当番だっけ? 掃除当番で遅くなっても良いならオッケーと速攻で返信した直後、即返事が返ってきた。


『じゃあ、先に駅前の反省堂で買い物してるから、掃除終わったら来て』


『了解』と一言だけ返信する。


 ――反省堂ってあのデカイ本屋か……って、何階あると思ってるんだよ。あの広い売り場で簡単に見つけられそうも無いな……まあいいや、なんとかなるだろ。


 秋月の大雑把な待ち合わせの約束だったが気にしない事にした。



◇ ◇ ◇



 翌日の昼休み、素早く昼食を済ませ、いつものようにクロッキー帳を開いて絵の練習をしている。大体は大介が邪魔にし来るから短時間しか練習できないけど。


「アンタ、いつも昼休みに何か描いてるわね」


 後ろから肩をチョンチョンと突かれ、集中していたせいか俺は身体をビクッと震わせ振り向くと、そこにはいつも練習の邪魔しに来る大介では無く覗き込んでくる秋月の姿があった。


「ごめん、驚かしちゃった?」


「あ、ああ……秋月か。絵を描くのは日課になってるからなあ……教室じゃあ何でも描ける訳じゃないけどな」


「さすがにいつも描いてるエッチなイラストは教室で描けないわね」


「……俺がいつもエッチなイラストばかり描いてるみたいじゃないか」


「あら? 違うの?」


「秋月……お前とはちゃんと話し合う必要がありそうだな。……で、わざわざそんな事を言いに来た訳じゃないだろ?」


「今日、待ち合わせで連絡を取るのに“めざし“のダイレクトメッセージだと面倒だから、LimeTalk(ライムトーク)のID交換しましょう。やってるでしょ? ライムトーク」


 ライムトークとは今時の高校生ならほぼ百パーセント、スマホなり携帯にインストールしているメッセージアプリだ。スマホなら無料通話もできるので貧乏な高校生には必須のアプリだ。


「ああ、やってるよ。反省堂で待ち合わせとかどうすんのかと思ってたところだよ。じゃあ、俺がQRコード表示するから登録しといて」


「……ん、登録したわ。学校終わったら先に行ってるから待ち合わせ場所は後でアンタに送るわ」


「おう、よろしくな。……ところで、いつから俺の呼び方が“アンタ“になったんだ?」


「なんか“アンタ“が一番シックリくるのよね。神代くん……冬人くん……呼び捨て? アンタ……うん、やっぱりアンタは“アンタ“が一番呼び易いわね」


「はあ……まあ好きに呼べばいいよ。“冬人くん“とか呼ばれたら逆に何か背中がゾワゾワして鳥肌が立っちゃうかも」


「そうそう、アンタは“アンタ“で十分よ。じゃあ、また後でね」


 何が十分なんだかよく分からないが、お互いID交換も済ませ、後でね、と立ち去って行った秋月と入れ替わりに、血相を変えた大介が詰め寄ってきた。


「おいおいおいおい! なんだよ冬人、秋月と仲良さそうに何話してたんだよ⁉︎ ライムIDの交換もしてただろ? クラスの連中から注目浴びてたぞ」


 大介の奴、よく観察してるな……女子が絡むと本当に面倒臭い奴だな。


「あ、ああ……ライムIDの交換したけど、そんなに目立ってた?」


「神代と秋月のやりとりは、確かにクラス中の注目を浴びてた事は間違い無いな」


 大介の後ろで、事の成り行きを見守っていた誠士が大介の代わりに答えた。


「目立ってたというか羨望……嫉妬? そんな感じの眼差し? あーちくしょう! 俺だってまだ交換してないんだぞ! 羨ましいぞ冬人! それにしても、いつの間に秋月と仲良くなったんだよ?」


 大介の奴、これだけ女好きなのに秋月とは連絡先交換してないんだな。真先に交換してるかと思ってた。


「あー、ちょっとしたキッカケがあってだな……」


「何だよキッカケって? ハッキリ教えろ! いや、教えてください!」


 ハッキリと言えないので適当に誤魔化そうと思ったが、大介が食い下がってくるので鬱陶しい事この上ない。


「誠士! 大介をどうにかしてくれ!」


 困った時の誠士頼り。誠士なら上手く収めてくれるだろう。


「ライムIDなら俺も秋月と交換してるぞ。それがどうかしたか?」


 さすが誠士……自分に矛先を向ける事で大介の気を俺から逸らすとは、素晴らしい自己犠牲の精神! 誠士のヘイトを稼ぐ作戦は成功し、大介の標的は誠士へと移った。


「なん……だと……?」


 誠士が友火とライムIDの交換済みである事に大介は衝撃を受けたようだ。往年の国民的人気マンガのネタとなってるセリフを素で言ってる奴は初めて見たかも。


「誠士……いつの間に……誠実が売りのお前まで女子とライムIDの交換なんて不埒な事をしてたとは……」


「去年の文化祭で秋月がクラスの実行委員だった時に、クラス委員の俺と連携を取りやすいように交換したんだが……不埒とは失礼だな」


「はっ⁉︎ その手があったか! だが……もうすぐ春休みで二年になってしまうと、同じクラスになれるかどうか分からんし……失敗した! 俺も委員やればよかった!」

 

 相変わらず女子の事となると熱くなる大介が鬱陶しい事この上ない。


「下心丸出しで不埒なのは大介、お前の方じゃないか。つーか普通に秋月に聞きに行けよ」


「いや……それは恥ずかしいし……ハードルが高い……」


「大介……お前、結構ヘタレだよな。見た目はチャラいのに」

 

 コイツ、本当に見た目だけだなと呆れてるとイケメンメガネ男子こと誠士がフォローしてきた。


「そう言うな神代。柳楽やぎらは純粋なんだよ。見た目は関係無い」


「そうだ、俺は純粋に女子と仲良くしたいだけだ! 特に秋月! クラスの女子の中でも圧倒的なバスト! あれはたまらんよなあ」


 大介も黙ってれば、長身だし雰囲気イケメンくらいにはなれそうなんだが……


「まあ、柳楽は放っておけ。ああなったら暫くは止まらん。そのうち興奮も収まるだろう」


 誠士が云うように、大介が見た目通りのチャラくて軽薄な奴では無く、良い奴だって事は勿論知ってるし、チャラくしてるのにも理由がある事は知っている。ロクな理由じゃ無い事は本人の今の発言で分かるだろうけど。


 こうして秋月とのライムID交換の件は有耶無耶にして事なきを得た。

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